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第六章 凱歌の行方
早まりなさんな!まだ勝負は終わってねえッ!!
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絶体絶命の窮地にありながらも、冬河黎輔の意識は鮮明であった。
『ク…クソッ! 汚え手を使いやがって…オレが動けねえのをいいことに、このままタイムアップまでメッタ打ちを続けるつもりかッ!?
──だがよ、こりゃみっともなさという点じゃ、かなり上位に入る負け方じゃね?
嗚呼、もっとこの磁甲にパワーがあれば…い、いや…全ては錬装者であるオレの力不足か…事実、“最強”のスペンサー氏レベルになると自分の卓越した戦闘意志をブチ込むことで3000馬力超まで持っていくって話だからな…。
錬装磁甲の〈無干渉標準パワーが〉1000PS程度で、オレや恭くんレベルで1500、嶽さんで1600、星愁のMAXが17500あたりか…。
──しかし、ガンガンガンガン好き放題にタコ殴りしくさって…鼓膜が破れそうなぐれえやかましいし、ひっきりなしに頭は揺れるし…これをあと10分以上もやられたんじゃオカしくなっちまうぜ…。
とりあえず機眼は保護しなくちゃならねえからバイザーは閉じたが、こんなザマで土曜日、あの女性にどんな報告すりゃいいんだよ…』
後輩の戦意喪失を敏感に察知した宗 星愁はその消極性を非難せずにはいられぬようであった。
「情けない…何の抵抗も試みることなくこのままあっさりと試合放棄か?
兄貴の晃人もいい加減なヤツではあったが、少なくとも天性の格闘センスでこと覇闘においては一切ボロを出すことはなかったからな…尤も対極術士では上位陣と当たることが多かったこともあって、好機に恵まれても攻めきれず、引き分けで終わることも頻々だったが…。
──ま、兄弟共通の欠点として消極的姿勢があることは間違いないが、黎輔の場合はちょっとヒドすぎるな…晃人にはもうちょっとプライドがあったぜ…」
「……」
「少なくとも恭作が支部に残ればさすがに多少は意識して自己を律するんだろうが、このままだとホント、未来はないな…!
まあ稚拙な打算で動く性格だから、“三代目聖団長”には必死に取り入ろうとするだろうが──しかし、アイツが思ってるほど彼の性格は甘くはないはずだ…」
「──三代目ですって?
もしかして〈聖団長制度〉が復活するんですかッ!?」
絆獣聖団に属する者にとって、決して忽せにはできぬこのパワーワードを耳にした那崎恭作の反応は激しかった。
「ああ、まだこの情報は入手してなかったか?…聞いてのとおり、しばらく空位だった最高指導者の座がいよいよ復活する流れにある──そして、その人物はほぼ確定しているのさ…」
「…それで宗先輩はそれが誰かご存知なんですね?」
数秒間の沈黙の後、〈事情通〉は頷いた。
「ああ、知ってる──桂城慧斗という21歳の若者だ…」
「桂城ですって?
──ひょっとしてそれは…!?」
チラリと優秀な後輩を見やり、支部最強者は頷いた。
「さすがに察しがいいな…。
オマエはどうか知らんが、黎輔が大好きなSILKY⚔BLADES──あそこのトップの桂城聖蘭…彼女の兄貴とされる人物だよ…!」
「!?──で…ですが、一体どういう経緯で彼が…?」
「経緯か…強いて言うなら初代聖団長との濃厚な繋がりゆえ、ということだろうな…」
「初代聖団長──たしか真田時彦とかいう人物でしたね…でもですよ、この復活劇には、当然〈主宰神〉の意思が関わってるんでしょうけど、なぜこうした流れになったのか…」
「──それこそ、人の身で〈神〉のご意思を詮索するのは浅薄きわまるというしかないが、それがあのブザマな姿(と呀門の猛攻に曝される黎輔の姿を指差しながら)に象徴される、ダレきった聖団の現状を改革するためなのではないかと邪推してるんだがな…」
「…そうですか、現在の聖団は堕落してますか…」
「──少なくとも、地上部隊はな…。
つまり、異世界で日々命懸けの戦いを続けている〈本隊〉に対してはこれまでどおり【六天巫蝶】が指揮系統の頂点に立ったままだろうということだ…」
「なるほど…あくまでもそのまとまりの無さによって聖団を凋落させた【九氏族】の〈上位存在〉を復活させることで彼らを完全掌握し、統制の乱れた【絆獣聖団・地上部隊】を今一度、一枚岩の戦闘組織として再生させようと──」
宗 星愁は黙って頷き、再び電光掲示板を見上げた。
「覇闘開始から10分37秒か…およそ3分余り手も足も出ずにひたすら打ちまくられている訳か…もうこれ以上引き延ばしてもムダだろう…しかも、当事者は躰をガチガチに固められちまって降参の意思表示すらできねえありさまなんだからな…そろそろタオル投入するか…」
タオル投入──それは支部代表者(星愁)が右手を掲げて敵将(玄矢)に降伏の意思を伝えることを意味する。
だが、那崎恭作がその腕に手をかけて制止した。
「もう少し…せめてあと2分は待ってみましょう──黎くんも必死にガンバってるでしょうし、呀門の前肢にも最初の勢いが無くなってきてます…しかも、エグメド鋼の超硬度に打ち負けたか、先端の刃もかなり欠けてきてますよッ!
まだ勝負は分かりません!彼を信じて待ちましょうッ!!」
『ク…クソッ! 汚え手を使いやがって…オレが動けねえのをいいことに、このままタイムアップまでメッタ打ちを続けるつもりかッ!?
──だがよ、こりゃみっともなさという点じゃ、かなり上位に入る負け方じゃね?
嗚呼、もっとこの磁甲にパワーがあれば…い、いや…全ては錬装者であるオレの力不足か…事実、“最強”のスペンサー氏レベルになると自分の卓越した戦闘意志をブチ込むことで3000馬力超まで持っていくって話だからな…。
錬装磁甲の〈無干渉標準パワーが〉1000PS程度で、オレや恭くんレベルで1500、嶽さんで1600、星愁のMAXが17500あたりか…。
──しかし、ガンガンガンガン好き放題にタコ殴りしくさって…鼓膜が破れそうなぐれえやかましいし、ひっきりなしに頭は揺れるし…これをあと10分以上もやられたんじゃオカしくなっちまうぜ…。
とりあえず機眼は保護しなくちゃならねえからバイザーは閉じたが、こんなザマで土曜日、あの女性にどんな報告すりゃいいんだよ…』
後輩の戦意喪失を敏感に察知した宗 星愁はその消極性を非難せずにはいられぬようであった。
「情けない…何の抵抗も試みることなくこのままあっさりと試合放棄か?
兄貴の晃人もいい加減なヤツではあったが、少なくとも天性の格闘センスでこと覇闘においては一切ボロを出すことはなかったからな…尤も対極術士では上位陣と当たることが多かったこともあって、好機に恵まれても攻めきれず、引き分けで終わることも頻々だったが…。
──ま、兄弟共通の欠点として消極的姿勢があることは間違いないが、黎輔の場合はちょっとヒドすぎるな…晃人にはもうちょっとプライドがあったぜ…」
「……」
「少なくとも恭作が支部に残ればさすがに多少は意識して自己を律するんだろうが、このままだとホント、未来はないな…!
まあ稚拙な打算で動く性格だから、“三代目聖団長”には必死に取り入ろうとするだろうが──しかし、アイツが思ってるほど彼の性格は甘くはないはずだ…」
「──三代目ですって?
もしかして〈聖団長制度〉が復活するんですかッ!?」
絆獣聖団に属する者にとって、決して忽せにはできぬこのパワーワードを耳にした那崎恭作の反応は激しかった。
「ああ、まだこの情報は入手してなかったか?…聞いてのとおり、しばらく空位だった最高指導者の座がいよいよ復活する流れにある──そして、その人物はほぼ確定しているのさ…」
「…それで宗先輩はそれが誰かご存知なんですね?」
数秒間の沈黙の後、〈事情通〉は頷いた。
「ああ、知ってる──桂城慧斗という21歳の若者だ…」
「桂城ですって?
──ひょっとしてそれは…!?」
チラリと優秀な後輩を見やり、支部最強者は頷いた。
「さすがに察しがいいな…。
オマエはどうか知らんが、黎輔が大好きなSILKY⚔BLADES──あそこのトップの桂城聖蘭…彼女の兄貴とされる人物だよ…!」
「!?──で…ですが、一体どういう経緯で彼が…?」
「経緯か…強いて言うなら初代聖団長との濃厚な繋がりゆえ、ということだろうな…」
「初代聖団長──たしか真田時彦とかいう人物でしたね…でもですよ、この復活劇には、当然〈主宰神〉の意思が関わってるんでしょうけど、なぜこうした流れになったのか…」
「──それこそ、人の身で〈神〉のご意思を詮索するのは浅薄きわまるというしかないが、それがあのブザマな姿(と呀門の猛攻に曝される黎輔の姿を指差しながら)に象徴される、ダレきった聖団の現状を改革するためなのではないかと邪推してるんだがな…」
「…そうですか、現在の聖団は堕落してますか…」
「──少なくとも、地上部隊はな…。
つまり、異世界で日々命懸けの戦いを続けている〈本隊〉に対してはこれまでどおり【六天巫蝶】が指揮系統の頂点に立ったままだろうということだ…」
「なるほど…あくまでもそのまとまりの無さによって聖団を凋落させた【九氏族】の〈上位存在〉を復活させることで彼らを完全掌握し、統制の乱れた【絆獣聖団・地上部隊】を今一度、一枚岩の戦闘組織として再生させようと──」
宗 星愁は黙って頷き、再び電光掲示板を見上げた。
「覇闘開始から10分37秒か…およそ3分余り手も足も出ずにひたすら打ちまくられている訳か…もうこれ以上引き延ばしてもムダだろう…しかも、当事者は躰をガチガチに固められちまって降参の意思表示すらできねえありさまなんだからな…そろそろタオル投入するか…」
タオル投入──それは支部代表者(星愁)が右手を掲げて敵将(玄矢)に降伏の意思を伝えることを意味する。
だが、那崎恭作がその腕に手をかけて制止した。
「もう少し…せめてあと2分は待ってみましょう──黎くんも必死にガンバってるでしょうし、呀門の前肢にも最初の勢いが無くなってきてます…しかも、エグメド鋼の超硬度に打ち負けたか、先端の刃もかなり欠けてきてますよッ!
まだ勝負は分かりません!彼を信じて待ちましょうッ!!」
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