58 / 60
第六章 凱歌の行方
早まりなさんな!まだ勝負は終わってねえッ!!
しおりを挟む
絶体絶命の窮地にありながらも、冬河黎輔の意識は鮮明であった。
『ク…クソッ! 汚え手を使いやがって…オレが動けねえのをいいことに、このままタイムアップまでメッタ打ちを続けるつもりかッ!?
──だがよ、こりゃみっともなさという点じゃ、かなり上位に入る負け方じゃね?
嗚呼、もっとこの磁甲にパワーがあれば…い、いや…全ては錬装者であるオレの力不足か…事実、“最強”のスペンサー氏レベルになると自分の卓越した戦闘意志をブチ込むことで3000馬力超まで持っていくって話だからな…。
錬装磁甲の〈無干渉標準パワーが〉1000PS程度で、オレや恭くんレベルで1500、嶽さんで1600、星愁のMAXが17500あたりか…。
──しかし、ガンガンガンガン好き放題にタコ殴りしくさって…鼓膜が破れそうなぐれえやかましいし、ひっきりなしに頭は揺れるし…これをあと10分以上もやられたんじゃオカしくなっちまうぜ…。
とりあえず機眼は保護しなくちゃならねえからバイザーは閉じたが、こんなザマで土曜日、あの女性にどんな報告すりゃいいんだよ…』
後輩の戦意喪失を敏感に察知した宗 星愁はその消極性を非難せずにはいられぬようであった。
「情けない…何の抵抗も試みることなくこのままあっさりと試合放棄か?
兄貴の晃人もいい加減なヤツではあったが、少なくとも天性の格闘センスでこと覇闘においては一切ボロを出すことはなかったからな…尤も対極術士では上位陣と当たることが多かったこともあって、好機に恵まれても攻めきれず、引き分けで終わることも頻々だったが…。
──ま、兄弟共通の欠点として消極的姿勢があることは間違いないが、黎輔の場合はちょっとヒドすぎるな…晃人にはもうちょっとプライドがあったぜ…」
「……」
「少なくとも恭作が支部に残ればさすがに多少は意識して自己を律するんだろうが、このままだとホント、未来はないな…!
まあ稚拙な打算で動く性格だから、“三代目聖団長”には必死に取り入ろうとするだろうが──しかし、アイツが思ってるほど彼の性格は甘くはないはずだ…」
「──三代目ですって?
もしかして〈聖団長制度〉が復活するんですかッ!?」
絆獣聖団に属する者にとって、決して忽せにはできぬこのパワーワードを耳にした那崎恭作の反応は激しかった。
「ああ、まだこの情報は入手してなかったか?…聞いてのとおり、しばらく空位だった最高指導者の座がいよいよ復活する流れにある──そして、その人物はほぼ確定しているのさ…」
「…それで宗先輩はそれが誰かご存知なんですね?」
数秒間の沈黙の後、〈事情通〉は頷いた。
「ああ、知ってる──桂城慧斗という21歳の若者だ…」
「桂城ですって?
──ひょっとしてそれは…!?」
チラリと優秀な後輩を見やり、支部最強者は頷いた。
「さすがに察しがいいな…。
オマエはどうか知らんが、黎輔が大好きなSILKY⚔BLADES──あそこのトップの桂城聖蘭…彼女の兄貴とされる人物だよ…!」
「!?──で…ですが、一体どういう経緯で彼が…?」
「経緯か…強いて言うなら初代聖団長との濃厚な繋がりゆえ、ということだろうな…」
「初代聖団長──たしか真田時彦とかいう人物でしたね…でもですよ、この復活劇には、当然〈主宰神〉の意思が関わってるんでしょうけど、なぜこうした流れになったのか…」
「──それこそ、人の身で〈神〉のご意思を詮索するのは浅薄きわまるというしかないが、それがあのブザマな姿(と呀門の猛攻に曝される黎輔の姿を指差しながら)に象徴される、ダレきった聖団の現状を改革するためなのではないかと邪推してるんだがな…」
「…そうですか、現在の聖団は堕落してますか…」
「──少なくとも、地上部隊はな…。
つまり、異世界で日々命懸けの戦いを続けている〈本隊〉に対してはこれまでどおり【六天巫蝶】が指揮系統の頂点に立ったままだろうということだ…」
「なるほど…あくまでもそのまとまりの無さによって聖団を凋落させた【九氏族】の〈上位存在〉を復活させることで彼らを完全掌握し、統制の乱れた【絆獣聖団・地上部隊】を今一度、一枚岩の戦闘組織として再生させようと──」
宗 星愁は黙って頷き、再び電光掲示板を見上げた。
「覇闘開始から10分37秒か…およそ3分余り手も足も出ずにひたすら打ちまくられている訳か…もうこれ以上引き延ばしてもムダだろう…しかも、当事者は躰をガチガチに固められちまって降参の意思表示すらできねえありさまなんだからな…そろそろタオル投入するか…」
タオル投入──それは支部代表者(星愁)が右手を掲げて敵将(玄矢)に降伏の意思を伝えることを意味する。
だが、那崎恭作がその腕に手をかけて制止した。
「もう少し…せめてあと2分は待ってみましょう──黎くんも必死にガンバってるでしょうし、呀門の前肢にも最初の勢いが無くなってきてます…しかも、エグメド鋼の超硬度に打ち負けたか、先端の刃もかなり欠けてきてますよッ!
まだ勝負は分かりません!彼を信じて待ちましょうッ!!」
『ク…クソッ! 汚え手を使いやがって…オレが動けねえのをいいことに、このままタイムアップまでメッタ打ちを続けるつもりかッ!?
──だがよ、こりゃみっともなさという点じゃ、かなり上位に入る負け方じゃね?
嗚呼、もっとこの磁甲にパワーがあれば…い、いや…全ては錬装者であるオレの力不足か…事実、“最強”のスペンサー氏レベルになると自分の卓越した戦闘意志をブチ込むことで3000馬力超まで持っていくって話だからな…。
錬装磁甲の〈無干渉標準パワーが〉1000PS程度で、オレや恭くんレベルで1500、嶽さんで1600、星愁のMAXが17500あたりか…。
──しかし、ガンガンガンガン好き放題にタコ殴りしくさって…鼓膜が破れそうなぐれえやかましいし、ひっきりなしに頭は揺れるし…これをあと10分以上もやられたんじゃオカしくなっちまうぜ…。
とりあえず機眼は保護しなくちゃならねえからバイザーは閉じたが、こんなザマで土曜日、あの女性にどんな報告すりゃいいんだよ…』
後輩の戦意喪失を敏感に察知した宗 星愁はその消極性を非難せずにはいられぬようであった。
「情けない…何の抵抗も試みることなくこのままあっさりと試合放棄か?
兄貴の晃人もいい加減なヤツではあったが、少なくとも天性の格闘センスでこと覇闘においては一切ボロを出すことはなかったからな…尤も対極術士では上位陣と当たることが多かったこともあって、好機に恵まれても攻めきれず、引き分けで終わることも頻々だったが…。
──ま、兄弟共通の欠点として消極的姿勢があることは間違いないが、黎輔の場合はちょっとヒドすぎるな…晃人にはもうちょっとプライドがあったぜ…」
「……」
「少なくとも恭作が支部に残ればさすがに多少は意識して自己を律するんだろうが、このままだとホント、未来はないな…!
まあ稚拙な打算で動く性格だから、“三代目聖団長”には必死に取り入ろうとするだろうが──しかし、アイツが思ってるほど彼の性格は甘くはないはずだ…」
「──三代目ですって?
もしかして〈聖団長制度〉が復活するんですかッ!?」
絆獣聖団に属する者にとって、決して忽せにはできぬこのパワーワードを耳にした那崎恭作の反応は激しかった。
「ああ、まだこの情報は入手してなかったか?…聞いてのとおり、しばらく空位だった最高指導者の座がいよいよ復活する流れにある──そして、その人物はほぼ確定しているのさ…」
「…それで宗先輩はそれが誰かご存知なんですね?」
数秒間の沈黙の後、〈事情通〉は頷いた。
「ああ、知ってる──桂城慧斗という21歳の若者だ…」
「桂城ですって?
──ひょっとしてそれは…!?」
チラリと優秀な後輩を見やり、支部最強者は頷いた。
「さすがに察しがいいな…。
オマエはどうか知らんが、黎輔が大好きなSILKY⚔BLADES──あそこのトップの桂城聖蘭…彼女の兄貴とされる人物だよ…!」
「!?──で…ですが、一体どういう経緯で彼が…?」
「経緯か…強いて言うなら初代聖団長との濃厚な繋がりゆえ、ということだろうな…」
「初代聖団長──たしか真田時彦とかいう人物でしたね…でもですよ、この復活劇には、当然〈主宰神〉の意思が関わってるんでしょうけど、なぜこうした流れになったのか…」
「──それこそ、人の身で〈神〉のご意思を詮索するのは浅薄きわまるというしかないが、それがあのブザマな姿(と呀門の猛攻に曝される黎輔の姿を指差しながら)に象徴される、ダレきった聖団の現状を改革するためなのではないかと邪推してるんだがな…」
「…そうですか、現在の聖団は堕落してますか…」
「──少なくとも、地上部隊はな…。
つまり、異世界で日々命懸けの戦いを続けている〈本隊〉に対してはこれまでどおり【六天巫蝶】が指揮系統の頂点に立ったままだろうということだ…」
「なるほど…あくまでもそのまとまりの無さによって聖団を凋落させた【九氏族】の〈上位存在〉を復活させることで彼らを完全掌握し、統制の乱れた【絆獣聖団・地上部隊】を今一度、一枚岩の戦闘組織として再生させようと──」
宗 星愁は黙って頷き、再び電光掲示板を見上げた。
「覇闘開始から10分37秒か…およそ3分余り手も足も出ずにひたすら打ちまくられている訳か…もうこれ以上引き延ばしてもムダだろう…しかも、当事者は躰をガチガチに固められちまって降参の意思表示すらできねえありさまなんだからな…そろそろタオル投入するか…」
タオル投入──それは支部代表者(星愁)が右手を掲げて敵将(玄矢)に降伏の意思を伝えることを意味する。
だが、那崎恭作がその腕に手をかけて制止した。
「もう少し…せめてあと2分は待ってみましょう──黎くんも必死にガンバってるでしょうし、呀門の前肢にも最初の勢いが無くなってきてます…しかも、エグメド鋼の超硬度に打ち負けたか、先端の刃もかなり欠けてきてますよッ!
まだ勝負は分かりません!彼を信じて待ちましょうッ!!」
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Another World〜自衛隊 まだ見ぬ世界へ〜
華厳 秋
ファンタジー
───2025年1月1日
この日、日本国は大きな歴史の転換点を迎えた。
札幌、渋谷、博多の3箇所に突如として『異界への門』──アナザーゲート──が出現した。
渋谷に現れた『門』から、異界の軍勢が押し寄せ、無抵抗の民間人を虐殺。緊急出動した自衛隊が到着した頃には、敵軍の姿はもうなく、スクランブル交差点は無惨に殺された民間人の亡骸と血で赤く染まっていた。
この緊急事態に、日本政府は『門』内部を調査するべく自衛隊を『異界』──アナザーワールド──へと派遣する事となった。
一方地球では、日本の急激な軍備拡大や『異界』内部の資源を巡って、極東での緊張感は日に日に増して行く。
そして、自衛隊は国や国民の安全のため『門』内外問わず奮闘するのであった。
この作品は、小説家になろう様カクヨム様にも投稿しています。
この作品はフィクションです。
実在する国、団体、人物とは関係ありません。ご注意ください。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※毎週、月、水、金曜日更新
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
※追放要素、ざまあ要素は第二章からです。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる