女神なんてお断りですっ。

紫南

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連載

408 その糸の先には

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2016. 5. 10
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サクヤの呟きを受けて、ウルスヴァンも確認する。

ベッドの下には、金に輝く魔法陣が小さく描かれていたのだ。

「これが連糸結界れんしけっかいの魔法陣……」

ウルスヴァンは、その存在を知ってはいても、実際に見たことも、利用した事もなかった。古い文献での知識しかなかったのだ。

「ティア。どういうことなの?」
「……」

サクヤに問われたティア。しかし、ティアは先ほどからその魔法陣を見つめて動きを止めていた。

理由はその魔法陣から感じられる魔力の波動だった。

「キルじぃちゃん……」

信じられないものを見るような目で魔法陣を見つめていたティア。呟いたのは無意識だった。

そして、更に涙が頬を伝っていた。

「ティア⁉︎」

いつの間にか傍に来ていたルクスが。 驚いてティアへ駆け寄る。

「ティア。どうしたんだ⁉︎」

そんなルクスの声など、ティアには聞こえていなかったのだ。今は一刻も早く、確認したかった。

だから、ティアは、どこへともなく呼びかけた。

「……てきなさい……出てきなさい、カランタ。ここは何? なんでここにキルじぃの結界があるのっ?」

連糸結界は、かつてキルスロートが得意とした魔術だった。その術式は、細かく細部まで計算されており、他の魔術師達では再現が不可能だと言われた。

だからこそ、これは勘違いではなく、キルスロートの仕掛けたものだと確信が持てた。何より、ティアがこの波動を忘れる筈がない。

そこへ、カランタが現れた。

「ごめん……」

部屋の入り口に、淡い光を纏って立ち尽くすカランタから告げられた一言に、ティアは問い掛けるような目を向けて続きを待った。

これを受けて、カランタが衝撃の事実を告げた。

「……言うか迷ってたんだ……ここはね。キルスロートの屋敷だったんだよ」
「……キルじぃちゃんの……」

ティアはキルスロートの屋敷のあった場所など知らない。キルスロートは魔術師長で、王宮に部屋もあった。屋敷がある事を失念していたのだ。

「キルスロートが居なくなってからも、彼の弟子達がこの屋敷を維持してた。でも、長い時間の中で、なぜ維持しなきゃならないのかって理由もわからなくなって、結界の意味も忘れられたらしいんだ」

この連糸結界は、施された物の位置が重要になってくる。屋敷の維持とはすなわち、全ての物を動かす事なく、術を守り続ける為の措置だったのだ。

「……何を守ってたの……」

結界は主に、隠された場所の鍵の役割を果たしている。隠し部屋が見つからないように、結界で鍵をしているのだ。

その隠し部屋に隠された重要な何か。キルスロートが守っていた物だ。バトラール王国に関わるものだろう。それが何なのか知りたかった。

ティアの問いかけに、カランタが苦しげに顔を顰め、やがて呟くように告げた。

「……『バトゥールの神鏡』……」

それを聞いた時、ティアの心臓が跳ねた。予想はできなくはなかった。それでもそうであって欲しくなかったのだ。

「……あの後……城跡から発見されたんだ。それを、キルスロートが密かに回収して、ここに隠したんだよ……」

静かに、ゆっくりとベッドが床に下ろされる。それは、ティアが術を解いたからだ。

動揺しなかったわけではない。ティアは混乱する頭を、必死で制御していた。

ティアは既にカランタへバトラール王国が持っていた神具が今も何処かにある事を聞いて知っていた。

兄である第一王子のレナードが消そうとしていた神具。レナードは、それを焼滅させたと安心して眠りについた。

しかし、神具はその後発見され、ここに保管されたという。

ティアはもう一度屋敷全体を感じ取る。細部にまで意識を集中し、残された手がかりがないかと必死だった。

「落ち着いて。君になら分かると思うんだ」

そうカランタが声を掛ける。それがなぜか心に響いた。すると、かつてのキルスロートの言葉が聞こえた気がしたのだ。

「……一番北の角部屋……」
「え?あっ、そ、そうだ……確か、城でも部屋はそこが落ち着くからって……」

ティアとカランタは、揃って駆け出した。向かったのは、一階の北の端。ここは恐らく、キルスロートの自室だ。

そんな二人を一度は呆然と見送ったサクヤが、思い出したと叫びながら追いかけてきていた。

「北の部屋はダメよっ。開けてはいけないって」

施設を利用するに当たり、それだけは守らなくてはいけない規則だったようだ。

しかし、そんな事は関係ない。寧ろ、なぜ開けてはいけないのかという理由も、ティアとカランタには分かっていたのだ。

ティアは部屋の鍵を躊躇なく開けた。

「ちょっと、ティアっ」

焦って声を掛けるサクヤなど目に入らない。ティアとカランタは部屋へ飛び込んだ。

不自然に動かされた様子のベッドや家具。ここでも連糸結界はその役目を果たさなくなっていた。

「動かされた跡がまだ新しい……やっぱり奴ら……っ」

カランタが堆積した埃を見て悔しそうな表情を浮かべた。

一方ティアは、静かに部屋の右側へと歩いていく。そして、絨毯を静かにめくり上げた。

そこにあったのは、床板が不自然に小さく区切られた場所。

「その床……扉になってるんだね」
「うん。この床板も、ここにある小さな鍵穴も、術が正常に機能してたら見つけられないはず」
「開けられる?」

ティアはその鍵もあっさり開けてしまった。すると、ゆっくりと地下への階段が現れる。

ティアは、すかさず中へと入ろうとした。だが、そこでサクヤが抱きとめるように止めたのだ。

「待って、ティアっ!」
「っ……サクヤ姐さん……」

ようやくここで、ティアは部屋の扉の前で心配そうに覗き込む仲間達に気付いた。

「お願いティアっ……」
「なんっ……」

サクヤの必死な様子に、ティアは目を見開く。そして、サクヤはこれ以上は行かせないとでもいうように、ティアをきつく抱きしめたのだ。


************************************************
舞台裏のお話。

ラキア「戻りましたよ」

マティ《ただいま~》

フラム《キュ~ゥ》

アリシア「あ、お帰りなさい。お夕食の用意も整っていますけど、先にマティさんはお湯を使います?」

マティ《うんっ。先ずはうがいと手洗いと、体を洗って、ブラッシングっ》

ベティ「でしたらすぐにお湯を……」

火王  《マティは私が》

ラキア「毎回ありがとうございます。よろしくお願いいたします」

火王  《構わない。フラムも》

フラム《キュキュゥっ》

ラキア「はい。いってらっしゃい……それで、珍しく静かですね。兄さん達」

ユメル「そ、そうかな……」

カヤル「いつものことでしょ……」

ラキア「……アリシアさん、ベティさん。よく主導権を握りましたね。それでこそ伯爵家のメイドです」

アリ・ベ「「はいっ。お任せくださいっ」」

ラキア「これで安心して留守を任せられます」

アリシア「伯爵家へお戻りに?」

ラキア「いいえ。新しい宿場町の方です。少々きな臭くなってきましたので、ティア様から守護を任されました。兄達も連れていきますから、この屋敷は頼みますよ」

ベティ「お二人も?せっかく男手が手に入ったと思ったのですが……」

ラキア「こればかりは……ただし、何か手が必要でしたら、今ちょうど、こちらのギルドに三バカさん達が来ていますから、声を掛けてみてください」

アリシア「わかりました」

ベティ「明日の朝、出発ですか?」

ラキア「ええ。お願いしますね」

アリ・ベ「「万事、お任せくださいっ」」

ユメル「……僕らに選択権は……」

カヤル「……ないよね……」



つづく?
なんて事が起こってましたとさ☆
読んでくださりありがとうございます◎


スーパーメイドは目前だ!


優しいキルじぃちゃん。
ティアちゃんも大好きだった人です。
その屋敷が残っていました。
大変な秘密を抱えながら。
突然天使と駆け出したら、みんな心配になりますよね。
サクヤ姐さんは必死です。


では次回、一日空けて12日です。
よろしくお願いします◎
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