元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第六章 新教会のお披露目

191 試練なものですか

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コウヤは密かにリウムと名乗った司教に感心していた。その目は正しくベニの胸元で光る四円柱に向いているのだ。そう、魅力的な胸ではなく、四円柱そのものに向かっている。

よくよく彼を見ることにした。

背は高いが細い体付き。恐らく、体質ではなく食事の問題だろう。年齢は三十頃に見える。だが、鑑定をすれば、実年齢は三十九。童顔らしい。

疲れが見える目元と白く見える顔色が、イケメンといえるはずの彼の顔を煤けて見せていた。本来の顔色に戻り、肉が付けば二十代と言っても不思議ではないものになるだろう。

そして、どうやらコウヤが見る限り、彼は魔法薬中毒だった。治癒魔法を使い過ぎているのだろう。その回復を図ろうと魔力回復薬を飲み、更に日常的に体力回復薬まで飲んでいるのではないだろうか。

薬はどんなものでも飲みすぎは良くない。あまり日常的に使うと、体にも耐性が付く。薬を飲まなくては回復しなくなるだけでなく、薬の効き目も落ちてくるようになる。そうして、回数を増やしていくのだ。

慢性化している様子の彼には、最早他の薬も正常に作用しなくなっているはずだ。

そうして、コウヤがリウムを観察している内に、ベニは教会を建てることや、場所が比較的近いことなどの話をしていた。

「そのような新しい教会が建つ……という噂を聞かなかったのですが……そうですか。承知しました。ですが、この話を上に伝えますと、その……」

声を落としたリウムに、構わずベニがズバリと切り込む。

「邪魔が入るかい? だが、既に工事は始まっておるでね。かなりの人も周りには集まっておるで、そうそうおかしなことはできないだろうよ」
「え……いや、ですが……工事中は周りに人なんて……」
「集まっとるよ? まあ、連れてきた大工は変わっておるでね。腕も文句無しの一流。時間もそれほどかからん」

一般的な大工の印象は悪いのだ。だからこそ、建設中に事故が起きても、大工が悪いと思われる。周りも迷惑でしかないため、もしその妨害の現場を見ていたとしても擁護しない。

そんな事情で、王都にはこの神教国の教会だけが存在しているのだ。もちろん、密かに隠れて他の神教を信仰している者はいるが、それらは驚異には思っていないのだろう。眼中にないのだ。

「……教会となれば、工期にそれなりの時間はかかりますでしょう。そうなりますと、色々と手を考えて……」
「七日で何ができるん?」
「……なのか……?」

完全に理解できていない顔だ。日にちに思えなかったのだろう。虚ろな目になってきているのも問題だった。ちょっと危ない気がする。

先ほどから彼がわざわざこちらの心配をしてくれている思いの裏には、助けて欲しいというメッセージが感じられていた。

コウヤは見ていられなくて、膝の上でキツく握られ、微かに震える彼の手を取った。

「大丈夫ですよ。落ち着いてください。お茶を淹れましょうね」
「え、あっ、申し訳ありません。お茶もお出ししないとは……っ」
「慌てないで。落ち着いて。ここには今、誰も入って来ないようにしてあります。それと、盗聴の類いも効かなくしましたから、先ずは肩の力を抜きましょう。ね?」
「っ……は……ぃ……」

コウヤの声は不思議と緊張して力を張っている人を楽にする。素直に背中を丸め、ソファの背もたれに身を預けたリウム。それを確認して、コウヤは亜空間から水筒とティーカップを三つ取り出す。それぞれのカップに注ぎ終えると、リウムとベニに差し出した。

「フルーツティーです。少し甘めで美味しいですよ」
「あ……いい匂い……いただきます」

ゆっくりと匂いを楽しみながら温かいそれを一口飲む。すると、彼の目元が少し和らいだ。

「っ……美味しい……」
「これはいいねぇ。美容にも良さそうだ!」

普段から肌に気を使うベニの喜びようはすごかった。

「良かった」
「っ……」

コウヤが満足げに微笑めば、リウムは頬を赤らめた。顔色が少し良くなったように見える。

彼は半分くらい飲むと、そっとカップをテーブルに置く。肩の力も抜けたようで、自然な様子に見えた。そして、ベニへ目を向ける。

「『聖魔教』について教えていただけませんか?」
「構わないよ。魔工神コウルリーヤ様がこの度この世界に戻られたことで、聖魔神様となられた。その名を広める意味と、聖魔神様を愛されている創造神様、武神様、女神様の全ての神々を共にお奉りする新しい神教だよ」

リウムはベニの話を静かに聞いていた。だが、次第にその瞳に力が宿っていくのが分かった。

そうして、話が終わると頭を下げた。

「どうか、私も『聖魔教』に入れていただけないでしょうか……お恥ずかしい話ですが、こちらの教義や神官の行いに納得出来ず……これも神から与えられた試練と思い、今日までここで向き合って参りましたが……私の心が弱いばかりに……っ」

悔しいとその表情は物語っていた。涙も滲んでいる。これに声をかけたのは、扉の側で待機姿勢を取っていたテンキだった。

《そのように自身を卑下する必要はありません。私の目から見ても、あなたが神へ真摯に向き合っていることは分かります。このような所にいることが試練なものですか》

テンキは少し呆れているようだ。その場所から、教会内を探っているのには気付いていた。

《調べておりましたが、この教会……上があまりにも俗物過ぎており、下にも蔓延したため、神の目も届かない……最早、教会と呼ぶのもおこがましい場所に成り果てているようです。主が許可をくだされば、俗物と化した愚か者もまとめて消し去ってみせますが》
「っ……」

どうやらテンキは静かに怒っていたらしい。立ち上がり、小さい姿ながらも毛を全て逆立てる様子からは殺気が漏れはじめていた。

「ダメだよ。テンキ」
「それでは私らの楽しみが無くなるわい」
《はっ! 残念ですが、今回は控えます》
「……っ」

怯えるリウム。ここで今更ながらに、テンキが喋るのに驚いたらしい。

「は、話が出来るのですか……っ、あ……っ、眷獣様……っ……!?」
《目は確かなようですね》

真っ直ぐに射抜くようにリウムを見つめていたテンキは、そっとまた待機姿勢を取って、コウヤとベニの方を向いた。

《何名か、彼のような清廉な気を持つ者が残っております。俗物に侵される前に保護すべきと具申いたします》
「本人の意思は尊重しないと」
《はい。なので、私が行って話して参ります》
「いいかもねえ。姿を見えないようにも出来るようだし、頼もうか」
「そうですね。あ、隠密行動で頼むよ?」
《承知いたしました。では、少々こちらでお待ちください》

そうして、するりと扉を器用に開けて出て行くテンキを見送ったのだった。

***********
読んでくださりありがとうございます◎
メリークリスマス!
もうすぐお正月ですね。
お年玉は是非『図書カード』で(笑)

では次回、三日空きます。
よろしくお願いします◎
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感想 2,775

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