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第53話 召喚から始まる異世界学園生活

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〝喋る空き缶〟であるカンの新しい物語の幕開けの舞台は、ある異世界の魔法学校の入学式であった。
  
 この日、入学式の最後に儀式が予定されており、新入生達は学校側が用意した召喚陣前に順番に歩いて行くと、緊張しながら教えられた詠唱を唱えていた。

 この魔法学校に入学した新入生は、入学式が終わるとすぐに、自身の相棒となる召喚獣の召喚を行うことが決まっていた。

 そして、特にひどく緊張した面持ちの新入生の男子生徒が、自分の召喚の番が回ってくると顔を青くしていた。
  
「いよいよ僕か……お願い……僕を助けてくれる強い召喚獣を……お願いします」  
  
「次、1年3組カイン=アーキ。召喚陣の前にて、配布したプリントに書いてある詠唱を唱えなさい」
  
「は、はい!」
  
 学園教諭からカインと呼ばれた十五歳の少年は、緊張で手に持つ召喚の詠唱が書かれたプリントが大きく震えていた。
  
「い、行くぞ……〝我はカイン=アーキ! 我と共に戦い、我を護り、我を助ける者よ! 我の願いを聞き入れ、此処に姿を現せ! そして、血の盟約を我と結べ!〟」
  
 詠唱と共にカインは針を指に軽く刺し、滲み出てきた血を召喚陣に押し付けた。

 次の瞬間、召喚陣が光りだし、カインの願いを聞きいれた召喚獣が姿を現した。
  
「誰かに招ばれた気がしたカァアアアアアアン!?」
  
「……え?」
  
「何なのだ、此処は。イチカめ! 100万MPの負債さえなければ、ギャフンと言わせてやるものを!」
  
『生意気なクソ雑魚空き缶が、召喚と同時に悪態をついているから、召喚主の男の子がドン引きしてかたまってるじゃないか』
  
「悪態ついてるのは、そっちだろうカァアン!」
  
「僕の召喚獣……喋る空き缶なのぉおおお!? しかも、独り言が大きくて気持ち悪いぃいい」
  
 召喚主に、初対面で気持ち悪いと言われるカン。
  
「誰が獣だ! せめて召喚缶と呼ぶのだ!」

『いやいや、召喚缶って謎すぎるでしょ。何でも缶でも、自分を全面にアピールしようとするんじゃないよ』

「お主も、缶を使って駄洒落を言えば、何でも缶でも許されるとおもうなよ」
  
 新しい出会いと言うのは、いつでも刺激的である。

 カインは、ぶつぶつと独り言を止めない空き缶に対し、どのように話しかければ良いのか分からず、その場で固まっていた。
  
「そこの少年よ。どうしたのだ? 我を喚びだしたのは、お主なのであろう? もっと胸を張るがよかろう」
  
 カインの列を監督していた教諭も、どうみても喋る空き缶にしか見えない召喚獣が現れた事に絶句していたが、いち早く意識を取り戻した。
  
「と、兎に角です。カイン君の召喚に応じたという事は、コレが貴方の最初の召喚獣という事になります。召喚獣との契約は既に済んでいますから、一旦召喚獣を精霊界へと還しなさい」

 教諭に言われるがままに、カインは手に持っていたプリントを、震える手で持ちながら、召喚獣を還す詠唱を唱える。
  
「あ、はい! 〝我の願いに応じた者よ! 送還リターン〟!」
  
送還リターン……ん? 精霊界? イチカの書斎では無くてか?」 
  
「「……ん?」」

 カインは正しく詠唱を唱えた筈だが、カンの身には全く何も起きなかった。その為、カインと教諭は、予想外の出来事をすぐに理解出来ずに、共に思わず首を傾げた。
  
「そもそも我は、〝精霊界〟とやらから来ておらぬ。むしろ、帰り方が分からぬのだが? 今回は、潰れる事で帰ることも出来ぬし……どうしたら、我は帰ることが出来るのであろうな?」

 逆に、召喚した空き缶から、そんなことを質問される始末。結果、二人ともこれ以上考えることを止めた。
  
「カイン君……あと数人で召喚の儀が終わるので、少し待っていてください。このあと、このまま学園長室まで行きましょう」
  
「……えぇえええ!? 入学初日に学園長室へ行くんですか!?」

 絶叫するカイン。何とも運が悪い少年である。
  
「なにやらよく分からぬが、お主は名前くらい名乗ったらどうだ。まぁ、聞こえておったがな。それはそれとして、名乗るのが礼儀であろう?」
  
「……なんで空き缶が、そんなに偉そうなのさ……はぁ……僕はカイン=アーキ、君にも名前はあるのかい?」

 ただただ、地面に立っているだけの空き缶に、やや上から目線的に話しかけられ、呆れるカインだが、そこは素直に名を告げる事にした。
  
「カイン=アーキ……カィン=アァキ……缶=空き……空き缶……か……我はカンだ、よろしくな缶=空きよ。凄く、すごぉく親しみを感じる名だな。むしろ、これは運命と言える出会いかも知れぬ」
  
「違うよ!? 勝手に人の名前で連想ゲームした上に、しれっと空き缶みたいなあだ名つけようとしないでよ!? それに、同じ同類見たいな括りにしないで!?」
  
「ほほう、お主……ツッコミ系なのだな。しかも、捻くれておらぬ王道ではないか。誰かに聞かせてやりたいくらいだ」
  
『カンは、カインがツッコミ系だと知って、早くボケてツッコミ入られて潰れて悶えたいなと妄想しているんだね。このど変態缶が!』
  
「誰がど変態缶カァアン!」
  
「何なのいきなり!? ど変態缶って何!? 君の二つ名なの!?」

「どんな二つ名なのカァアン!? どうしてその発想になるカァン!? 実はアホの子なのカァアン!?」

 まさかのカインの属性に困惑するカンは、召喚主であるカインと騒ぎ立てていたが、教諭の咳払いで口を閉じた。
  
「アーキ君、後がつかえてますから、先ずは彼方の壁際にでもソレを持って移動しなさい」
  
「あ、はい! 分かりました!」
  
「コキャ!? そっと持つのだ! 中身のないアルミ缶なのだぞ我は! 腹の部分を強く持つではない! 持つときは、硬い底材と蓋材を持つように心がけよ!」

「コレ弱すぎだよぉおおお!? もう何なのぉおお!?」
  
 果たしてカンは、無事にイチカの書斎へと帰還出来るのであろうか。

 そして、これから巻き起こる騒動に、カンは否応無しに巻き込まれていくのであった。
 
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