元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南

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第六章 新教会のお披露目

190 趣味が悪いねえ

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ベニに続いてコウヤは教会の中に入っていく。しかし、奥へ行く程に嫌悪感が増すのはどうしたことかと首を捻った。それは、コウヤだけが感じているわけではなかったようだ。

「嫌な感じだねえ……」
《気持ち悪いです。とても神を奉る神殿とは思えません。主、外に出ませんか?》
「まだ来たばかりだよ。この嫌な感じが何なのか知りたいし」

原因が何かを知れるならば知っておきたい。いざという時のためだ。悪いものだったら困る。

《主がそう言うのでしたら、全力で主とベニ様だけは死守致します》
「本当? ありがとう」
《いえ。主のためならば何だってできますので》

誇らしげに胸を張って宣言するテンキ。それを頼もしく思いながら、コウヤとベニは先導する神官を追った。因みに、この会話は聞こえていないはずだ。

「こちらで少々お待ちください」

部屋は、貴族用の応接室なのだろうか。見るからに高価な調度品が並べられていた。

「すごい所に案内されたね」

コウヤはベニと、こちらも高そうなソファに腰掛ける。ふわふわ過ぎて座りにくい。

「趣味が悪いねえ」
「貴族用ならこんなものじゃない?」
「いいや、恐らくだが、貴族用じゃないね。これは一般用だよ。金があるんだねえ」
「そうなの?」
「ああ。ユースールの教会も、同じような感じだったよ。治療した者達から巻き上げたもので潤っているようだね」
《なんと、そのようなことを? 嘆かわしいっ。それでも神に仕える神官ですかっ》
「そこんところ、はっきり言ってやらんとねえ」

嫌な感じだ。コウヤの持つ教会のイメージとはかけ離れていた。もしや、ここへ来る途中で感じ始めた嫌な感じはこれだろうかと部屋を見回した。

「そういえば、ベニばあさま。ここって、ベニばあさま達が所属してた神教国の教会だよね? 大丈夫なの? 戻れって言われない?」

ベニ達は神教国では地位を持たなかった。力があることが分かっていても、教国はそれを許さなかったのだ。

事あるごとにベニ達とは意見が対立していたらしく、嫌われ者になっていた。立場や地位を重んじる教国は、ベニ達を司教どころか、司祭にもしなかったのだ。それで押さえつけられると思っていた。

だが、ベニ達は既に世界と神が認めた最高位の聖職者だ。誰にもそれを変えることはできない。

「きちんとあの教会から出ることは表明したよ。その了承の返書も手元に来ている。問題ないさね」

抜かりはないようだ。こういう場所に来ることも考え、常にその返書も持ち歩いているらしい。教国は、厄介者扱いしていたベニ達が抜けると聞いて『その手があったか!』と気付き、あっさり許可を出したのだという。

追放することもできたはずだが、ベニ達の『大神官』と『大巫女』の称号と職業が問題だった。本来、主神殿にはその称号を持った者がいるべきなのだ。その『居るべき』という力が働き、追放するという考えが浮かばないようになっていた。

ベニ達の方にも出て行くという選択が頭になかったのは『教会に大神官や大巫女は居るべき』という力がベニ達にも少しは働いていたためだ。だが、ベニ達はユースールで神殿を手に入れた。ベニ達が居る所が主神殿になったのだ。

よって、この時点でベニ達は神教国から離れても構わないという状態になったというわけだ。もちろん、そんな力が働いていたということには神教国もベニ達も気付いてはいない。

知っても、何事も『神の御意思』で済ませられるので構わない。

「まあ、新しい教会を作って、そこの司教になるとは考えなかっただろうけどねえ。かなりの人数の神官が抜けて、こっちに流れ込んできているんだが、教国は気付いていないようだしね」

気付かれないうちに、地盤を固めようと計画していたベニ達だ。ルディエ達がいて、情報操作ができないはずがない。そうして、まんまと知られる前にこの国の王へも認めさせることができたというわけだ。この時点で、教国は口を出すことができなくなった。

「あ、でもここではどうするの? 名乗ったら伝わるでしょ?」
「寧ろ、そろそろ知ってもらわんと困るわ。自分たちが潰される側に回ったとね」
「あ~……」

ベニは黒い笑みを浮かべていた。美人な顔は凄みが違う。

神教国は、自分たちの神教こそが唯一のものだとしていた。もちろん、他の神教もそう思っているだろう。だが彼らは、唯一だと信じるだけで手を出したりはしない。

そう。神教国は手を出すのだ。世界で唯一の神教になるために、武力行使も厭わない。それでも、中にいる敬虔な信徒達には、エリスリリアが加護を与えたりする。これは個人の資質。決して神教国を優遇しているわけではない。何より、そうした敬虔な信徒を主神殿に攫っていくのだからどうする事もできない。

治癒魔法は、死に近い生活を送る世界で、必要なものなのだ。エリスリリアも、最近はなるべく神教国よりも先に他の神教の者に保護されるように考えていたりする。だからこそ、現在の治癒魔法使いの減少に繋がっているのだ。

「狩る側から狩られる側に回るのは、どんな気分だろうねぇ」
「う~ん。そうだね~……」

老婆の頃と変わらず、ベニは『ひっひっひ』と笑っていた。楽しそうだ。絶対に邪魔をしてはいけない。

《私も微力ながら協力させていただきます。このような場所が教会であると認識されるのは我慢なりません!》
「頼もしいねぇ」
《ご期待ください!》

なんだか燃えていらっしゃる。今日はストッパー役が誰もいないなと呑気にコウヤは考えていた。

そこへ、ようやく司教がやってきたようだ。

「お待たせして申し訳ない。私がこの王都西教会の司教、リウムと申します」

案外、まともなのが出てきたというのが、第一印象だった。

「ここの代表司教ではないね?」
「っ、よくお分りに……はい。第三司教です。代表である第一司教は……その……来客中でして」
「はっ、大方、女でも連れ込んでいるんだろうね」
「な、なぜっ……っ」

本当らしい。リウム司教もマズったという表情をしていた。

「はははっ。ここの第一司教はゲルズだろう? 噂は聞いてるよ。相手も知らず、顔を出すほど呑気ではないからねえ」
「っ……」

もう、既にベニの独壇場だった。

「そう警戒するでないよ。ただ、挨拶に来ただけさね。ああ、名乗っていなかったね。主神殿はガルタ辺境伯領都ユースールにある。『聖魔教』大司教のベニだ。先日、王都に新しく教会を建てることになった。その挨拶だよ」
「『聖魔教』……?」

そう呟いて、リウムはベニの胸元で鈍く光る四円柱を見つめて目を見開いたのだ。

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