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第十五章 晩餐にて
肉
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と、その時、キッチンとの境の戸が開いて、皿を持った譲がダイニングルームに入ってきた。
「お待たせしました」
譲は、僕の前にステーキ皿を置いた。
肉の焼けるジュウジュウいう音と、脂のパチパチはじける音とともに、香ばしい匂いが、鼻腔をくすぐり、僕の食欲をかきたてた。
おじ様の椅子の足元の床にいる潤が、犬がなにかを嗅ぎつけたように、ふんっと顔をあげた。もし潤が、ほんとうに犬のジョンだったなら、ピンと尖がった耳をたてただろう。
肉の焼けた、いい匂いを嗅ぎつけた犬のジョンは潤になり、起き上がって、立ち上がり、自分の席についた。
僕の前に置かれた皿を、美少年の潤が、じっと見ていた。
「どうぞ、召し上がれ」
と、おじ様が僕に言った。
「お先に、いただきます」
僕は、ナイフとフォークを手にとった。
ナイフを入れると、柔らかい厚い肉から、透明な肉汁がじゅわっとあふれだした。
「焼いた肉だ」
と潤が言った。潤は、何を言っているんだろう? 肉が焼いてあるのは、あたりまえじゃないか、と僕は思った。
熱々の肉を口に入れると、塩気とまじりあった肉の味が、美味だった。僕は付けあわせのクレソンを口にした。切ったレモンを押して、レモン汁とともに肉を食べると、また、酸味が脂っこさを消して、さっぱりして美味しかった。
潤が、よだれをたらしそうな顔をして、じっと僕の皿を見ていた。
「潤、ほしいの?」
僕は、潤に微笑んだ。
「うん」
潤が言った。
「あーん、する?」
「するする!」
潤が、嬉しそうに答えた。
僕は、さっきから、潤がかわいそうになっていたし、僕も、潤を甘やかしてみたかったので、そんなことを提案してしまった。
潤が、のりのりだったので、僕は、ちょっと恥ずかしかったが、肉を切って、潤の口の前に、差しだした。
「あーん」
潤の舌が、肉をからめとった。潤が口を閉じて、くいっと、歯でひねって、フォークから肉をはずした。
「もぐもぐして」
僕は、潤が幼い子のように可愛くなっていたので、思わず、そんなことまで言ってしまった。
「うん」
潤が、可愛く頷いた。
ああ、こんな可愛い子を、なぜ虐めるんだ! それは、おじ様が、変態だから。答えは、わかっていたけれど、僕だったら、潤を、たくさん可愛いがってあげるのに! ああ、可愛い、可愛い、潤、やっぱり好きだよ。
僕は、あまりの美味しさにか、目をうるうるさせている潤を見ながら思った。
あー、潤を、ベッドで抱きしめたいよ。毎晩、毎晩、身体をからめあって、眠りたい! 潤の、なめらかで熱い身体を、恋しく思った。もう、潤が、僕の家の子になればいいのに、と思った。僕は、一人っ子だったので、兄弟がいたら、楽しいだろうな、と、ずっと憧れていた。とそこまで思って、だめだよ! と気づいた。それって、おじ様と同じになっちゃう。いやいや、と思い直した。潤とは、他人なんだから、僕が一番この中で、潤と付きあえる可能性がある! だってほかの人たちは、潤とは血のつながった家族だから。
といっても、僕と潤は、男同士だけど。不毛だなぁ。
でも、と僕は、すぐに、気を取り直した。今度は、潤が僕の家に来て、僕の部屋で、いっしょに眠るんだ。僕のベッドで。ああ、僕のベッドで! 潤を想い描くだけだった、誰もいっしょに寝たことのない、僕のベッドで! 潤の身体を抱く。潤の熱い身体を抱く。思いっきり。毎晩抱きたい。
毎晩、僕のベッドにおいで、潤。君に、熱いキスをあげるから。君の髪を撫でてあげるから。君の顔の、部品の一つ一つを触って、愛でてあげるから。君の身体の全てを、愛撫して、とろけさせてあげるから。
さっきから、僕らの様子を見ていたおじさまが、
「潤、お行儀が悪いぞ。潤の分がくるのを待ちなさい」
と、注意した。
譲が、また、部屋に入ってきて、今度は、おじ様の前にステーキ皿を置いた。
香ばしい肉の匂いが、こちらまで漂ってきた。
潤が、また言った。
「焼いた肉だ」
おじ様がナイフを入れると、ジュっと音がして、また、潤がもの欲しそうな顔をした。潤は、よほどお腹をすかせているのだろうか?
おじ様は、そんな潤を見て、自分で食べようと口元まで持ってきていたフォークに刺した肉片を、
「仕方ないな」
と言って、潤の口元へ運んだ。潤は、口を開けて、肉片をくわえこんだ。
切った断面の中央が赤い、肉片だった。
「美味しいか?」
潤が、口をもぐもぐしながら、うなずいた。
しばらく、無言が続いた。
おじ様が、自分の皿の肉を自分の口に運んでいった。時々、親鳥のように、潤の口に、フォークに刺した肉を突っこんでやりながら。
ジジっといって、炎が大きく揺らいだ後、蝋燭が一本消えた。銀の燭台が煌めいた。
潤と、おじ様が、よりそっていた。潤の艶かしい口もと。潤に肉片を与えるたびに、おじ様の口も同時に開いていた。
銀のフォークが、蝋燭の炎にきらめいた。
フォークの先の血の色。
潤の口もとから、肉片がはみ出していた。
おじ様が、それを潤の口の中にフォークで押しこむようにつついた。ぺろりと潤の舌が、口の端についた血のあとを舐めた。
妖しげな猛禽類の親子。
「お待たせしました」
譲は、僕の前にステーキ皿を置いた。
肉の焼けるジュウジュウいう音と、脂のパチパチはじける音とともに、香ばしい匂いが、鼻腔をくすぐり、僕の食欲をかきたてた。
おじ様の椅子の足元の床にいる潤が、犬がなにかを嗅ぎつけたように、ふんっと顔をあげた。もし潤が、ほんとうに犬のジョンだったなら、ピンと尖がった耳をたてただろう。
肉の焼けた、いい匂いを嗅ぎつけた犬のジョンは潤になり、起き上がって、立ち上がり、自分の席についた。
僕の前に置かれた皿を、美少年の潤が、じっと見ていた。
「どうぞ、召し上がれ」
と、おじ様が僕に言った。
「お先に、いただきます」
僕は、ナイフとフォークを手にとった。
ナイフを入れると、柔らかい厚い肉から、透明な肉汁がじゅわっとあふれだした。
「焼いた肉だ」
と潤が言った。潤は、何を言っているんだろう? 肉が焼いてあるのは、あたりまえじゃないか、と僕は思った。
熱々の肉を口に入れると、塩気とまじりあった肉の味が、美味だった。僕は付けあわせのクレソンを口にした。切ったレモンを押して、レモン汁とともに肉を食べると、また、酸味が脂っこさを消して、さっぱりして美味しかった。
潤が、よだれをたらしそうな顔をして、じっと僕の皿を見ていた。
「潤、ほしいの?」
僕は、潤に微笑んだ。
「うん」
潤が言った。
「あーん、する?」
「するする!」
潤が、嬉しそうに答えた。
僕は、さっきから、潤がかわいそうになっていたし、僕も、潤を甘やかしてみたかったので、そんなことを提案してしまった。
潤が、のりのりだったので、僕は、ちょっと恥ずかしかったが、肉を切って、潤の口の前に、差しだした。
「あーん」
潤の舌が、肉をからめとった。潤が口を閉じて、くいっと、歯でひねって、フォークから肉をはずした。
「もぐもぐして」
僕は、潤が幼い子のように可愛くなっていたので、思わず、そんなことまで言ってしまった。
「うん」
潤が、可愛く頷いた。
ああ、こんな可愛い子を、なぜ虐めるんだ! それは、おじ様が、変態だから。答えは、わかっていたけれど、僕だったら、潤を、たくさん可愛いがってあげるのに! ああ、可愛い、可愛い、潤、やっぱり好きだよ。
僕は、あまりの美味しさにか、目をうるうるさせている潤を見ながら思った。
あー、潤を、ベッドで抱きしめたいよ。毎晩、毎晩、身体をからめあって、眠りたい! 潤の、なめらかで熱い身体を、恋しく思った。もう、潤が、僕の家の子になればいいのに、と思った。僕は、一人っ子だったので、兄弟がいたら、楽しいだろうな、と、ずっと憧れていた。とそこまで思って、だめだよ! と気づいた。それって、おじ様と同じになっちゃう。いやいや、と思い直した。潤とは、他人なんだから、僕が一番この中で、潤と付きあえる可能性がある! だってほかの人たちは、潤とは血のつながった家族だから。
といっても、僕と潤は、男同士だけど。不毛だなぁ。
でも、と僕は、すぐに、気を取り直した。今度は、潤が僕の家に来て、僕の部屋で、いっしょに眠るんだ。僕のベッドで。ああ、僕のベッドで! 潤を想い描くだけだった、誰もいっしょに寝たことのない、僕のベッドで! 潤の身体を抱く。潤の熱い身体を抱く。思いっきり。毎晩抱きたい。
毎晩、僕のベッドにおいで、潤。君に、熱いキスをあげるから。君の髪を撫でてあげるから。君の顔の、部品の一つ一つを触って、愛でてあげるから。君の身体の全てを、愛撫して、とろけさせてあげるから。
さっきから、僕らの様子を見ていたおじさまが、
「潤、お行儀が悪いぞ。潤の分がくるのを待ちなさい」
と、注意した。
譲が、また、部屋に入ってきて、今度は、おじ様の前にステーキ皿を置いた。
香ばしい肉の匂いが、こちらまで漂ってきた。
潤が、また言った。
「焼いた肉だ」
おじ様がナイフを入れると、ジュっと音がして、また、潤がもの欲しそうな顔をした。潤は、よほどお腹をすかせているのだろうか?
おじ様は、そんな潤を見て、自分で食べようと口元まで持ってきていたフォークに刺した肉片を、
「仕方ないな」
と言って、潤の口元へ運んだ。潤は、口を開けて、肉片をくわえこんだ。
切った断面の中央が赤い、肉片だった。
「美味しいか?」
潤が、口をもぐもぐしながら、うなずいた。
しばらく、無言が続いた。
おじ様が、自分の皿の肉を自分の口に運んでいった。時々、親鳥のように、潤の口に、フォークに刺した肉を突っこんでやりながら。
ジジっといって、炎が大きく揺らいだ後、蝋燭が一本消えた。銀の燭台が煌めいた。
潤と、おじ様が、よりそっていた。潤の艶かしい口もと。潤に肉片を与えるたびに、おじ様の口も同時に開いていた。
銀のフォークが、蝋燭の炎にきらめいた。
フォークの先の血の色。
潤の口もとから、肉片がはみ出していた。
おじ様が、それを潤の口の中にフォークで押しこむようにつついた。ぺろりと潤の舌が、口の端についた血のあとを舐めた。
妖しげな猛禽類の親子。
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