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第六章 凱歌の行方
青き錬装者、〈死〉へのカウントダウン
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およそ2分間にわたって渾身の力で締め続けたものの、どうやら舌攻撃による錬装者絞殺は不可能と判断したらしい妖仙獣は、腹いせとばかりに滞空したままいきなり回転を開始、その勢いはみるみる増して巨大な臙脂色の風車と化した瞬間、哀れ冬河黎輔は投擲されたハンマーのごとく空中に投げ出されて鉄柵上の超硬ガラスに激突した!
それによって堅牢な側壁に無惨な亀裂が生じ、同個所にもう3回ほど同じ衝撃が加われば、間違いなくそれは砕け散ることは明白であった。
──ここで総帥・光城玄矢の怒鳴り声による指令が飛んだ。
「呀門、側壁クラッシュはそこまでにしろッ!!
何しろ敵側の誓覇闘地を損壊した場合、修理費用はこちら持ちになるんだからなッ!!」
「へっへへ…なるほど、おまえさんが言ったとおり、昨今の宗教団体への風当たりの強さもあって、さしもの光至教の懐事情もかなり厳しさを増してるみたいだな…」
先ほどより光城白彌から光霊至聖教団の現状のあらましを伝え聞いていた南郷派と紫羽派の代理人はにんまりと頷き合う。
「…しかも、現教祖である母の後継者たる兄が、家業そっちのけでますます“星軍活動”にのめり込んでゆく有り様ですから、誇張抜きに教団の屋台骨は揺らいでいますよ…もちろん一般信者に異世界や神牙教軍といった超極秘情報は固く秘せられていますが、組織全体に漂う閉塞感と幹部たちの教義に対する熱意の減退と相俟って、信者数の減少にも歯止めがかからない状況でしてね…」
「……」
「──今言えるのはここまでです。
続きは、兄が覇闘に入ってからお話しますよ…かなり衝撃的な内容をお伝えできると思いますから、お楽しみに…」
「そうかい、そりゃ楽しみだな…。
だがよ、光至教の現状についてはマスコミやネットの情報でオレらもそれなりに把握してたが、アンタが握ってるっていうそれほどまでの仰天情報を、この場で勝手にブチまけちまっていいのかい?」
「ご心配はありがたいですが、これらの発言は私個人の判断ではありません…。
母と──何よりも魂師のご許可を頂いております…!」
「おおッ、そりゃあ──!」
過剰反応は鋭敏な妖帝の注意を惹かずにはおかぬため、必死に感情を抑制した東堂と寺垣であったが、光城派副将のどこか吹っ切れた表情を見るにつけても、妖帝星軍内においてただならぬ地殻変動がはじまっているのを痛感せずにはいられなかった。
「──面白くなってきやがったな…。
ひょっとしたら、絶対不変と思われた〈三妖帝体制〉に大きな転機が訪れたのかもしれねえ…となると、我々の“明日の人類社会を異世界侵略から守るための尊い活動”において、オレたち三下の役割が重要度を増すことになるのかもしれんな…!」
この情念の籠もった呟きに、光城白彌は正面を向いたままではあったが、真剣そのものの表情で応えた。
「とんでもない…!
あなた方は決して三下なんかじゃありませんよ──お二方ともジャンルは違えど日々ハードな活動に従事しながら星軍における使命も着実に果たすという大変な激務をこなしておられる訳ですから…その点は、魂師も常に感服しておられると母から聞いています…」
「ありがとよ、それを聞いて報われる思いがしたぜ…んじゃ、我らのヒーローであられる最強妖帝様がご登場なさるまで大人しくしてるとするか…」
──飼い主の意図を正確に理解した妖仙獣・呀門は、側壁に沿って頭から落下した冬河黎輔に致命傷を与えるため、臙脂色の魔翼を折り畳んで鋼板に降り立ち、十本の節足のうち極端に巨大な前肢を威嚇するかのように振り上げる。
ジャキリッとまたもや不気味な金属音が響き、その先端が限界まで露出されたが、それはまさしく死神の持つ大鎌を彷彿とさせる凶々しい偃月刀であった。
“キギャギャギャギキャアアッッ!!!”
闇に息づく魔蟲が放つ、殺戮と破壊のみを渇望する地獄の雄叫び──それは同時に勝利の確信の表明でもあった。
かくて哀れな錬装者は、側壁に背中を張りつけた逆立ち状態のまま、妖仙獣の凄まじい狂撃に曝されることとなったのである!
──ガガッ!ギュリッ!!ガギッ!ジュギッ!!
激突の度に蒼白い火花を発しつつ、悪魔の刃が目の覚めるようなゼニスブルーの錬装磁甲、その顔面部を集中的に打ちすえてゆく──浴び続ける凄まじい衝撃によってグラリと揺らいだ鎧戦士は、鈍い響きを立てて鉄柵の接地面に横倒しとなったが、これでより刃を振り下ろし易くなった呀門はさらに勢いづく。
──覇闘開始後は誓覇闘地が設えられた大地下室の壁に取り付けられた巨大なデジタルタイマーが残り時間を赤数字で告知するのであるが、それを見上げた宗 星愁の表情はまさに鬼の形相であった。
「残り13分余りか…どうやら敵は黎輔が無抵抗である限りはこのまま顔面攻撃を継続するつもりだな…。
この状況のままで時間切れとなればもちろん聖団の負けだが、黎輔の反撃を信じてこのまま放置するとしても、もし磁甲を砕かれてあの刃が内部に入りでもしたなら──想像するだに恐ろしい大惨事を引き起こすことになる…!」
それによって堅牢な側壁に無惨な亀裂が生じ、同個所にもう3回ほど同じ衝撃が加われば、間違いなくそれは砕け散ることは明白であった。
──ここで総帥・光城玄矢の怒鳴り声による指令が飛んだ。
「呀門、側壁クラッシュはそこまでにしろッ!!
何しろ敵側の誓覇闘地を損壊した場合、修理費用はこちら持ちになるんだからなッ!!」
「へっへへ…なるほど、おまえさんが言ったとおり、昨今の宗教団体への風当たりの強さもあって、さしもの光至教の懐事情もかなり厳しさを増してるみたいだな…」
先ほどより光城白彌から光霊至聖教団の現状のあらましを伝え聞いていた南郷派と紫羽派の代理人はにんまりと頷き合う。
「…しかも、現教祖である母の後継者たる兄が、家業そっちのけでますます“星軍活動”にのめり込んでゆく有り様ですから、誇張抜きに教団の屋台骨は揺らいでいますよ…もちろん一般信者に異世界や神牙教軍といった超極秘情報は固く秘せられていますが、組織全体に漂う閉塞感と幹部たちの教義に対する熱意の減退と相俟って、信者数の減少にも歯止めがかからない状況でしてね…」
「……」
「──今言えるのはここまでです。
続きは、兄が覇闘に入ってからお話しますよ…かなり衝撃的な内容をお伝えできると思いますから、お楽しみに…」
「そうかい、そりゃ楽しみだな…。
だがよ、光至教の現状についてはマスコミやネットの情報でオレらもそれなりに把握してたが、アンタが握ってるっていうそれほどまでの仰天情報を、この場で勝手にブチまけちまっていいのかい?」
「ご心配はありがたいですが、これらの発言は私個人の判断ではありません…。
母と──何よりも魂師のご許可を頂いております…!」
「おおッ、そりゃあ──!」
過剰反応は鋭敏な妖帝の注意を惹かずにはおかぬため、必死に感情を抑制した東堂と寺垣であったが、光城派副将のどこか吹っ切れた表情を見るにつけても、妖帝星軍内においてただならぬ地殻変動がはじまっているのを痛感せずにはいられなかった。
「──面白くなってきやがったな…。
ひょっとしたら、絶対不変と思われた〈三妖帝体制〉に大きな転機が訪れたのかもしれねえ…となると、我々の“明日の人類社会を異世界侵略から守るための尊い活動”において、オレたち三下の役割が重要度を増すことになるのかもしれんな…!」
この情念の籠もった呟きに、光城白彌は正面を向いたままではあったが、真剣そのものの表情で応えた。
「とんでもない…!
あなた方は決して三下なんかじゃありませんよ──お二方ともジャンルは違えど日々ハードな活動に従事しながら星軍における使命も着実に果たすという大変な激務をこなしておられる訳ですから…その点は、魂師も常に感服しておられると母から聞いています…」
「ありがとよ、それを聞いて報われる思いがしたぜ…んじゃ、我らのヒーローであられる最強妖帝様がご登場なさるまで大人しくしてるとするか…」
──飼い主の意図を正確に理解した妖仙獣・呀門は、側壁に沿って頭から落下した冬河黎輔に致命傷を与えるため、臙脂色の魔翼を折り畳んで鋼板に降り立ち、十本の節足のうち極端に巨大な前肢を威嚇するかのように振り上げる。
ジャキリッとまたもや不気味な金属音が響き、その先端が限界まで露出されたが、それはまさしく死神の持つ大鎌を彷彿とさせる凶々しい偃月刀であった。
“キギャギャギャギキャアアッッ!!!”
闇に息づく魔蟲が放つ、殺戮と破壊のみを渇望する地獄の雄叫び──それは同時に勝利の確信の表明でもあった。
かくて哀れな錬装者は、側壁に背中を張りつけた逆立ち状態のまま、妖仙獣の凄まじい狂撃に曝されることとなったのである!
──ガガッ!ギュリッ!!ガギッ!ジュギッ!!
激突の度に蒼白い火花を発しつつ、悪魔の刃が目の覚めるようなゼニスブルーの錬装磁甲、その顔面部を集中的に打ちすえてゆく──浴び続ける凄まじい衝撃によってグラリと揺らいだ鎧戦士は、鈍い響きを立てて鉄柵の接地面に横倒しとなったが、これでより刃を振り下ろし易くなった呀門はさらに勢いづく。
──覇闘開始後は誓覇闘地が設えられた大地下室の壁に取り付けられた巨大なデジタルタイマーが残り時間を赤数字で告知するのであるが、それを見上げた宗 星愁の表情はまさに鬼の形相であった。
「残り13分余りか…どうやら敵は黎輔が無抵抗である限りはこのまま顔面攻撃を継続するつもりだな…。
この状況のままで時間切れとなればもちろん聖団の負けだが、黎輔の反撃を信じてこのまま放置するとしても、もし磁甲を砕かれてあの刃が内部に入りでもしたなら──想像するだに恐ろしい大惨事を引き起こすことになる…!」
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