秘伝賜ります

紫南

文字の大きさ
上 下
382 / 419
第七章 秘伝と任されたもの

382 大事になる予感

しおりを挟む
無事に大量の難解な資料の中から、目当ての学校の記録を見つけた。しかし、それを見て、どうにも嫌な予感がした。

「見つかったのは良かったが……これは……」
「さすがに、予想していませんでした……」
「……」

高耶は、律音と勇一で急遽、見つけた資料の裏を取るために、連盟の資料庫に入ったのだが、これにより、その予想が確かな事が確認できてしまったのだ。

そして、高耶は思い出した。

「……まさか、これを知っていて、あの神は……」
「どういう事ですか?」

律音が考え込んだ高耶に声をかける。

「言っていただろ『特に姿に拘りはないのだがな。さすがに奇抜な姿では、この者達に妖だと思われる可能性もあるだろう?』と」
「っ!! それって!」

律音は信じられないと目を見開き、勇一も愕然として言う。

「……妖と判断してしまった……土地神を?」
「そのようだな」

そう。あの場に封印されているのは、土地神だったのだ。

「恐らく、神木を切り倒されたことが原因だろうな。あの神木の配置は珍しいものだったし……」

三点に神木があるというのは、珍しい配置だった。敢えてそうあったならば、それを切り倒されてどうなるかは予想できないことではない。

勇一は不安げに口を開く。

「あの神が言っていましたね……『今後は目を閉じることなく、受け入れるべきことを正しく見定めていってくれ』と……あれは、警告の意味もあった?」
「だろうな。あの神は知っていたんだろう。だから、俺を理由にして、あえてあの場に出てきた」
「忠告するために……」

あれは、神職の者達への警告であり、忠告だった。神を妖として封じたことへの嫌味であり、神気にも気付かないことを恥じろという意味だったのだ。あの場では、高耶達にも読み取れなかったが、間違いないだろう。

今度は律音が考え込み、高耶へと確認する。

「師範……こうなると、場を整える奉納ライブより先に、土地神様をどうにかしなければいけませんよね?」
「ああ。どうにも、あの場所は土地神の加護が薄いと思ったが、まさか、封じられているとはな……」
「封じられた状態というのも問題ですが、おそらく……お怒りですよね?」
「間違いなくな……」

顔を顰める高耶を見て、勇一も何が問題なのかに気付いた。

「あ……神は祟る……?」
「そうだ。吹き虫が異常に多いのも、恐らく、寄せているんだろう。負の感情は連鎖しやすい。そのエネルギーを集めているんだろう」
「なんのために……」

勇一は、神と対峙した仕事などほぼない。だから、この例を知らなかった。

「土地に禍いをもたらすためだ」
「禍い……っ」
「土地を枯らし、加護を逆に向ける。そうして、更に狂っていく。最後に消滅する」
「っ、どうして……」

なぜそんなことになるのかと、勇一は目を丸くする。律音も悲痛な面持ちで高耶を見ていた。すると、その説明を引き継いだのは、この場にやって来た焔泉だった。

「神かて、悲しい想いや、裏切られたという想いをずっと持っていたくはないものだ。せやから、忘れようとして狂う。何も分からなくなれば、辛いと思うこともあらへんやろ? 神は原来不死……これが曲者や。終わりがあるから、救われることは多いんやで?」

焔泉は、いつものように微笑みながら、高耶の持っていた資料を手に取った。

「忘れられるゆうことも、救いや。けど、神にはそれが自然やない。守護する土地への想いも変わらん。その変わらんものと関連することは、まず忘れられんもんや。せやから、ずっと悲しみや辛さは消えへんのよ」

その恨みを忘れられたら良かった。だが、残念なことに、昇華できない想いは消えない。

「狂うんは、そのせいや。封印されたんは……ある意味良かったんかもしれへんなあ。みすみす神木を切らせ、あまつさえ土地神を妖と判断するような者が、その土地神を鎮められるとは思えん」
「はい……」
「場を用意するだけではあかんなあ」
「ええ……きちんとお祀りしなければいけません」
「神楽部隊の出番はその後やなあ」
「そうなりますね……」

正しく音を拾ったところで、今あるのは、狂った土地神の音だ。それでは意味がない。

「これは緊急性が高そうや。早急に会議やな」
「……お願いします」
「もちろん高坊もやでな?」
「……はい……」

かなり大事になりそうだった。










***********
読んでくださりありがとうございます◎

しおりを挟む
感想 566

あなたにおすすめの小説

水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?

ラララキヲ
ファンタジー
 わたくしは出来損ない。  誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。  それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。  水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。  そんなわたくしでも期待されている事がある。  それは『子を生むこと』。  血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……  政略結婚で決められた婚約者。  そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。  婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……  しかし……──  そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。  前世の記憶、前世の知識……  わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……  水魔法しか使えない出来損ない……  でも水は使える……  水……水分……液体…………  あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?  そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──   【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】 【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】 【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。 隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

魔道具作ってたら断罪回避できてたわw

かぜかおる
ファンタジー
転生して魔法があったからそっちを楽しんで生きてます! って、あれまあ私悪役令嬢だったんですか(笑) フワッと設定、ざまあなし、落ちなし、軽〜く読んでくださいな。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

処理中です...