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番外編

ポルカの大好物が出来るまで➂

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 次の日の夕方。
 ポルカは、目を真ん丸に見開いて食卓を指差した。

「ジル、これっ……!」

 食卓の上に、どっさりと紅い実が山を作っていた。西陽に照らされ、深く紅い果肉が艶々と光っている。ひと粒摘んで爪先で叩いて見ると、コツコツといういかにも硬そうな音がした。間違いない、完熟のタギ苺だ。

「こ、こんなに……っ! どこで採ってきたんだい?」

 勿論、例のヘンテコ鋏を使ってみるためにポルカも探しにいってはいた。けれど、これだけ艶があって傷が少ないタギ苺はついぞ見つけられなかったのだ。
 そもそも完熟のタギ苺は、メルダミ鳥の大好物。今が旬とはいえ、大体は割られた食い残しか殻しか見当たらないはず。

「んな大した事じゃねぇ。仕事帰りに、良い穴場を見つけただけだ」
「ええぇ……ほんとかい?何か危ないことしたんじゃ……」
 
 本当に何でもない、いつも通りなジルの強面とタギ苺の山を代わりばんこに見る。
 するとみるみるジルの眉間に皺が寄り、強面がさらに凶悪になっていくではないか!

「……嘘だって疑ってんのかよ」
「えっ!ち、違うよぅ!! ただホント、吃驚しちゃって……」

 仮に嘘だったとしても、何か言う権利なんてない。何時だって、嘘をついているのはポルカの方なのだから。

 しかしオロオロしている間に、ジルの眉間の皺はマニマム谷よりさらに深く、顔は凶悪を通り越して極悪に変わっていきそうである。このままでは、妖精がオーガに大変身してしまうかもしれない……!

 不穏な空気を吹き飛ばすべく、ポルカはお日様のようにニカッと笑った。

「何はともあれ、ありがとね! ジル!!」
「……ん」

 よし、眉間の皺が少し浅くなった。誤魔化されてくれたらしい。流石ジル、何だかんだで優しい妖精だ。
 平らな胸をホッと撫で下ろしていると――ジルが飾り棚へ手を伸ばした。そして例のヘンテコ鋏を掴むと、ポルカの手の上に乗せてくれる。

 ――さぁ、いよいよだね……!

 ポルカは早速、えっちらおっちら鋏を開いて固く熟れたタギ苺を挟む。そして、ギュムッと取っ手を握り込み――

「よっ……ンンっ……!?」

 しかし、タギ苺はうんともすんともいわない。

「あ、あれっ……!? おかしいな、んっ……んぐ……ッ!!」

 もう一度気合を入れて取っ手を両方の手を使って何度も握りこむ。しかし、鳥の嘴の形をした鋏はタギ苺に割れ目一つ作れやしない。
 格闘すること数分。家事で荒れ気味だったポルカの手の平の方が、タギ苺みたいに真っ赤になってしまった。
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