44 / 54
【第44話:実力】
しおりを挟む
フィアたち三人と別れてからさらに少し進むと、ここにきてとうとう魔物が現れてしまった。
現れたのは、オレも何度か戦ったことのあるCランクの魔物、ヘルナイトだ。
ヘルナイトは力こそかなり強いが、素早さはそれなりだし、体格は大柄な冒険者と大して変わらない。
だが、大剣や鎧を装備しており、武器を扱うことから、対人戦のスキルが要求される、魔法使いにとっては厄介な魔物だ。
そもそも、シルバーを含まない一般的な冒険者パーティーだと、ソロではなくパーティーで戦うレベルの魔物だ。
だから、オレが過去に戦った経験も、もちろんパーティーでの話だ。
ちなみに死んだ剣士が蘇ったという伝承がある魔物だが、個人的には魔物なのだから、無からそのまま生れ出たと思っている。
まぁ伝承はともかく、ヘルナイトは十分強敵なわけだが、今のオレなら倒すのはそれほど難しくないと思っている。
だが……抵抗せずに殺されろなどと指示されると非常に不味い。
そういう理由で、オックスがどう反応するのか内心身構えていたのだが……。
「ん~、不死の魔物はダメですね。フォーレストくん、構わないので倒してしまってくれ。面倒だからまだ死なないように頼むぞ?」
なにか思惑があるようで、どうやらひとまずは助かったようだ。
といっても、ヘルナイトはCランクの魔物だ。
油断していい相手ではない。
ただ、このタイミングで戦いを指示されたのは、オレにとってはかなり幸運なことだった。
バフを掛けなおすチャンスだからだ。
そろそろ切れるころだから焦っていたんだよな……。
「全能力向上1.5倍!」
本当は全能力向上やその限界倍率は教えたくなかったのだが、バフが完全に切れるかもしれないという危険をおかしてまで隠すものでもない。
まぁでも、そもそもサラマンダーと戦っているところを見られていたようだから、あまり意味はないのか。
とにかく今は目の前の敵に集中しよう。
「はぁっ!!」
オレは一気に駆け寄り間合いを詰めると、裂帛の気合いとともに剣を振り下ろした。
しかし、ヘルナイトの身体に当たると思った瞬間、オレの一撃は大剣によって受け流されてしまった。
「っ!? これを受け流すのか!」
最近はフィアと模擬戦を繰り返しているおかげで、剣の腕も少しずつ上がってきている。
だから、一撃で倒すとはいかないまでも、いくらかのダメージを与えられると思っていたのだが、ヘルナイトの剣の腕はなかなか侮れないようだ。
うまく受け流されたせいで体勢が崩れそうになるが、全能力向上1.5倍の身体能力に任せてそのまま更に横へと踏み込み、ヘルナイトの反撃の剣を掻い潜る。
「はっ!!」
そして、ヘルナイトの剣が斜に流れたタイミングで剣を切り返して、逆袈裟に素早く斬り上げた。
ちっ! 浅いか!?
これが人なら致命傷になる程度には深く斬りつけられたのだが、如何せん相手は不死の魔物だ。
生半可な攻撃では活動停止まで追い込むことはできない。
「ちっ!? 不死の魔物は面倒だな!」
ただ、不死の魔物とは言っても、何度も斬りつけてやれば倒すことは難しくない。
オレたち人が勝手に不死の魔物と呼んでいるだけで、別に本当に死なないわけではないからな。
「はぁっ!! ……ふっ! しっ!!」
ヘルナイトの大剣を躱し、隙をついては何度も斬りつける。
確実に避けて、丁寧に斬りつける。
一度に倒せなくてもいい。
何度も……何度も……。
「おいおい……なんだよあいつ……魔法使いじゃねぇのかよ?」
「お前よりつぇぇんじゃねぇか? 良かったなぁ、人質がいて。がははは!」
オックスの部下たちが何かわめいているが、別に魔法使いだからと、こういう戦い方をしなければならないなんてないはずだ。
補助魔法は素早い詠唱が可能なことから、バフとデバフを組み合わせる事で接近戦でも活躍できる可能性が高いと考えている。
だから、フィアとの模擬戦でも自分の剣の腕をあげるために、常に全力で取り組んできたのだ。
「これで終わりだ!! はぁっ!!」
再度、裂帛の気合いと共に振り下ろした剣は、ヘルナイトを深く袈裟に斬り裂き、その活動を停止させた。
通常、シルバーランクの冒険者は、Cランクの魔物なら一人でなんとか倒せるものとされている。
そういう意味では、もう胸を張ってシルバーランクだと言えるようになった。
「……やはり君は危険だね。バフの新たな使い方で格上の相手にダメージをいれられる上に、魔法使いにもかかわらず、補助魔法によって自身の強化を図って接近戦もこなすことができる。剣術も粗削りだが良いものを持っている。このまま放置するには非常に危険だ。危険だが……その実力、このまま殺すには惜しいな。どうだろう? 『薔薇の棘』に代わって私の駒になる気はないかい? そうすれば、あの女どもも助けてやらないこともないぞ?」
どこまでも呆れるやつだ……。
長年に渡って悪事の限りを尽くしてきたというのに、まだやり足りないのか……。
「オレがそんな頼みを受けると思うか……?」
「ははは。頼み? これは頼みではないよ。慈悲だ」
「慈悲、だと……」
「そう、慈悲だよ。その真面目な頭で考えてみるがいい。このままだと君は魔物に殺され、妹たちには悲惨な人生が待っているのだよ? それを君が私に忠誠を尽くすだけで少なくとも妹たちの未来は明るくなるのだから」
なんて勝手な理屈だ……。
その非道な行いをしようとしている張本人のお前が言うのか……。
まったく、呆れて物も言えないとはこのことだろうか。
「ふざけるな……」
「はははは。まぁあとわずかだが時間はある。死を目前にして考えが変わったなら言ってくれ。それまでは返事を待ってやろう」
「……変わらないとは思うが、わかった」
「ほぉ~意外だな。まぁいい。でも、もうあまり時間はない。もし生きることを望むなら、早めに決める事だ」
はらわたが煮えくり返りそうだが、最悪の場合の保険に、フィアたちを助ける手段として返事を保留する形で残しておく。
自分が死ぬだけなら覚悟はできているが、彼女たちは何としてでも救い出したい……そのためならオレはどんなことでも……。
「じゃぁ、死へのカウントダウンを再開しようか。前へ進んで貰おう」
オレはその言葉に無言でこたえ、もう一度歩き出したのだった。
現れたのは、オレも何度か戦ったことのあるCランクの魔物、ヘルナイトだ。
ヘルナイトは力こそかなり強いが、素早さはそれなりだし、体格は大柄な冒険者と大して変わらない。
だが、大剣や鎧を装備しており、武器を扱うことから、対人戦のスキルが要求される、魔法使いにとっては厄介な魔物だ。
そもそも、シルバーを含まない一般的な冒険者パーティーだと、ソロではなくパーティーで戦うレベルの魔物だ。
だから、オレが過去に戦った経験も、もちろんパーティーでの話だ。
ちなみに死んだ剣士が蘇ったという伝承がある魔物だが、個人的には魔物なのだから、無からそのまま生れ出たと思っている。
まぁ伝承はともかく、ヘルナイトは十分強敵なわけだが、今のオレなら倒すのはそれほど難しくないと思っている。
だが……抵抗せずに殺されろなどと指示されると非常に不味い。
そういう理由で、オックスがどう反応するのか内心身構えていたのだが……。
「ん~、不死の魔物はダメですね。フォーレストくん、構わないので倒してしまってくれ。面倒だからまだ死なないように頼むぞ?」
なにか思惑があるようで、どうやらひとまずは助かったようだ。
といっても、ヘルナイトはCランクの魔物だ。
油断していい相手ではない。
ただ、このタイミングで戦いを指示されたのは、オレにとってはかなり幸運なことだった。
バフを掛けなおすチャンスだからだ。
そろそろ切れるころだから焦っていたんだよな……。
「全能力向上1.5倍!」
本当は全能力向上やその限界倍率は教えたくなかったのだが、バフが完全に切れるかもしれないという危険をおかしてまで隠すものでもない。
まぁでも、そもそもサラマンダーと戦っているところを見られていたようだから、あまり意味はないのか。
とにかく今は目の前の敵に集中しよう。
「はぁっ!!」
オレは一気に駆け寄り間合いを詰めると、裂帛の気合いとともに剣を振り下ろした。
しかし、ヘルナイトの身体に当たると思った瞬間、オレの一撃は大剣によって受け流されてしまった。
「っ!? これを受け流すのか!」
最近はフィアと模擬戦を繰り返しているおかげで、剣の腕も少しずつ上がってきている。
だから、一撃で倒すとはいかないまでも、いくらかのダメージを与えられると思っていたのだが、ヘルナイトの剣の腕はなかなか侮れないようだ。
うまく受け流されたせいで体勢が崩れそうになるが、全能力向上1.5倍の身体能力に任せてそのまま更に横へと踏み込み、ヘルナイトの反撃の剣を掻い潜る。
「はっ!!」
そして、ヘルナイトの剣が斜に流れたタイミングで剣を切り返して、逆袈裟に素早く斬り上げた。
ちっ! 浅いか!?
これが人なら致命傷になる程度には深く斬りつけられたのだが、如何せん相手は不死の魔物だ。
生半可な攻撃では活動停止まで追い込むことはできない。
「ちっ!? 不死の魔物は面倒だな!」
ただ、不死の魔物とは言っても、何度も斬りつけてやれば倒すことは難しくない。
オレたち人が勝手に不死の魔物と呼んでいるだけで、別に本当に死なないわけではないからな。
「はぁっ!! ……ふっ! しっ!!」
ヘルナイトの大剣を躱し、隙をついては何度も斬りつける。
確実に避けて、丁寧に斬りつける。
一度に倒せなくてもいい。
何度も……何度も……。
「おいおい……なんだよあいつ……魔法使いじゃねぇのかよ?」
「お前よりつぇぇんじゃねぇか? 良かったなぁ、人質がいて。がははは!」
オックスの部下たちが何かわめいているが、別に魔法使いだからと、こういう戦い方をしなければならないなんてないはずだ。
補助魔法は素早い詠唱が可能なことから、バフとデバフを組み合わせる事で接近戦でも活躍できる可能性が高いと考えている。
だから、フィアとの模擬戦でも自分の剣の腕をあげるために、常に全力で取り組んできたのだ。
「これで終わりだ!! はぁっ!!」
再度、裂帛の気合いと共に振り下ろした剣は、ヘルナイトを深く袈裟に斬り裂き、その活動を停止させた。
通常、シルバーランクの冒険者は、Cランクの魔物なら一人でなんとか倒せるものとされている。
そういう意味では、もう胸を張ってシルバーランクだと言えるようになった。
「……やはり君は危険だね。バフの新たな使い方で格上の相手にダメージをいれられる上に、魔法使いにもかかわらず、補助魔法によって自身の強化を図って接近戦もこなすことができる。剣術も粗削りだが良いものを持っている。このまま放置するには非常に危険だ。危険だが……その実力、このまま殺すには惜しいな。どうだろう? 『薔薇の棘』に代わって私の駒になる気はないかい? そうすれば、あの女どもも助けてやらないこともないぞ?」
どこまでも呆れるやつだ……。
長年に渡って悪事の限りを尽くしてきたというのに、まだやり足りないのか……。
「オレがそんな頼みを受けると思うか……?」
「ははは。頼み? これは頼みではないよ。慈悲だ」
「慈悲、だと……」
「そう、慈悲だよ。その真面目な頭で考えてみるがいい。このままだと君は魔物に殺され、妹たちには悲惨な人生が待っているのだよ? それを君が私に忠誠を尽くすだけで少なくとも妹たちの未来は明るくなるのだから」
なんて勝手な理屈だ……。
その非道な行いをしようとしている張本人のお前が言うのか……。
まったく、呆れて物も言えないとはこのことだろうか。
「ふざけるな……」
「はははは。まぁあとわずかだが時間はある。死を目前にして考えが変わったなら言ってくれ。それまでは返事を待ってやろう」
「……変わらないとは思うが、わかった」
「ほぉ~意外だな。まぁいい。でも、もうあまり時間はない。もし生きることを望むなら、早めに決める事だ」
はらわたが煮えくり返りそうだが、最悪の場合の保険に、フィアたちを助ける手段として返事を保留する形で残しておく。
自分が死ぬだけなら覚悟はできているが、彼女たちは何としてでも救い出したい……そのためならオレはどんなことでも……。
「じゃぁ、死へのカウントダウンを再開しようか。前へ進んで貰おう」
オレはその言葉に無言でこたえ、もう一度歩き出したのだった。
31
あなたにおすすめの小説
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。
向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。
幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。
最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです!
勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。
だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!?
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!
志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」
皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。
そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?
『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】婚約者と仕事を失いましたが、すべて隣国でバージョンアップするようです。
鋼雅 暁
ファンタジー
聖女として働いていたアリサ。ある日突然、王子から婚約破棄を告げられる。
さらに、偽聖女と決めつけられる始末。
しかし、これ幸いと王都を出たアリサは辺境の地でのんびり暮らすことに。しかしアリサは自覚のない「魔力の塊」であったらしく、それに気付かずアリサを放り出した王国は傾き、アリサの魔力に気付いた隣国は皇太子を派遣し……捨てる国あれば拾う国あり!?
他サイトにも重複掲載中です。
パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる
日之影ソラ
ファンタジー
「ラスト、今日でお前はクビだ」
冒険者パーティで魔力タンク兼雑用係をしていたラストは、ある日突然リーダーから追放を宣告されてしまった。追放の理由は戦闘で役に立たないから。戦闘中に『コネクト』スキルで仲間と繋がり、仲間たちに自信の魔力を分け与えていたのだが……。それしかやっていないことを責められ、戦える人間のほうがマシだと仲間たちから言い放たれてしまう。
一人になり途方にくれるラストだったが、そこへ行方不明だった冒険者の祖父から送り物が届いた。贈り物と一緒に入れられた手紙には一言。
「ラストよ。彼女たちはお前の力になってくれる。ドール使いとなり、使い熟してみせよ」
そう記され、大きな木箱の中に入っていたのは綺麗な少女だった。
これは無能と言われた一人の冒険者が、自動人形(ドール)と共に成り上がる物語。
7/25男性向けHOTランキング1位
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる