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第六章 新教会のお披露目

194 それで治療したですって……?

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ベニが腫れ上がって目を十分に開けることもできなくなった六十頃の男を引きずって部屋から出てきた。肩には愛用のメイスを担いでいる。

その時、部屋の扉から少し離れた廊下には、武器を納めた強面の男達が綺麗に横二列で並んで正座していた。

情けなく背中を丸めた男達の前で、コウヤが懇々とお説教をしている。

「いいですか? 元冒険者というのでしたら尚のこと、一般人に殺傷能力の高い剣などを向けてはいけません」

これは最低限のルールですよと優しく諭す。今回の場合、コウヤやベニが一般人かと問われれば答えに詰まるが、そこは気にせず横どころか後ろに置いておく。視界に入れる気はない。因みにコウヤが振り回した鎖付きのトゲトゲ鉄球も後ろに放置している。

「俺は最初、武器は持っていませんでしたよね? あなた方が武器を向けたからこちらも抜いたのです。どうしてか分かりますか?  はい、そこのあなた」

コウヤはしょんぼりしながらも、頷きこちらを見ていた片目の男を指名する。

「あ、えっと、自己防衛……」
「そうです。身を守るためには武器を構えますね。それでこういう・・・・ことになってしまいました」

とっても残念な結果ですねと肩を落として見せれば、男達は申し訳ないと泣きそうな顔になる。顔は怖いが根は優しいらしい。

「どうすれば良かったと思いますか? そちらの双剣のあなた」

次に指名した彼には、削ぎ取られたように片耳がなかった。強面の顔が更に凄みを増しているが、コウヤには落ち込んで反省する人にしか見えない。

「ぶ、武器を向ける前に話し合えば良かっ……た?」
「その通りです。もちろん、それが出来る相手かどうかは見極めてくださいね。冒険者としてやっていたなら、冷静になればそういった事を察することはでしょう?」
「「「「「はい!」」」」」

子どものように素直な返事が返ってきた。本当にすみませんと揃って頭も下げていた。コウヤはそれに満足げに頷く。

それから理解してくれて嬉しいというように、ニコリと笑って両手を叩いた。

「分かってもらえて良かったです。皆さんもお仕事だったのでしょうが、話し合いで解決できるなら、なるべくそちらを選んでくださいね? 怪我をするのは嫌なことだと、あなた方は特に知っておられるでしょう?」
「……はい……」

集められていたのは、怪我をして冒険者を引退するしかなかったという男達ばかりだった。

顔や体が火傷や毒で爛れてしまっている者。片目が見えなくなっている者。片足や片腕がなく、お粗末なただの木の棒のような義足、義手を付けている者。

コウヤとしてはなぜそのままの状態で教会にいるのかという疑問が湧いてくる。完治はさせられなくとも、治癒魔法でもっと状態を軽くしてやることは出来るはずだ。何より、棒だけの義足と義手には眉をひそめた。お粗末過ぎる。

はっきり言ってしまえば、明らかに治療に失敗した者たちにしか見えなかったのだ。真実そうであると彼らの話で分かった。

「でも、俺たちには、ここの司教様たちに、拾ってもらった恩がある……」
「そのお怪我は、治療されなかったのですか?」
「あ? いや、高い治癒魔法を使ってもらって、ようやく俺らはこうして生きてるんだ……怪我は治らなくても、命を助けてもらった。その治療代はこうして……」
「……それで治療したですって……?」
「っ……」

低くなった声に、男達がびくりと肩を震わせた。

そこにベニが第一司教らしき男を引きずったまま近付いてきた。もうそれが自然だというように、メイスは担いだままだ。ベニには鞄か何かなのだろう。

「こいつらの治癒魔法なんて、止血するのが精々だ。加護が吹けば飛ぶほどに弱まっているよ。上げるべき光属性と水属性も司教を名乗ってるこいつらでさえレベル三だね。仮にも加護を貰っている者としてはカスだよ」
「「「え……」」」

男達はベニの告げた言葉をゆっくりと自分たちの中に落とし込んでいく。把握し、目を見開いて引き摺られている第一司教と倒れている第二司教へゆっくりと目を向けた。

「まったくもってお粗末な治療さね。それを恩に着るとは、あんたら相当お人好しだねえ」
「「「「「……」」」」」

ベニが呆れたように肩をすくめたことで、はっきりと理解したらしい。彼らの目には、怒りの色が瞬き始めていた。このままでは彼らは司教達に手を上げるだろうと思われたその時、コウヤの呑気な声が重くなった空気を吹き飛ばす。

「やっぱりね~。見習いの子どもが手当てしたのかと思ったよ。こんな大怪我してる人たちにそんな子を当てないといけないほど人手不足になる状況があったのか、とか色々考えちゃった」
「あ、あのっ、なら、俺ら……」
「うん? あ、そうですねえ。治癒魔法の代金代わりに体で返してるんですよね? なら、俺たち基準だと……うん。堅パン一つくらいなので、肉体労働で換算すると、庭の草取り十五分でしょうか」
「そうさね」
「「「「「……」」」」」

絶句していた。

痛みもまだあるのだろう。そんな中で荒事を任される。それも長い者で一年は居るという。怪我から来ている体の不調も、最早おかしいと感じないほどの時間が経っていた。

「せ、せめて他の奴の治療代の請求に行くとか……?」
「そうだぜ。草取りとか……それも十五分……何本抜けるんだ?」
「けど、なら俺らって……」

コソコソと彼らが話し合っている間、ベニが司教から聞き出したことなどを話してくれた。

「こやつ、大した魔法も使えんくせに、大げさに恩に着せて、その代償として娘とかは部屋に連れ込んでおったようやわ。今回、中におった女達は、あの子らのように怪我をして生活できなくなった者達だったよ。傷モノやと言って貶めながら、手篭めにしとったわ」
「その人たち、大丈夫なの?」
「それを思って、こやつを先に出してきたんよ。来とるか?」

ベニが、誰もいない後ろに向かって問いかけると、そこに白夜部隊の者が二人現れた。よく似た風貌の少年と少女。彼らは双子らしい。見た目の年齢は十五、六だ。

「吊るしますか?」
「見せしめにしますか?」

微笑みながら告げ、歩み寄ってくる。ベニから司教を預かり、転がっているもう一人の司教も猫の子のように釣り上げると、判断を仰ぐようにベニをまっすぐに見つめた。

「そうさね。城に報告したら吊るして見せしめにしよか。クズとカスは要らんし、報告を上げとる間に中の仕分けしとき」
「「お任せください」」

そう言って二人は、サッと司教ごと姿を消した。仕分けとは、この教会内の者をと言うことだ。救いようというか、再利用できるかどうか。それを判断するように指示を出したのだった。

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二日空きます。
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