ボクらは魔界闘暴者!

幾橋テツミ

文字の大きさ
上 下
56 / 60
第六章 凱歌の行方

錬装者の宿命

しおりを挟む
「こ…このド畜生がッ!

 テメエの武器はどこまで不快度MAXなんだよッ!!

 だがな、この錬装磁甲に窒息殺法なんざ通用する訳ねえのが分からねえのかッ…」

 とはいえ、このまま長大な肉のマフラーにまとわりつかれたままでは攻撃に支障をきたすため、直ちに取り除かんと黎輔が首筋に手をやった瞬間、恐るべき事態が彼を襲った!

『なぜだ!?腕がうまく動かせねえ…!』

 実は、先ほどの跳躍時も、両脚の動きに違和感を覚えていたばかりであったのだ。

『──いつもならもっと高く飛べたはずだ…そういえば立ち上がった瞬間から動きがやたら重かったっけ…あ、そうかッ!』

 機眼こそ怪液を除去したものの、青い磁甲の前面部はあたかも大量の水飴をブチまけたかのように、黄緑色のとした物質で汚されたままなのであった。

『も、もしかしてこの汚物は強力な接着剤なのか…!?

 そうだとしたらこのままじゃヤベえ…ヘタしたら身動きできなくなるぞッ!!』

「あれ?──どうも黎くんの動きがおかしい…何か急に鈍ってしまったような…!?」

 恭作の憂わしげな呟きに、星愁の非情な宣告が被せられる。

「あの粘液攻撃が単なる目つぶしのみであったはずがない──どうやらあの妖仙獣の〈必殺フルコース〉の序曲プレリュードだったようだな…」

 光城玄矢もまた、目論見通りの展開に会心の笑みを浮かべていた。

「くくく、この呀門は20分という時間内においていかに敵(錬装者)を効率的に破壊しうるかを計算し尽くして設計・育成された光城派自慢の一頭──ま、次戦以降この必勝パターンは修正されようが、〔粘縛弾〕の使い道は他にいくらでもあるからな…!」

 当の冬河黎輔は、まさにパニック状態にあった。

『ヤベえッ!こりゃあマジでヤベえぞッ!!

 この汚らしいベロを引きちぎるためにスピニング・コーンを目一杯伸ばしても、肝心の両拳を首まで持っていけん…し、しかもコイツ、とんでもねえ力で締め付けてきやがる…錬装磁甲を形成してる〔エグメド鋼〕がギシギシと軋むなんざ、2年半ではじめての体験だぜ…あッ、いけねえ!顔面全体に巻き付かれてまた視界ゼロになっちまったッ!!」

 かくて進退窮まった僚友の窮地を見かねたか、那崎恭作は抑えた口調ながらも憤懣やる方ないといった心情を吐露した。

「…これは以前から思っていたことなんですが、〈人外戦力〉にかくも自在な特殊能力を認めている以上、それと相対する際には錬装者われわれにもせめて刀槍類の使用は認められてもいいんじゃないですかね?

 五体を武器とした格闘戦は対人間(極術士)だけで十分だと思うんですが…」

 この後進によるに、先輩は無表情のまま返答する。

「妖仙獣に得物を使い、極術士にはで臨む?──それはムリだな…。

 なぜかって?…それは各々がまとった錬装磁甲や極術身装そのものが何者にも勝る〈超兵器〉であるからだ…そのをフルに使いこなし切るならば、その破壊力は到底“人外”の比じゃない──今のおまえがそう思えないならば、問題は磁甲ではなく運用する錬装者の側にある。

 だがな、決して武器の訓練が無意味だと言ってる訳じゃないぜ…現にで、おまえも現地ラージャーラで邂逅するであろう、【霊拳旅団】なる錬装者チームを率いて堂々本隊の一角を担ってるチェン 士京シージン君の大小剣及び槍戟の変幻自在の扱いっぷりなどはまさに芸術…いや、神業といっても過言じゃないレベルだからな──あそこまで行けば、むしろ磁甲の拡張装備として使用が督励されるべきだろう…しかしそれは、士京かれが八極拳をはじめとする中国拳法の極意を既にして極め尽くした早熟の…いや、不世出の天才だからこそ許されることなのだ…」  

「……」

「…幸い、同じ東洋系のよしみもあって、霊拳旅団とおまえが加わる【星拳鬼會】は友好的な関係を保ち、技術交流も盛んらしい…鄭君自身も若くして大人ターレンの風格漂う素晴らしい人格だから、生真面目なおまえは必ずや親密な関係を結べると思う…技はもちろんだが、人間的にも得るところが多々あるだろう──楽しみにしておくといい」

「え、ええ…」

 鄭 士京及び霊拳旅団については出征決定後、本部からもたらされた〈本隊情報〉によってその存在を告知されており、恭作自身最大の興味を唆られていたところであったが、話題がに行くのであればどうしても聞いておきたいことがあった。

「…その“鄭先生”はもちろんですがもう一人、ボクとしては異世界むこうでどうしても会ってみたいヒトがいるんですよ──冬河晃人…黎くんのお兄さんですが、一体どういう感じの方なんですか?」

 ここではじめて、鉄仮面の表情に変化が生じた。

「ふふ、…。

 晃人か──そうだな、まさに鄭 士京とは真逆の、というべきかな…」

「不真面目な天才…ですか?」

 戸惑う後輩に微笑みつつ頷く星愁に、出征を控えて心に余裕を欠いた那崎恭作は単刀直入に切り込んだ。

「あの…ズバリお聞きしますが、冬河晃人氏と宗先輩とでは、果たしてどちらが実力的に上なんでしょうか?」

 支部最強者は即答した。

「今がどうかはもちろん断言できんがな…アイツが旅立った4年前の時点においてなら、だった──ちなみに、初陣デビューはほぼ同時期だ…」






 

 
 









 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移したところで

緑窓六角祭
ファンタジー
普通の男子高校生である篠崎陽平はどうやらクラスごと異世界に転移したらしいのだが、よくわからないので、友人の栗木と佐原と3人で手探りで地味にやってくことにした。 ※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません ※カクヨム・アルファポリス重複投稿

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜

華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日  この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。  札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。  渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。  この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。  一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。  そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。 この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。 この作品はフィクションです。 実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...