秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
上 下
383 / 405
第七章 秘伝と任されたもの

383 会合です

しおりを挟む
緊急の会合は、その日の夜に開かれ、対策が議論された。集まった首領達は、頭を抱えた。

「確かに緊急だとは聞いたが……これはまた一級品だなあ。はっはっはっ」
「笑い事ではありませんよ、虎徹さんっ」

笑うしかないなと言って、自身の膝を叩くのは鐘堂しょうどう虎徹こてつ。神楽部隊を支える元は神職にあった一族の長だ。年は今年で七十五らしい。

「いやあ、睦美ちゃんも笑いなよ。神職持ちが、あり得んことしやがってって思うやろう?」
「思っても笑えませんよ!」

虎徹の向かいに座って嗜めるのは、同年の女性だ。名は浮岸うがん睦美むつみ。可愛らしい小柄な女性で、いわゆる動物と会話ができる能力を持つ一族の長だ。主な仕事は、力が衰えてしまった神の元にいる神使達を保護することだ。そして、動物達を使って諜報のようなことも出来る。情報屋でもあった。

「うむ。決して笑い事では済まされん問題ではあるようだな。秘伝のは、よく見つけたものだ」
「いえ……たまたまなのですが……」
「そういう星の下に生まれたと諦めよ」
「うっ……」

珍しく追い詰められる高耶の姿を見て、達喜が笑いながらもフォローに回る。

「はははっ。篤じい、本当の事で避けようのない事実でも言ってやるなよ」
「ふむ。すまぬな。この歳になると、何でもあるがまま受け入れるのが当たり前になるのでな」

高耶をそんなつもりもなく追い詰めているのは、九十も半ばに差し掛かるらしい九童くどう篤久あつひさだ。その歳を感じさせない物言い。盲目だが、明らかに見えているだろうと言う様子の身のこなしをする。実際、医者には盲目と間違いなく診断されるが、普通に資料も手にして読める。

目を閉じてしまっているが、それでも読める。ほぼ彼の世界は霊視状態で、人の世とは違うものが見えているが、特に不便はないらしい。資料が読めるのも、何かの目を借りて見ているということらしい。不思議な老人だ。

元々、九童家は霊視の力が強く、神子も生まれやすい。だが同時に、心を病む者が多い家でもある。お陰で未だに当主交代の目処が立たないと日々嘆いている。

「でも、確かに高耶君は見事に爆発寸前の危ない案件を拾ってくるよね」
「源龍さんまで……勘弁してください……」

榊源龍も、久し振りに高耶に会えたことで、深刻な状況であるのは分かっていても笑ってしまう。

「この際やし、高坊には地方全て回ってもらうかや」
「お姉さんダメですよ。毎日こんな議題がやって来たらどないしますの?」
「ほ……それは、わややわ。あかんなあ」
「見つかるのはええんですけどねえ」
「……」

この子どうしようかという目で、焔泉と時刃ときわ桂花けいかに見られ、高耶は小さくなるしかなかった。

「ほんでも、今回のはギリやねえ。爆発前で良かったわ」
「そうですわねえ」
「……」

面倒事だけどねと続きそうな二人から、目はしっかり逸らしておいた高耶だ。

「で? どうするんだい? 神様を宥める以前に、封印を解いた途端に呪われないかな?」

蓮次郎が軽い口調で現実を示唆する。これに、九童老が静かに確認する。

「橘の。結界でその場に留めることは可能か?」
「封じを解いた後ってことです? どれだけの怒り具合かにもよりますねえ。怒気って、威圧とかと一緒で、その気になれば結界も壊せるから」
「うむ……」
「それ以前に、神気が強いとか、呪う力が強ければ、仮に最強硬度でも、それぞれに特化した結界じゃなければ外に滲み出る可能性は高いかな」
「橘の結界は、用途別であったな……」
「そういうこと~。大体、神様を結界で閉じ込めるとか愚行でしょ? それこそ、封印術とは別物だし」
「そうか……」

結界はあくまでも、一時的に閉じ込めるもの、守るものであって、長い時を封印するのとは違う。もちろん、橘が施す封印術は強力ではある。

「用途別で結界の種類は豊富だから、神気だけとか呪いだけを対象に閉じ込める事は可能だよ?」
「おっ。なら呪いだけ何とかすれば良いんじゃねえの?」

達喜がそんな答えを出す。しかし、それは根本的な解決にはならない。

「バカですか? そんな簡単なものじゃないんですよ。呪いにも種類や格があるんです。それに、大元を断たなければ意味がありません」
「え~、めんどくせ」
「あなたは、何もする気がないようですね……」
「そんな事ねえけどな。寝るのやだな~。めっちゃ嫌な予感するし」
「嫌な予感って……」
「「「「「……」」」」」

予知をする夢咲の当主が嫌な予感がすると言うのだ。物凄くヤバそうだと誰もが口を閉じた。







**********
読んでくださりありがとうございます◎

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

婚約破棄されたけど、逆に断罪してやった。

ゆーぞー
ファンタジー
気がついたら乙女ゲームやラノベによくある断罪シーンだった。これはきっと夢ね。それなら好きにやらせてもらおう。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...