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第52話 確認が大事だと学習した筈なのに

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「ちゃんと我の身体が、空き缶に戻っておるぅうう!?」

 イチカの書斎の机の上で、カンが喜びの声を上げた。

「よかったね」

「何してくれとんじゃぁああ!」

 そして、すぐさまキレる空き缶であった。

「え、アルミ箔の方が、良かったの?」

 最初は、ボディがアルミ缶に戻っていることに喜んだカンだったが、氷をボディの内部に詰められた挙句に、蓋で雑に潰された事に憤怒していた。

「よくも適当な技名ついて潰してくれおったなぁああ! クーラーボックスの蓋を閉めただけではないかぁああ! というか、そもそも潰すでないわぁあ!」
  
「何に怒ってるんだよ、全く。それらしい技名つけて潰してあげただけでも、感謝して欲しいくらいだよ。それに、結局潰さないと、新しい身体に転生できないじゃないか」

 最早、当たり前になっている事実を、当たり前に話すイチカ。そして、当たり前にそれに対し怒るカンであった。

「それとカンの100万MPは、しっかりこっちで肩代わりして払っておいたからね」
  
「その魔力の取引なんだが、誰に対して払っているのか、甚だ疑問なのだが? 本当に、そんなやり取りが実在するのか? 適当に我を、お主がからかっているのではないのか」

 潰されるごとに、疑心暗鬼になっていくカン。そのうち〝疑心暗鬼〟のバッドステータスを取得しても、何らおかしくないだろう。
  
「さっきいた世界の魔王だよ、取引相手はさ」
  
「……はぁああああ!?」

 普通のことのように、イチカは告げたが、カンにとっては予想の斜め上であった。
  
「流石に異なる世界では、カンに風龍を召喚させるほどの力を行使するのは、此処からでは難しいからね。さっきの世界の魔王に頼んで、100万MPで彼を介して〝力〟を行使出来るように取引したのさ」
  
「商談相手を選ばん奴だな、お主は。それに応えたあの魔王も、案外やるではないか」
  
「あ、そうだった」
  
「ん?」
  
 "カンは、100万MPの負債により称号『借金缶』を得た!"
 "カンは、イチカ対して返済を終えるまで【絶対服従】となった!"
  
「……絶対服従ぅううう!? 何じゃこのバッドステータス状態異常はぁああ!?」
  
「借金をこっちで肩代わりしただけだし、当然だよね。と言いつつも、今も然程変わらないから、大丈夫大丈夫でしょ」
  
「文言として残ると、全く気持ち的には違うカァアアアアン!?」

「そんな些細な事は置いておいて、次の話題に移ろう」

「軽いわ。結構なリアクションを見せた我の頑張りを返せ」

 イチカの言葉に、すっと冷めるカン。

「どんなものにせよ、完全に制御するというのは難しいものだよね」
  
「まぁ、そうであるな。ん? 制御? んん?……制御!?」

 何か思い出したかのように、〝制御〟と言うワードに反応し、大声で叫ぶカン。
  
「何だよいきなり大声出して、ご近所迷惑だぞ」
  
「ご近所さんいたのか……驚くのはそこではない! 魔法制御の話は、どうなっておるのだ!?  我は、制御を身につけることが出来たのカァアン!?」
  
「何言ってるの? 覚えている訳ないだろ、覚える様な事は何もしていないだろうに。スキルの取得を舐めるなよ」
  
「確かにそうなのだが、割とスキル自体はポンポン取得できたではないか。そうであれば、いつの間にやら覚えている事だってなくは無いであろう?」
  
「ないわ!」
  
「言い切りよったな!」
  
「当たり前だ! ついこの間、魔力を得たばかりの空き缶が、易々と制御出来るとおもうなよ! この空き缶が!」
  
「〝この馬鹿者が!〟みたいな感じで〝この空き缶が!〟と使うのをやめよ。特に悪口でもないのに、メンタルにダメージがはいるであろうが」
  
「だから、カンには選択肢を与えようじゃないか」
  
 イチカは、カンに向かって指を三本立てた。

「選択肢?」

 カンが訝しむ反応を見せる中で、イチカは机の引き出しからホワイトボードを取り出すと、そこに魔法の制御を取得する為の方法を、マジックで書き出した。
  
 ① 魔物がいる世界へと転移して、自力でコツを掴むまで潰れまくる
 ② 能力者達が世界の覇権を争う世界で、自力でコツを掴むまで潰れまくる
 ③ 魔法学園で魔法を一からきっちり学ぶ※
  
「さぁ、どうする?」
  
「どうするもなにも、③以外を選ぶ理由がないではないか。①と②が、クソすぎるわ」
  
「じゃぁ③に決定っと」

 イチカは、サッと③の所に赤ペンで丸をつけた。
  
「ん? この〝※〟って何ぞ?」

 カンは、③の選択肢の最後に〝※〟がついていることに、漸く気が付きイチカに尋ねる。
  
「〝※〟は転生不可ハードモードの印だから、まさか③を選ぶと思わなかったけど、流石魔王を目指す空き缶は、覚悟が違うね」
  
「……は? え?」
  
「〝※〟は完全に体力0になると魂も消滅するから、絶対に選ぶと思わなかったけど、頑張っていってらっしゃいね。幸運を、完全なる安全圏であるこの書斎から、祈ってるよ」
  
「ちょっ!? やっぱり①か②に変更をぉおお!」

「〝選択は、既に受理されております。選択の変更は、一切できません〟」

「対応が杓子定規になっておるカァアアアアン!?」

「選択する前に、確認しない駄缶が悪いね」
  
「厳しすぎないカァアアアアアアン……」

 こうしてカンの底材の下に浮かび上がった転送陣が、カンを新たな世界へと旅立たせたのだった。
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