77 / 117
第3部(終章)
この世界にいる理由
しおりを挟む
「先生、すみません、俺の足のせいで。あと一人くらい乗れますよ?」
東雲の背に乗った花鶏を睨むと、しゅんと肩を落とした。絆されてはいけない。この子は蘇芳に甘やかされるために平気で哀れっぽい演技をして見せるのだ。
沙羅が姿を消した後、二人は東雲とともに、先に逃がしたはつり達を追って地上を目指していた。
蘇芳がぐったりしているのは疲れたせいではなく、興奮した花鶏によって無理矢理長い長いディープキスに付き合わされていたせいだ。
(俺はこの子の教育をどこで間違えたんだろう。あんなもの見た後で普通そんな気分になれるか?……盛り上がる要素ないだろ、 死にかけたんだぞ)
蘇芳は諦めて、仕方なく花鶏の気が済むまで付き合った。初めての時の仕返しのつもりか、蘇芳が酸欠で脱力すると、ようやく花鶏は口内を蹂躙するのをやめて、東雲を呼んだ。
「あれ、あいつどこへ行った?」
「……さっき壁にぶつかって物凄い音してましたよね? 」
くたりと花鶏の肩に凭れたまま、ジンジンする唇を舐める。見なくても分かる。絶対腫れてる。
「そうでした、どっかで伸びてるのかも。探してきます」
二人分の唾液に濡れた口許を拭って、花鶏が立ち上がる。座り込んだままの蘇芳に、心配そうな顔を向けた。
「先生?どうしたの」
蘇芳は不機嫌にしっしと手を振った。
「戻ったら手を貸してください」
「もしかして……力が抜けちゃいましたか?」
見上げると、嬉しそうに頬を染めている。ぎり、と奥歯を噛み、蘇芳は無理矢理、引き攣った笑みを浮かべた。
こんなことで時間を無駄にしたくない。一刻も早くはつり達を見つけて地上へ出なくては。
「ええ、そうですね!殿下があんまりお上手になられていて、先生は吃驚しましたよ」
「え、本当ですか?良かった、俺、勉強したんですよ。先生に喜んで欲しくて」
恥じらう乙女のように嬉しそうにする花鶏を前に、別の意味で力が抜ける。もう一度手を振った。
「いいから、東雲を探してきてください」
かわいそうに、東雲は岩場の陰で小さくなって伸びているところを花鶏にひっぱたかれて起こされた。
(霊獣の扱いがこんなに雑なのは、うちの子だけじゃないのか)
思えば最初から、そこらへ放り投げたり、ぺしぺし叩いたり。何をされても花鶏を慕う東雲が、健気でかわいそうになってくる。
元のサイズに戻った東雲の背中には、足を怪我した花鶏が跨っている。狭い通路を東雲の嗅覚に頼って進むと、徐々に道幅が広くなり、緩い坂道になった。かすかに空気が流れている。外からの風が吹き込んでいるのだ。
歩きながら、花鶏とこれまでの情報を交換した。
全面的に蘇芳の言葉を受け入れる花鶏でなければ、ここまであけすけな会話は出来ない。なんでそんなことを知っているのか、花鶏は不思議に思っても問いただそうとしないからだ。
花鶏から聞いた<睡蓮>の話。蘇芳が知る<沙羅>の話。
二つ合わせると、確かに嘘が混じっているようだ。ふたつを繋げようとしても、矛盾が生じてうまくいかない。
二の里の住民は偽物だし、里長もグルとなると、蘇芳の知っている話とも違ってくる。
(原作では所員たちはこの場所に監禁されていたのに、いなかった。それに俺たちをここへ来るよう仕向けたのは誰だ?巫監術府に訴状を持ってきたのは?沙羅は恨みを晴らすために<睡蓮>の力を継承したのか?)
中でも、蘇芳が引っかかったのは「生贄」のくだりだ。
「生贄? 何の話です」
花鶏は、蘇芳も当然「生贄」について知っていると思っていたらしい。
「そうか、先生はあの時いなかったから知らないんですね……月代の里では代々、沙羅の家系が生贄を出していたそうです。滞れば罰として、残った里を順番に水没させる。次は二の里の番でした」
花鶏がそういえば、と眉をひそめた。
「<睡蓮>が言っていました。沙羅の願いは最小限の代償で里を守り続けること、成就まで残り二つだと」
「残り二つ……」
妙な言い方だ。自分が守りたかった里に対して、そんな言い方をするだろうか。
……一度考え方をリセットする必要があるかもしれない。
沙羅の立場に立って考えないと駄目だ。悲劇のヒロインではない、等身大の感情を持った沙羅。
(俺が沙羅の立場なら、何に悲しみ、怒るだろう)
「……わせればいいのに」
「え?」
思考に耽っていたせいで、聞き逃しそうになった。花鶏が東雲の背中の上から眺め下ろしてくる。
「<三觜>ですよ。神力があれば願い事が出来るんでしょう?俺に使わせればいいのに」
「それは……」
考えた。原作の正当な使い手であるはつりにそうして欲しいのが本音だが、もし断られたら、次の頼みの綱は花鶏だ。
無意識に、懐に回収した<三觜>に手を置く。花鶏がその様子を見て苦笑する。
「俺がそれを持ったら別の願い事をするんじゃないかって思ってます? だからはつりには話したけど、俺には<カラミヒエカ>と<三觜>が同じものだって教えてくれなかったんですね」
ぎくりとした。元から頭がいい子だ。蘇芳に関しては特に察しが良い。
「先生の心配した通りですよ」
花鶏が笑った。屈託のない笑顔だ。
「何でも願いが叶うなら、俺は国難から皆を守るためじゃなくて、自分のために使ってしまいたい。例えば、俺と先生以外の人間がいなくなったら、安心して二人で死ぬまで暮らせます。それが無理なら、こんなのはどうです? みんなの記憶から蘇芳という人間の記憶だけ消してしまうんです。それで先生をどこかに隠してしまえば、永遠に俺だけが先生を独占できる」
黙り込む蘇芳から目を逸らして、愉快そうに続ける。風に混じる草の匂いが強くなった。
「こんなのも考えたんです。先生が不治の病にかかったことにして、治療のために都から離れた場所に匿ってしまうんです。思いついたのは12歳の時ですよ。当時はこれが一番お気に入りで、よく空想してました。先生知ってましたか?」
「花鶏」
「あの頃は先生と恋人になれると思ってなかったから、自分に都合のいい想像をして楽しむしかなかったんです。でも、今は先生も俺を好いてくれる。<三觜>を俺に渡すのはやめておいた方が賢明ですよ」
「私に罰して欲しくて言ってるなら無駄ですよ」
今度は花鶏が黙り込んだ。図星らしい。
「<睡蓮>の術中にはまった名残ですね。自分でもわかってるでしょう? たとえ本心であったとしても、あなたの本当の願望はそうじゃない」
花鶏の奥底に秘めた願望も、優しさも一番よく知っている。
この子には今、蘇芳以外にも大事に想う人間がちゃんといるはずだ。
土壇場で、きっと花鶏は私利私欲に<三觜>を使わない。花鶏に対する信頼は揺らがなかった。
「そんなの、分からないじゃないですか。俺は本当にそういう妄想を昔から何度もしてた。……怒ってますよね」
「怒ってますよ」
どんよりと重い空気が花鶏から流れてくる。
「恋人の不安を取り除けない自分に対して怒ってます」
花鶏がはっと蘇芳を見つめた。蘇芳は前を見たまま歩く。
「<三觜>のことを黙っていたのは、あれを使う権利が本来はつり様にしかないからです。理由は……ごめんなさい、言えません。でも、あなたを信用していないわけじゃないし、はつり様に頼んで駄目だった時は、殿下を頼るつもりでした」
ゲームの設定に準拠した、なんて言えるわけもない。どうしても、この秘密にだけは近づけたくなかった。
他のことは誤魔化せるが、さすがにシナリオの本筋に関わるアイテムについて、蘇芳からは教えたくなかった。詮索されても答えられない。
「殿下がどうしてもそうしたいなら、私を監禁しようが誘拐しようが、構いませんよ」
「え」
「ただ、言い方は変えましょう。監禁じゃなくて同居です。誘拐じゃなくて駆け落ちですね」
ぽかんと口を開けた花鶏に微笑んだ。
「付き合いますよ。殿下が安心できるまで、どこへでもね。今すぐに信じてもらえなくとも……殿下が、私がこの世界にいるたった一つの理由なんです」
花鶏の手を取って、手の甲に口づけた。
「愛しているんです……何十年かかっても、証明してみせますから」
……ちょっと気障だったかもしれない。
本心だから後悔はないが、愛しているなんて、口にしたのは生まれて初めてだった。
そういう言葉は、もっとロマンティックな場面でお膳立てして言うもんだと思っていた。
こんな暗い洞窟で、濡れねずみ状態でなんて、花鶏は呆れてやしないだろうか。
ちらっと伺うと花鶏は耳まで赤くして、ぽわんとした顔をしている。
(あ、大丈夫だった)
「そういえば、さっき12歳の頃からって言いませんでしたか?」
「……え、ああ、言いましたけど」
「まだ子供じゃないですか。そんな昔から?……だって、そんなこと微塵も」
「相手にされるわけないと思ったから。せめて少しでも好かれたくて必死だったんです」
蘇芳の心臓がぎゅ、と締め付けられた。さっきと違い、今度はちゃんとときめいた。
こういうところが、花鶏が沼たる所以なのだ。嵌るとやばい。蘇芳はどっぷり頭まで浸かっていて、もう手の施しようがない。
「無事帰れたら、今夜は一緒に寝ましょう」
「……は?」
「そういう気分なんです。本当に貴方は可愛いですね」
花鶏は理解できないと言いたげな顔だ。
「怖くないんですか? 俺が言うのも難だけど……先生、常人とずれてますよ」
何故か呆れられてしまい、釈然としなかった。花鶏にだけは言われたくなかった。
前方に明かりが見えた。本物の月光だ。どれほど時間がたったのか、夜のとばりが下りた山林は涼やな夏の風が吹いている。
洞窟の外に出た時、東雲が警戒とともに蘇芳の前に身を乗り出した。
「ご無事でしたか、蘇芳殿。それに、花鶏殿下も」
目を見開く。そこにいたのは顔の包帯を取り去った末草だった。
東雲の背に乗った花鶏を睨むと、しゅんと肩を落とした。絆されてはいけない。この子は蘇芳に甘やかされるために平気で哀れっぽい演技をして見せるのだ。
沙羅が姿を消した後、二人は東雲とともに、先に逃がしたはつり達を追って地上を目指していた。
蘇芳がぐったりしているのは疲れたせいではなく、興奮した花鶏によって無理矢理長い長いディープキスに付き合わされていたせいだ。
(俺はこの子の教育をどこで間違えたんだろう。あんなもの見た後で普通そんな気分になれるか?……盛り上がる要素ないだろ、 死にかけたんだぞ)
蘇芳は諦めて、仕方なく花鶏の気が済むまで付き合った。初めての時の仕返しのつもりか、蘇芳が酸欠で脱力すると、ようやく花鶏は口内を蹂躙するのをやめて、東雲を呼んだ。
「あれ、あいつどこへ行った?」
「……さっき壁にぶつかって物凄い音してましたよね? 」
くたりと花鶏の肩に凭れたまま、ジンジンする唇を舐める。見なくても分かる。絶対腫れてる。
「そうでした、どっかで伸びてるのかも。探してきます」
二人分の唾液に濡れた口許を拭って、花鶏が立ち上がる。座り込んだままの蘇芳に、心配そうな顔を向けた。
「先生?どうしたの」
蘇芳は不機嫌にしっしと手を振った。
「戻ったら手を貸してください」
「もしかして……力が抜けちゃいましたか?」
見上げると、嬉しそうに頬を染めている。ぎり、と奥歯を噛み、蘇芳は無理矢理、引き攣った笑みを浮かべた。
こんなことで時間を無駄にしたくない。一刻も早くはつり達を見つけて地上へ出なくては。
「ええ、そうですね!殿下があんまりお上手になられていて、先生は吃驚しましたよ」
「え、本当ですか?良かった、俺、勉強したんですよ。先生に喜んで欲しくて」
恥じらう乙女のように嬉しそうにする花鶏を前に、別の意味で力が抜ける。もう一度手を振った。
「いいから、東雲を探してきてください」
かわいそうに、東雲は岩場の陰で小さくなって伸びているところを花鶏にひっぱたかれて起こされた。
(霊獣の扱いがこんなに雑なのは、うちの子だけじゃないのか)
思えば最初から、そこらへ放り投げたり、ぺしぺし叩いたり。何をされても花鶏を慕う東雲が、健気でかわいそうになってくる。
元のサイズに戻った東雲の背中には、足を怪我した花鶏が跨っている。狭い通路を東雲の嗅覚に頼って進むと、徐々に道幅が広くなり、緩い坂道になった。かすかに空気が流れている。外からの風が吹き込んでいるのだ。
歩きながら、花鶏とこれまでの情報を交換した。
全面的に蘇芳の言葉を受け入れる花鶏でなければ、ここまであけすけな会話は出来ない。なんでそんなことを知っているのか、花鶏は不思議に思っても問いただそうとしないからだ。
花鶏から聞いた<睡蓮>の話。蘇芳が知る<沙羅>の話。
二つ合わせると、確かに嘘が混じっているようだ。ふたつを繋げようとしても、矛盾が生じてうまくいかない。
二の里の住民は偽物だし、里長もグルとなると、蘇芳の知っている話とも違ってくる。
(原作では所員たちはこの場所に監禁されていたのに、いなかった。それに俺たちをここへ来るよう仕向けたのは誰だ?巫監術府に訴状を持ってきたのは?沙羅は恨みを晴らすために<睡蓮>の力を継承したのか?)
中でも、蘇芳が引っかかったのは「生贄」のくだりだ。
「生贄? 何の話です」
花鶏は、蘇芳も当然「生贄」について知っていると思っていたらしい。
「そうか、先生はあの時いなかったから知らないんですね……月代の里では代々、沙羅の家系が生贄を出していたそうです。滞れば罰として、残った里を順番に水没させる。次は二の里の番でした」
花鶏がそういえば、と眉をひそめた。
「<睡蓮>が言っていました。沙羅の願いは最小限の代償で里を守り続けること、成就まで残り二つだと」
「残り二つ……」
妙な言い方だ。自分が守りたかった里に対して、そんな言い方をするだろうか。
……一度考え方をリセットする必要があるかもしれない。
沙羅の立場に立って考えないと駄目だ。悲劇のヒロインではない、等身大の感情を持った沙羅。
(俺が沙羅の立場なら、何に悲しみ、怒るだろう)
「……わせればいいのに」
「え?」
思考に耽っていたせいで、聞き逃しそうになった。花鶏が東雲の背中の上から眺め下ろしてくる。
「<三觜>ですよ。神力があれば願い事が出来るんでしょう?俺に使わせればいいのに」
「それは……」
考えた。原作の正当な使い手であるはつりにそうして欲しいのが本音だが、もし断られたら、次の頼みの綱は花鶏だ。
無意識に、懐に回収した<三觜>に手を置く。花鶏がその様子を見て苦笑する。
「俺がそれを持ったら別の願い事をするんじゃないかって思ってます? だからはつりには話したけど、俺には<カラミヒエカ>と<三觜>が同じものだって教えてくれなかったんですね」
ぎくりとした。元から頭がいい子だ。蘇芳に関しては特に察しが良い。
「先生の心配した通りですよ」
花鶏が笑った。屈託のない笑顔だ。
「何でも願いが叶うなら、俺は国難から皆を守るためじゃなくて、自分のために使ってしまいたい。例えば、俺と先生以外の人間がいなくなったら、安心して二人で死ぬまで暮らせます。それが無理なら、こんなのはどうです? みんなの記憶から蘇芳という人間の記憶だけ消してしまうんです。それで先生をどこかに隠してしまえば、永遠に俺だけが先生を独占できる」
黙り込む蘇芳から目を逸らして、愉快そうに続ける。風に混じる草の匂いが強くなった。
「こんなのも考えたんです。先生が不治の病にかかったことにして、治療のために都から離れた場所に匿ってしまうんです。思いついたのは12歳の時ですよ。当時はこれが一番お気に入りで、よく空想してました。先生知ってましたか?」
「花鶏」
「あの頃は先生と恋人になれると思ってなかったから、自分に都合のいい想像をして楽しむしかなかったんです。でも、今は先生も俺を好いてくれる。<三觜>を俺に渡すのはやめておいた方が賢明ですよ」
「私に罰して欲しくて言ってるなら無駄ですよ」
今度は花鶏が黙り込んだ。図星らしい。
「<睡蓮>の術中にはまった名残ですね。自分でもわかってるでしょう? たとえ本心であったとしても、あなたの本当の願望はそうじゃない」
花鶏の奥底に秘めた願望も、優しさも一番よく知っている。
この子には今、蘇芳以外にも大事に想う人間がちゃんといるはずだ。
土壇場で、きっと花鶏は私利私欲に<三觜>を使わない。花鶏に対する信頼は揺らがなかった。
「そんなの、分からないじゃないですか。俺は本当にそういう妄想を昔から何度もしてた。……怒ってますよね」
「怒ってますよ」
どんよりと重い空気が花鶏から流れてくる。
「恋人の不安を取り除けない自分に対して怒ってます」
花鶏がはっと蘇芳を見つめた。蘇芳は前を見たまま歩く。
「<三觜>のことを黙っていたのは、あれを使う権利が本来はつり様にしかないからです。理由は……ごめんなさい、言えません。でも、あなたを信用していないわけじゃないし、はつり様に頼んで駄目だった時は、殿下を頼るつもりでした」
ゲームの設定に準拠した、なんて言えるわけもない。どうしても、この秘密にだけは近づけたくなかった。
他のことは誤魔化せるが、さすがにシナリオの本筋に関わるアイテムについて、蘇芳からは教えたくなかった。詮索されても答えられない。
「殿下がどうしてもそうしたいなら、私を監禁しようが誘拐しようが、構いませんよ」
「え」
「ただ、言い方は変えましょう。監禁じゃなくて同居です。誘拐じゃなくて駆け落ちですね」
ぽかんと口を開けた花鶏に微笑んだ。
「付き合いますよ。殿下が安心できるまで、どこへでもね。今すぐに信じてもらえなくとも……殿下が、私がこの世界にいるたった一つの理由なんです」
花鶏の手を取って、手の甲に口づけた。
「愛しているんです……何十年かかっても、証明してみせますから」
……ちょっと気障だったかもしれない。
本心だから後悔はないが、愛しているなんて、口にしたのは生まれて初めてだった。
そういう言葉は、もっとロマンティックな場面でお膳立てして言うもんだと思っていた。
こんな暗い洞窟で、濡れねずみ状態でなんて、花鶏は呆れてやしないだろうか。
ちらっと伺うと花鶏は耳まで赤くして、ぽわんとした顔をしている。
(あ、大丈夫だった)
「そういえば、さっき12歳の頃からって言いませんでしたか?」
「……え、ああ、言いましたけど」
「まだ子供じゃないですか。そんな昔から?……だって、そんなこと微塵も」
「相手にされるわけないと思ったから。せめて少しでも好かれたくて必死だったんです」
蘇芳の心臓がぎゅ、と締め付けられた。さっきと違い、今度はちゃんとときめいた。
こういうところが、花鶏が沼たる所以なのだ。嵌るとやばい。蘇芳はどっぷり頭まで浸かっていて、もう手の施しようがない。
「無事帰れたら、今夜は一緒に寝ましょう」
「……は?」
「そういう気分なんです。本当に貴方は可愛いですね」
花鶏は理解できないと言いたげな顔だ。
「怖くないんですか? 俺が言うのも難だけど……先生、常人とずれてますよ」
何故か呆れられてしまい、釈然としなかった。花鶏にだけは言われたくなかった。
前方に明かりが見えた。本物の月光だ。どれほど時間がたったのか、夜のとばりが下りた山林は涼やな夏の風が吹いている。
洞窟の外に出た時、東雲が警戒とともに蘇芳の前に身を乗り出した。
「ご無事でしたか、蘇芳殿。それに、花鶏殿下も」
目を見開く。そこにいたのは顔の包帯を取り去った末草だった。
144
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います
緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。
知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。
花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。
十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。
寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。
見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。
宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。
やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。
次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。
アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。
ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。
【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる
ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。
この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。
ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。