瀧華国転生譚 美貌の悪役文官は病弱皇子を手懐けたい

飛鳥えん

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第3部(終章)

味方、だよな?

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(……元からそのつもりだけどさぁ)

花鶏の表情は穏やかだが、目が据わっている。それを見た蘇芳の心臓はきゅっと軋んだ。別にときめいているわけではない。

「ひとりになんてしません。今までも、これからも、私が殿下のそばからいなくなるなんてあり得ない」
「先生ならそう言ってくれると思った」

安堵の笑みを見せる花鶏に、ほっと息を吐いた時。

「蘇芳殿っ!」

波瀬の怒声が届く前に、花鶏が蘇芳を抱き寄せ片足を軸に身体を反転させた。

「花鶏、怪我ッ」
「大丈夫です!掴まって!」

大きな水しぶきを上げて、東雲の巨体が二人の傍に落下した。

(霊獣が力負けしてる!?)

東雲がシュウシュウと威嚇しながら鎌首をもたげる。黒い鱗が水に濡れつやつやと光った。


<睡蓮>は一糸乱れぬ姿で立っていた。
その腕には水底にいた沙羅の身体を抱えている。
幽玄ないで立ちの古装、白い髪、中性的な青白い顔立ちは秀麗で、眦を朱色の化粧が彩っていた。

「殿下、さっきまでアレが誰の姿に見えてました?」
「……やっぱりそれも知ってたんだ。先生ですよ。嬉しい?」
「もし他の人間だったらお仕置きでしたね」

腰を抱かれたまま答えると、花鶏が軽く目を瞠った。

「先生って……まあいいや。あれが本当の<睡蓮>ですか。東雲より強い?」
「ええ、多分」
「……後ろに俺の剣が落ちてる。俺が拾ったら、はつりたちを連れて通路に逃げてください。折を見て東雲を向かわせるから、何とか地上へ」
「賛成です。あの二人を先に逃がしましょう」
「先生もですよ、俺の話聞いてた?」
「私の話を聞いてましたか? 言うことを聞きなさい。貴方と離れてると心配で生きた心地がしないんですよ」
花鶏は口をつぐんだ。片方の眉を上げ「我儘」と吐き捨てる。蘇芳も同じ真似をして「今更」と返してやった。

「お二人とも、そういうのは後にしろ! この後どうすりゃいいんだよ!」

波瀬がはつりを引っ張り起しながら怒鳴った。うん。まあ、もっともなご意見だ。
花鶏が鋭く叫んだ。

「はつりを連れて通路を進め!どの道でもいい、後で東雲に追いかけさせるから」


波瀬はちら、と<睡蓮>を見てから、はつりを押し出すようにして洞窟奥へ向かった。
はつりは状況が分からず戸惑っている。
<睡蓮>は助けるべき相手側だったのだ。少なくとも、さっきまでは。

花鶏のように、蘇芳の言葉を全面的に信じる以外に選択肢を持たない人間は、ある意味迷わないで済む。
蘇芳が黒と言えば、天帝が白と言おうが花鶏にとっては黒なのだ。


「花鶏様と蘇芳先生は一緒に行かないんですか!?」
「俺もそう思いますけどね!あの二人はいつもああなんで、多分ここは指示に従った方がいいですよ」


岩窟に残された面々は、静かに対峙した。口火を切ったのは蘇芳だ。
(沙羅が目覚めるまでどれくらいかかるんだ? ほんとに魂を呼び起こせるんだよな?)

「一つ聞きたいんだが。沙羅の身体を生前のまま保つためには、よそから定期的に生気を補充する必要があったんじゃないのか?」

<睡蓮>が初めて蘇芳に焦点を合わせた。合点がいったような顔で、

「そなたか、私の茎を切ったのは。あんな古い嫌がらせを受けたのは久々で、驚いていたのだ」

嫌がらせって。れっきとした民間伝承のまじないだぞ。
躄蟹いざりがに……ザリガニは睡蓮の天敵だ。葉や茎を傷めてしまう。それを紙に書いて枕の下に置くのは、元凶の苦手なもので撃退する、という古式ゆかしい対処法だ。

狐なら犬を。悪夢には獏を。睡蓮にはザリガニを。無論、ただのザリガニに<睡蓮>は倒せないが。

たいした効果がなくて、結局はつりの神力に頼るのがゲーム中盤の流れだった。

定期的に人間の生気を奪い、沙羅に流していたのは本当らしい。私の茎というからには、沙羅の皮膚から伸びる睡蓮の茎も<睡蓮>の一部なのかもしれない。


「……彼女を目覚めさせてどうするつもりだ? 沙羅の家族を殺しておいて、彼女が許すとでも?」
「家族……? 沙羅の家族は私だ」

人外サイコパスめ。話にならん。
蘇芳が顔をしかめたその時、それまで人形のようにぐったりしていた沙羅の手が、ぴく、と動いた。
皮膚に食い込む睡蓮の茎がみるみる茶色く干からび、最後は水中に落ちた


「沙羅?……ああ、沙羅、本当に目を覚ましてくれるのか……百年ぶりに君に会える」

喜色も露わな<睡蓮>に抱かれた女の瞼が、睫毛を震わせて開かれた。
蘇芳は息を呑んだ。

女が微笑んだのだ。青白かった頬に赤みが差し、赤い唇がほころぶ。細い腕が<睡蓮>に向かって伸ばされ、そしてー。

蘇芳は慌てた。
思っていたのと違う。こんな甘ったるい空気を醸されて堪るか。

(夫を殺されて恨んでるんじゃなかったのか!?こっちはあんたを頼りにしてるってのに……!)



「沙、……ッ」
<睡蓮>の言葉が途切れた。蘇芳と花鶏は息を呑む。
<睡蓮>は奇妙な表情を浮かべた。無邪気な笑みが消え、不思議そうに自身の胸元を見下ろす。

沙羅の白い腕は、片方が<睡蓮>の後頭部に優しく添えられ、もう片方は今まさに、己を抱く男の胸部を貫通していた。
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