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第38話 暴れりゅうぅう

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『物語を読んだり見たりしている時に、明らかな死亡フラグがたったキャラを見ると、結構ドキドキしちゃうよね。その点、カンは常に潰れるフラグが立っているので、逆に安心感があるのが凄いね』

「は?」
  
『どうせ潰れるんだろうって、常時思っているから、潰れるかどうかを特別心配しなくて良いからさ』
  
「さらっと、言いたい放題か! 目の前に、見事なまでの死亡フラグを建てた男の、背広の胸ポケットに収まっている我の気持ちを考えよ!」

 カンの目の前には、この危機を脱したら子供と遊ぶ約束をしている男がいたのだ。

 とても幸せそうな顔をしている男は、己の命に死神の鎌がかかっている事も知らずにいたのだ。
  
 そしてカンは、そんな男に拾われ、子供にお土産として持って帰られるために、男の胸ポケットに入れられていた。

『しかしあの銃弾は、惜しかったね』
  
「全然惜しくないわ。しっかり当たっておるし、きっちり凹んだわ。しかし、それにしても一体何が起きているのやら』
  
カンは、男の背広の胸ポケットの中で、嘆息を吐きながら呟いた。

『それにしても、流石カンだよねぇ』

「ん? 何がだ?」

『カミペディアで、その男性の事を調べたんだけどね。まさか、この男性が秘密組織のエージェントで、彼のミッションが成功するかどうかで、多くの人の命運が懸かっている状況だとはさ』
  
「おのれカミペディア! 何でも知っておるな!? というか映画の主役級の男であったのか!? 羨ましいなぁおい!」
  
『そんな、言うなれば超絶エリートの彼が今、必死に路地裏にて敵と応戦しながら逃げているの何故だと思う?』

「ん? 何かヘマをしたのか?」

「カンがその場所に落ちてきた際に起きた突風で、彼が身を隠す為に羽織っていた光学迷彩マント透明になれるマントが捲れ上がって、敵に発見されてしまったという事が、既にカミペディアにアップされているね」
  
「……」

「もし任務失敗した時の戦犯は……カンだね」
  
「申し訳ないカァアアァアアン!?」
  
 カンを背広の胸ポケットにしまった後の彼は、見事に意識を切り替えると、カンの声は一切耳に入って来なくなっていた。

 そこそこ大きな声で喚いているカンの声が、聞こえなくなる程の集中力を発揮しないと、この危機からは脱せなかったのだ。

 そして敵対組織と銃撃戦をしながらも、遂に彼は仲間が迎えに来てくれている場所へと辿り着いた。

 カンは、彼が自分に言い聞かせる様に呟いていたため、この脱出方法の事も聞こえていた。

 その上で彼が建てた死亡フラグの事を考えると、気が気ではなかった。
  
「ちゃ……ちゃんと仲間は、いてくれているのだよな?」

 カンが心配そうに、そして心の中ではある種の覚悟をしながらその時を待った。
  
「悪い! ちょっとアクシデントがあったが、間に合っ……」
  
「カィン!?」
  
 そして、無情にも乾いた銃声が突然響きわたり、それと同時に何故かカンの悲鳴が上がったのだった。
  
「こ……こふ……銃弾が……身体の中に……」
  
『どうしたんだ、カン? まるで今にも、こっちに死に戻ってきそうな転生しそうな声を出してさ』
  
「我のボディに……穴がぁあぁぁ」
  
 仲間との合流地点に着いたカン達だったが、そこで待っていた男にいきなり銃で撃たれてしまったのだった。

 しかし、そこで放たれた銃弾は、見事にカンに命中し、カンを胸ポケットにしまっていた男は、カンに命を救われた形となっていた。
  
「く……一体、これは……どういう事だ! マーク!」

「おや? リュウ、胸に何か入れていたのかい? きっちり頭にすれば良かったね」
  
「銃弾がぁあ……魔力がぁあぁ漏れりゅぅうぅ」
  
 カンを胸に入れていたリュウと呼ばれた彼は、よろめきながらも銃をマークと呼ぶ男に向けていた。そして、マークもまたリュウに向けて銃を突きつけていた。

 そんな緊迫感の中で、銃弾が見事直撃したカンは情けない声をあげていた。

 実は缶内に貯めていた魔力の影響で、銃弾が缶内で止まる事なく、グルグルと回転していたのだ。

 缶内の魔力が全て漏れ出してしまえば、再び銃弾が外へと弾け出すことは、容易に想像でき、その時までそう長くない時間だった。
  
「我の中を掻き乱さないでぇぇ」
  
「ちっ、裏切り者って訳か……マーク」
  
「そうなるね。君の最愛の息子であるユウヤ君には、僕から説明しておくよ。君のパパは、立派な最後を遂げたってね!」
  
「いらんお世話だ!」

 マークの指がリュウに向けている銃の引き金を引く瞬間、リュウは横っ飛びをしながら、胸に入っていたカンをマークへと投げつけた。
  
「カァン!? なんてことぉおお!」
  
「チッ、悪あがきを……ん? 今、空き缶が喋っただと!?」
  
 カンの悲鳴に思わず驚いてしまったマークが、一瞬の隙を見せた瞬間に、再び銃声が鳴り響いた。

 リュウの放った銃弾は、見事にマークの足を撃ち抜いた。
  
「か……は……くくく……どうやら生身では、君にはやっぱり勝てないらしいね」

 地面に片膝をついたマークだったが、そこには少しの悲壮感も無いばかりか、むしろ余裕の笑みを浮かべていた。
  
「マーク、まさかお前……奴らの改造を受けたのか……マーク!」

 その様子を見たリュウには、思い当たる節があり、悔しそうに渋面をマークに向けた。

 そして次の瞬間、マークは爆炎に包まれた。
  
「……魔力が……我の中で暴れりゅぅ……もう限界カァアン……」

「クハハハハ! コレがヒトの限界を超えた超越者の姿だぁああ!」
  
 そして爆炎がおさまると、マークだった者が、人間の姿を捨てたような化け物となり、見下ろすようにリュウを見ていた。

 そして、そんな化け物の足元には、先ほどリュウに投げられたカンが、上手い事立った状態で、着地していたのだった。
  
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