微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸

文字の大きさ
上 下
44 / 54

【第44話:実力】

しおりを挟む
 フィアたち三人と別れてからさらに少し進むと、ここにきてとうとう魔物が現れてしまった。
 現れたのは、オレも何度か戦ったことのあるCランクの魔物、ヘルナイトだ。

 ヘルナイトは力こそかなり強いが、素早さはそれなりだし、体格は大柄な冒険者と大して変わらない。
 だが、大剣や鎧を装備しており、武器を扱うことから、対人戦のスキルが要求される、魔法使いにとっては厄介な魔物だ。

 そもそも、シルバーを含まない一般的な冒険者パーティーだと、ソロではなくパーティーで戦うレベルの魔物だ。
 だから、オレが過去に戦った経験も、もちろんパーティーでの話だ。

 ちなみに死んだ剣士が蘇ったという伝承がある魔物だが、個人的には魔物なのだから、無からそのまま生れ出たと思っている。

 まぁ伝承はともかく、ヘルナイトは十分強敵なわけだが、今のオレなら倒すのはそれほど難しくないと思っている。

 だが……抵抗せずに殺されろなどと指示されると非常に不味い。

 そういう理由で、オックスがどう反応するのか内心身構えていたのだが……。

「ん~、不死の魔物はダメですね。フォーレストくん、構わないので倒してしまってくれ。面倒だからまだ死なないように頼むぞ?」

 なにか思惑があるようで、どうやらひとまずは助かったようだ。

 といっても、ヘルナイトはCランクの魔物だ。
 油断していい相手ではない。

 ただ、このタイミングで戦いを指示されたのは、オレにとってはかなり幸運なことだった。

 バフを掛けなおすチャンスだからだ。
 そろそろ切れるころだから焦っていたんだよな……。

全能力向上フルブースト1.5倍!」

 本当は全能力向上やその限界倍率は教えたくなかったのだが、バフが完全に切れるかもしれないという危険をおかしてまで隠すものでもない。

 まぁでも、そもそもサラマンダーと戦っているところを見られていたようだから、あまり意味はないのか。

 とにかく今は目の前の敵に集中しよう。

「はぁっ!!」

 オレは一気に駆け寄り間合いを詰めると、裂帛の気合いとともに剣を振り下ろした。

 しかし、ヘルナイトの身体に当たると思った瞬間、オレの一撃は大剣によって受け流されてしまった。

「っ!? これを受け流すのか!」

 最近はフィアと模擬戦を繰り返しているおかげで、剣の腕も少しずつ上がってきている。
 だから、一撃で倒すとはいかないまでも、いくらかのダメージを与えられると思っていたのだが、ヘルナイトの剣の腕はなかなか侮れないようだ。

 うまく受け流されたせいで体勢が崩れそうになるが、全能力向上フルブースト1.5倍の身体能力に任せてそのまま更に横へと踏み込み、ヘルナイトの反撃の剣を掻い潜る。

「はっ!!」

 そして、ヘルナイトの剣が斜に流れたタイミングで剣を切り返して、逆袈裟に素早く斬り上げた。

 ちっ! 浅いか!?

 これが人なら致命傷になる程度には深く斬りつけられたのだが、如何せん相手は不死の魔物だ。
 生半可な攻撃では活動停止まで追い込むことはできない。

「ちっ!? 不死の魔物は面倒だな!」

 ただ、不死の魔物とは言っても、何度も斬りつけてやれば倒すことは難しくない。
 オレたち人が勝手に不死の・・・魔物と呼んでいるだけで、別に本当に死なないわけではないからな。

「はぁっ!! ……ふっ! しっ!!」

 ヘルナイトの大剣を躱し、隙をついては何度も斬りつける。
 確実に避けて、丁寧に斬りつける。
 一度に倒せなくてもいい。

 何度も……何度も……。

「おいおい……なんだよあいつ……魔法使いじゃねぇのかよ?」

「お前よりつぇぇんじゃねぇか? 良かったなぁ、人質がいて。がははは!」

 オックスの部下たちが何かわめいているが、別に魔法使いだからと、こういう戦い方をしなければならないなんてないはずだ。

 補助魔法は素早い詠唱が可能なことから、バフとデバフを組み合わせる事で接近戦でも活躍できる可能性が高いと考えている。
 だから、フィアとの模擬戦でも自分の剣の腕をあげるために、常に全力で取り組んできたのだ。

「これで終わりだ!! はぁっ!!」

 再度、裂帛の気合いと共に振り下ろした剣は、ヘルナイトを深く袈裟に斬り裂き、その活動を停止させた。

 通常、シルバーランクの冒険者は、Cランクの魔物なら一人でなんとか倒せるものとされている。
 そういう意味では、もう胸を張ってシルバーランクだと言えるようになった。

「……やはり君は危険だね。バフの新たな使い方で格上の相手にダメージをいれられる上に、魔法使いにもかかわらず、補助魔法によって自身の強化を図って接近戦もこなすことができる。剣術も粗削りだが良いものを持っている。このまま放置するには非常に危険だ。危険だが……その実力、このまま殺すには惜しいな。どうだろう? 『薔薇の棘』に代わって私の駒になる気はないかい? そうすれば、あの女どもも助けてやらないこともないぞ?」

 どこまでも呆れるやつだ……。
 長年に渡って悪事の限りを尽くしてきたというのに、まだやり足りないのか……。

「オレがそんな頼みを受けると思うか……?」

「ははは。頼み? これは頼みではないよ。慈悲・・だ」

「慈悲、だと……」

「そう、慈悲だよ。その真面目な頭で考えてみるがいい。このままだと君は魔物に殺され、妹たちには悲惨な人生が待っているのだよ? それを君が私に忠誠を尽くすだけで少なくとも妹たちの未来は明るくなるのだから」

 なんて勝手な理屈だ……。
 その非道な行いをしようとしている張本人のお前が言うのか……。
 まったく、呆れて物も言えないとはこのことだろうか。

「ふざけるな……」

「はははは。まぁあとわずかだが時間はある。死を目前にして考えが変わったなら言ってくれ。それまでは返事を待ってやろう」

「……変わらないとは思うが、わかった」

「ほぉ~意外だな。まぁいい。でも、もうあまり時間はない。もし生きることを望むなら、早めに決める事だ」

 はらわたが煮えくり返りそうだが、最悪の場合の保険に、フィアたちを助ける手段として返事を保留する形で残しておく。
 自分が死ぬだけなら覚悟はできているが、彼女たちは何としてでも救い出したい……そのためならオレはどんなことでも……。

「じゃぁ、死へのカウントダウンを再開しようか。前へ進んで貰おう」

 オレはその言葉に無言でこたえ、もう一度歩き出したのだった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」 冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。 一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。 「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」 そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。 これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。 7/25男性向けHOTランキング1位

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

ゴミスキル【スコップ】が本当はチート級でした~無能だからと生き埋めにされたけど、どんな物でも発掘できる力でカフェを経営しながら敵を撃退する~

名無し
ファンタジー
鉱山で大きな宝石を掘り当てた主人公のセインは、仲間たちから用済みにされた挙句、生き埋めにされてしまう。なんとか脱出したところでモンスターに襲われて死にかけるが、隠居していた司祭様に助けられ、外れだと思われていたスキル【スコップ】にどんな物でも発掘できる効果があると知る。それから様々なものを発掘するうちにカフェを経営することになり、スキルで掘り出した個性的な仲間たちとともに、店を潰そうとしてくる元仲間たちを撃退していく。

離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

黒蜜きな粉
ファンタジー
元冒険者のアラサー女のライラが、離婚をして冒険者に復帰する話。 ライラはかつてはそれなりに高い評価を受けていた冒険者。 というのも、この世界ではレアな能力である精霊術を扱える精霊術師なのだ。 そんなものだから復職なんて余裕だと自信満々に思っていたら、休職期間が長すぎて冒険者登録試験を受けなおし。 周囲から過去の人、BBA扱いの前途多難なライラの新生活が始まる。 2022/10/31 第15回ファンタジー小説大賞、奨励賞をいただきました。 応援ありがとうございました!

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

処理中です...