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第六章 新教会のお披露目
197 崩れてこないといいけど……
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ベニは平時ならば見惚れるほどの美しい笑みを浮かべていた。ただ、ここでも数人は陶然と見惚れていたが、次に感じた寒気が正気に戻す。
「あんたら、覚悟は出来てんだろうねえ」
コウヤが見たら、極道の妻的なものに見えていただろう。
「女一人だ! やれ!」
司教らしき人物が指示を出す。それは明らかに悪役のセリフだ。だが、それに従って彼らが足を踏み出す前に、ベニのメイスは数人を薙ぎ払っていた。
「ぐべっ」
「がっ」
「ふぶっ」
壁や床に叩きつけられて思わず出てきたそんな声を聞く。今回の用心棒達は、特に怪我をしているわけではない。司教達と一緒に甘い汁を吸ってきたのだろう。そう思えば、手加減などする気はなくなった。
ベニはメイスを振り回しながら、ポチリと柄にあるボタンを押した。
すると鉄球が外れ、鎖が伸びて行く。廊下で振り回せられるくらいの長さに調整して止めると、それを振り回しながらベニは飛んだ。ベニは、もうこのコウヤ特製のメイスを使いこなしていた。
「ほりゃあっ」
その掛け声と共に、目一杯の力と遠心力を込めた鉄球が床と壁を抉った。これに巻き込まれた数人からは、呻き声さえ聞こえなかった。
「おっと、殺してはマズイんだったねえ」
息もしていないことに気付いたベニは、急いで治癒魔法を加減して発動させる。完全に治す気はない。これにより、いっそ殺してくれと思うほどの痛みに耐えねばならなくなるが、どうでもいい。気付けにでもなるだろうという軽い気持ちだ。
そうして、蘇生しろというように蹴り飛ばした。これを見れば、誰も教会の大司教だとは思わないだろう。
「ぶはっ」
「ぐふ……っ」
「危なかったねえ」
生き返って何よりだと、満足げにベニはまた鉄球を振り回し始める。それが、高価な花瓶を容赦なく叩き割り、その欠片が用心棒や司教達に降りかかる。
「ぎゃあぁぁっ」
「ひっ、痛いっ」
「目がぁぁっ」
そんな声も気にせず、ベニは彼らをなぎ払った。
「煩いよ。ちょっと切れただけさね。腕や足を切り飛ばされたわけでもなし、大げさだよ」
逃げようとする神官達も巻き込まれ、用心棒達の勝利を信じて疑わなかった司教達は床や壁にめり込んだ。
「息をしてるなら問題ないね」
それらだけは確認しながら、ベニは嬉々として破壊を楽しんでいた。
◆ ◆ ◆
コウヤが降りていった階段は短かった。ということは、高さはないということ。
天井まで二メートルと少しだ。そのせいで、上の音がよく響いた。ベニが暴れる音だ。
「……天井、崩れてこないといいけど……」
ちょっと心配になったコウヤだ。音の具合からいくと、間違いなく床はボコボコだろう。そして、時折聞こえるパリンという高めの音は、高そうな大きな花瓶や、彫刻の割れる音ではないだろうか。
「せっかく綺麗だったのに……」
最初から諦めてはいたが、残念なことには変わりない。
その地下にあったのは、牢だった。少々、血生臭い匂いと、獣の匂いがしているなとは思っていた。だが、教会にまさかとは思う。
牢には人が入っていた。両側に並ぶ鉄格子の牢。一つの部屋に五人ほど。右手の手前に入っているのは、小さな子どもだった。寒そうな布の袖もない服が一枚。カタカタと震えていた。
「っ、どうして……」
彼らは、腕や足がなかった。傷口はきちんと治癒魔法で塞いであるのだろう。化膿しているというようには見えなかった。だが、それでも、そのままこんな所に置いておいていいというわけではない。
「待ってて、今出してあげるっ」
コウヤが牢の扉に手をかけようとした時、後ろの左手側の牢にいる男達が声を上げた。
「やめろ! その子らは、ここで治療を受けてんだっ」
「……どういうことですか?」
「っ……」
明らかに劣悪な環境。その上、牢に入れられているという状況。これのどこが、治療を受ける場所だというのか。
低くなった声に気付かないまま、コウヤは男達を睨みつけるようにしてゆっくりと歩み寄り、尋ねた。
そんなコウヤの迫力に負け、男達は座り込んだ状態のまま怯えた表情でコウヤを見上げる。よくよくみると、彼らには足が片方なかった。それに気づいて、何気なく隣の牢へ目を向ける。そこには、片腕のない男達が入れられている。
「症状別だとでも……」
余計に苛立った。そして、再び男に目を向けると、彼はゴクリと唾を呑み込み、口を開いた。
「ここにいるのは、司教様方に命を助けられた怪我人だ。傷口を、そのままにしてたら俺らは死んでいた……数日に一度は、痛みがないように治癒魔法をかけてくれるんだ……だから、俺らはここから出ちゃいけねえ。外に出たら、怪我が悪化しちまうんだ」
「そう思わされているのですね?」
「……いや、だってよ……」
「そう思わされているんですよ。そうでなければ、怪我人をこんな所に閉じ込めたりしません」
彼らはおそらく、司教達の実験の被験者だったのだろう。治療魔法の質が落ちている現状で、傷口の再生までできるかどうか。ついでに治癒魔法のスキル上げのための道具でもあったのだ。
「だ、だってよ……逆らったら、治癒魔法をかけてもらえなくなって……死んじまったんだ。だから……」
「少し診ますよ」
「へ?」
コウヤはあっさりと牢の鍵を開けて、中に入ると、男の前に膝をついて傷口に触れた。
「これは……治癒魔法をかけ過ぎてるのか……魔力耐性が付いてる……」
「……えっと……? ぼっちゃん?」
そのままコウヤは男の顔や目を覗き込み、触れ、診察を行う。ついでに鑑定もかけた。
「何年、ここに居ますか?」
「え、いや……分かんねえ……」
「歴は覚えてます? 怪我した時の」
「あ~……確か……」
答えたのは、今から二年も前だった。
「やっぱり……暗視スキルが高いですからね……他の皆さんも、二年はここに居るのでは?」
「あ、ああ……後ろの二人とかは、俺より前から居る……」
「そうですか……とりあえず、あなたはコレを飲んでください。体力回復薬です。あっちの人は治癒魔法をかけられていたからまだ症状があまり出てないですけど、栄養が全く足りてませんね。何より、筋力がかなり落ちてる」
「いや、でも……」
「皆さん、ここから出ましょう」
「ダメだっ」
今度は後ろの壁に寄りかかって、動けないでいる男性だ。彼は、衰弱が一番激しい。
「なぜです?」
「お、俺らは司教様方に生かされてる……それに、治療魔法をかけてもらってたんだ……出るには、その分の金が必要になる」
「要りませんよ。司教達なら、今頃上でボロボロになってます。うちの大司教が怒ってましたから。何より、あり得ないんですよ。治療魔法を対価にしたとしても、こんな場所に人を閉じ込めるなんてこと……神は絶対に許しません」
「っ……!」
強い意志が、コウヤから放たれる。これに男達は慄いた。
人の自由をこんな風に奪っていいわけがない。何より、治癒魔法の対価を盾にするなどあってはいけない。
「まずは、体を綺麗にしますね」
そう言って、コウヤは言葉を失くした全ての人に浄化をかけた。不快な臭いも一気に消える。
「テンキ」
《はい、主さま》
呼べば、ひょいっとテンキは空中から一回転して現れて着地した。
「少しの間、ここに居て」
《承知しました》
コウヤはユースールに転移した。人目に付かないよう、薬屋とギルドの間だ。すぐにゲンさんの所へ向かう。
「ゲンさん!」
「お? ん? コウヤ? もう帰ってきたのか?」
「うん。ちょっと裏技があって。それで、お願いがあるんです。これから、講堂に怪我人を運ぶので、診て欲しくて。地下に長く閉じ込められていた人たちで、栄養状態も悪いんです。それと、治癒魔法を何度もかけられていたせいで魔力耐性が付いてしまっています」
「ほぉ。まあ、いい。わかった。講堂だな。人数は?」
「全部で三十人くらい。子どももいます」
「なに!? わかった。おい、教会に行って人手を集めてこい! ナチ。用意しろ」
研修中の神官が一人、教会に走って行き、ナチが治療道具を一式集めてくる。
「講堂は暗幕を下ろしておきます。明かりは一番弱くするので」
「ああ。なるほど。地下に長いこと居たなら、明る過ぎるのはまずいか。わかった。敷物はあるんだったか」
「はい。緊急用のマットで寝かせておきます」
「わかった。俺らもすぐに行く」
コウヤは、講堂に転移してそれらを全て用意すると、王都へ戻った。
「お待たせ。テンキは、彼らをユースールの講堂に転移させて。マットを敷いてあるから、そこに寝かせてくれる? 暗幕は取らないでね。明かりもそのままで。全員寝かせたら、ゲンさんたちが来るまで見てて」
《承知しました》
テンキは一気に牢の中に居た者たちを転移させた。
「さてと……残ったのは……」
奥にある鉄の扉。その先には、また鉄格子の牢があった。そして、そこには鎖で四肢を固定された獣達。傷付けられ、放置されている。血の匂いが充満した空間だ。
「……解剖してたのか……」
中には、人の死体もあった。
辛うじて息をしている獣達を、コウヤは一気に治癒魔法で癒す。それでも、弱った体を完全に回復させることは出来ない。
そこにベニが、駆けつけたらしい城の騎士達を引き連れてやってきた。
「これは……あやつら、えらいことをしてくれたねえ」
ベニの呟きを聞いて騎士達が覗き込む。牢に残された血などの痕を見て、彼らは表情を険しくしていた。
************
読んでくださりありがとうございます◎
三日空きます。
よろしくお願いします◎
「あんたら、覚悟は出来てんだろうねえ」
コウヤが見たら、極道の妻的なものに見えていただろう。
「女一人だ! やれ!」
司教らしき人物が指示を出す。それは明らかに悪役のセリフだ。だが、それに従って彼らが足を踏み出す前に、ベニのメイスは数人を薙ぎ払っていた。
「ぐべっ」
「がっ」
「ふぶっ」
壁や床に叩きつけられて思わず出てきたそんな声を聞く。今回の用心棒達は、特に怪我をしているわけではない。司教達と一緒に甘い汁を吸ってきたのだろう。そう思えば、手加減などする気はなくなった。
ベニはメイスを振り回しながら、ポチリと柄にあるボタンを押した。
すると鉄球が外れ、鎖が伸びて行く。廊下で振り回せられるくらいの長さに調整して止めると、それを振り回しながらベニは飛んだ。ベニは、もうこのコウヤ特製のメイスを使いこなしていた。
「ほりゃあっ」
その掛け声と共に、目一杯の力と遠心力を込めた鉄球が床と壁を抉った。これに巻き込まれた数人からは、呻き声さえ聞こえなかった。
「おっと、殺してはマズイんだったねえ」
息もしていないことに気付いたベニは、急いで治癒魔法を加減して発動させる。完全に治す気はない。これにより、いっそ殺してくれと思うほどの痛みに耐えねばならなくなるが、どうでもいい。気付けにでもなるだろうという軽い気持ちだ。
そうして、蘇生しろというように蹴り飛ばした。これを見れば、誰も教会の大司教だとは思わないだろう。
「ぶはっ」
「ぐふ……っ」
「危なかったねえ」
生き返って何よりだと、満足げにベニはまた鉄球を振り回し始める。それが、高価な花瓶を容赦なく叩き割り、その欠片が用心棒や司教達に降りかかる。
「ぎゃあぁぁっ」
「ひっ、痛いっ」
「目がぁぁっ」
そんな声も気にせず、ベニは彼らをなぎ払った。
「煩いよ。ちょっと切れただけさね。腕や足を切り飛ばされたわけでもなし、大げさだよ」
逃げようとする神官達も巻き込まれ、用心棒達の勝利を信じて疑わなかった司教達は床や壁にめり込んだ。
「息をしてるなら問題ないね」
それらだけは確認しながら、ベニは嬉々として破壊を楽しんでいた。
◆ ◆ ◆
コウヤが降りていった階段は短かった。ということは、高さはないということ。
天井まで二メートルと少しだ。そのせいで、上の音がよく響いた。ベニが暴れる音だ。
「……天井、崩れてこないといいけど……」
ちょっと心配になったコウヤだ。音の具合からいくと、間違いなく床はボコボコだろう。そして、時折聞こえるパリンという高めの音は、高そうな大きな花瓶や、彫刻の割れる音ではないだろうか。
「せっかく綺麗だったのに……」
最初から諦めてはいたが、残念なことには変わりない。
その地下にあったのは、牢だった。少々、血生臭い匂いと、獣の匂いがしているなとは思っていた。だが、教会にまさかとは思う。
牢には人が入っていた。両側に並ぶ鉄格子の牢。一つの部屋に五人ほど。右手の手前に入っているのは、小さな子どもだった。寒そうな布の袖もない服が一枚。カタカタと震えていた。
「っ、どうして……」
彼らは、腕や足がなかった。傷口はきちんと治癒魔法で塞いであるのだろう。化膿しているというようには見えなかった。だが、それでも、そのままこんな所に置いておいていいというわけではない。
「待ってて、今出してあげるっ」
コウヤが牢の扉に手をかけようとした時、後ろの左手側の牢にいる男達が声を上げた。
「やめろ! その子らは、ここで治療を受けてんだっ」
「……どういうことですか?」
「っ……」
明らかに劣悪な環境。その上、牢に入れられているという状況。これのどこが、治療を受ける場所だというのか。
低くなった声に気付かないまま、コウヤは男達を睨みつけるようにしてゆっくりと歩み寄り、尋ねた。
そんなコウヤの迫力に負け、男達は座り込んだ状態のまま怯えた表情でコウヤを見上げる。よくよくみると、彼らには足が片方なかった。それに気づいて、何気なく隣の牢へ目を向ける。そこには、片腕のない男達が入れられている。
「症状別だとでも……」
余計に苛立った。そして、再び男に目を向けると、彼はゴクリと唾を呑み込み、口を開いた。
「ここにいるのは、司教様方に命を助けられた怪我人だ。傷口を、そのままにしてたら俺らは死んでいた……数日に一度は、痛みがないように治癒魔法をかけてくれるんだ……だから、俺らはここから出ちゃいけねえ。外に出たら、怪我が悪化しちまうんだ」
「そう思わされているのですね?」
「……いや、だってよ……」
「そう思わされているんですよ。そうでなければ、怪我人をこんな所に閉じ込めたりしません」
彼らはおそらく、司教達の実験の被験者だったのだろう。治療魔法の質が落ちている現状で、傷口の再生までできるかどうか。ついでに治癒魔法のスキル上げのための道具でもあったのだ。
「だ、だってよ……逆らったら、治癒魔法をかけてもらえなくなって……死んじまったんだ。だから……」
「少し診ますよ」
「へ?」
コウヤはあっさりと牢の鍵を開けて、中に入ると、男の前に膝をついて傷口に触れた。
「これは……治癒魔法をかけ過ぎてるのか……魔力耐性が付いてる……」
「……えっと……? ぼっちゃん?」
そのままコウヤは男の顔や目を覗き込み、触れ、診察を行う。ついでに鑑定もかけた。
「何年、ここに居ますか?」
「え、いや……分かんねえ……」
「歴は覚えてます? 怪我した時の」
「あ~……確か……」
答えたのは、今から二年も前だった。
「やっぱり……暗視スキルが高いですからね……他の皆さんも、二年はここに居るのでは?」
「あ、ああ……後ろの二人とかは、俺より前から居る……」
「そうですか……とりあえず、あなたはコレを飲んでください。体力回復薬です。あっちの人は治癒魔法をかけられていたからまだ症状があまり出てないですけど、栄養が全く足りてませんね。何より、筋力がかなり落ちてる」
「いや、でも……」
「皆さん、ここから出ましょう」
「ダメだっ」
今度は後ろの壁に寄りかかって、動けないでいる男性だ。彼は、衰弱が一番激しい。
「なぜです?」
「お、俺らは司教様方に生かされてる……それに、治療魔法をかけてもらってたんだ……出るには、その分の金が必要になる」
「要りませんよ。司教達なら、今頃上でボロボロになってます。うちの大司教が怒ってましたから。何より、あり得ないんですよ。治療魔法を対価にしたとしても、こんな場所に人を閉じ込めるなんてこと……神は絶対に許しません」
「っ……!」
強い意志が、コウヤから放たれる。これに男達は慄いた。
人の自由をこんな風に奪っていいわけがない。何より、治癒魔法の対価を盾にするなどあってはいけない。
「まずは、体を綺麗にしますね」
そう言って、コウヤは言葉を失くした全ての人に浄化をかけた。不快な臭いも一気に消える。
「テンキ」
《はい、主さま》
呼べば、ひょいっとテンキは空中から一回転して現れて着地した。
「少しの間、ここに居て」
《承知しました》
コウヤはユースールに転移した。人目に付かないよう、薬屋とギルドの間だ。すぐにゲンさんの所へ向かう。
「ゲンさん!」
「お? ん? コウヤ? もう帰ってきたのか?」
「うん。ちょっと裏技があって。それで、お願いがあるんです。これから、講堂に怪我人を運ぶので、診て欲しくて。地下に長く閉じ込められていた人たちで、栄養状態も悪いんです。それと、治癒魔法を何度もかけられていたせいで魔力耐性が付いてしまっています」
「ほぉ。まあ、いい。わかった。講堂だな。人数は?」
「全部で三十人くらい。子どももいます」
「なに!? わかった。おい、教会に行って人手を集めてこい! ナチ。用意しろ」
研修中の神官が一人、教会に走って行き、ナチが治療道具を一式集めてくる。
「講堂は暗幕を下ろしておきます。明かりは一番弱くするので」
「ああ。なるほど。地下に長いこと居たなら、明る過ぎるのはまずいか。わかった。敷物はあるんだったか」
「はい。緊急用のマットで寝かせておきます」
「わかった。俺らもすぐに行く」
コウヤは、講堂に転移してそれらを全て用意すると、王都へ戻った。
「お待たせ。テンキは、彼らをユースールの講堂に転移させて。マットを敷いてあるから、そこに寝かせてくれる? 暗幕は取らないでね。明かりもそのままで。全員寝かせたら、ゲンさんたちが来るまで見てて」
《承知しました》
テンキは一気に牢の中に居た者たちを転移させた。
「さてと……残ったのは……」
奥にある鉄の扉。その先には、また鉄格子の牢があった。そして、そこには鎖で四肢を固定された獣達。傷付けられ、放置されている。血の匂いが充満した空間だ。
「……解剖してたのか……」
中には、人の死体もあった。
辛うじて息をしている獣達を、コウヤは一気に治癒魔法で癒す。それでも、弱った体を完全に回復させることは出来ない。
そこにベニが、駆けつけたらしい城の騎士達を引き連れてやってきた。
「これは……あやつら、えらいことをしてくれたねえ」
ベニの呟きを聞いて騎士達が覗き込む。牢に残された血などの痕を見て、彼らは表情を険しくしていた。
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