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番外編

ポルカの大好物が出来るまで➃

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「チッ……おいポルカ、よこせ。俺がやる」
「あぁっ!?」

 両頬を膨らませて汗水流し始めたポルカを見かねて、ジルが割り込む。そして、しぶる彼女から鋏を取り上げると、片手で軽く握りこんだ。

「あ………あぁーーっ!!」

 ――バッキン!!

 ――びちゃっ!

 タギ苺は見事に割れた。……しかし、挟んだ場所が悪かったのか。真っ二つになったタギ苺は食卓を跳ねた弾みで、中身を盛大にぶち撒けてしまったのだった。

「あ゛――……」

 殻と同じくらい紅い、トロリとした果肉が……太い指をべっとりと濡らしている。ジルがバツが悪そうにため息をついた。

「やっちまった。すまねぇ、布巾どこだ?」
「えっ!? ま、待っとくれ! まさか拭いちまうつもりかい!?」
「あ?何か問題あるかよ」
「大アリさ勿体無い!!」

 完熟とはいえ、この時期のタギ苺は結構珍しいのだ。それに、仕事で疲れてるはずのジルがポルカの為に拾い集めてくれたもの。ひと粒も無駄にしたくない。
 ポルカは深呼吸して……ぐっと腹を括り、ジルの太い手首をとった。そして、口を大きく開け――

「……っ!? おい、こらテメェ何を……っ!?」

 ぱくり、と、果肉がついたジルの指を咥えた。
 突然ポルカに指を食べられたジルは、鋭い目を見開いて完熟タギ苺くらいガチガチに固まってしまったが、必死なポルカは気付かない。

「ん、ン……っん、は……~~~~ッ!!」

 ポルカは一生懸命舌を動かして、とろみの強い果肉を舐めとった。すると、舌先が痺れるほど濃い甘味が広がり、思わず背筋がビリビリと震える。

 ――こんな甘いもの、初めて……!

 殻の中で熟したタギ苺は、思い出の中にあるどんな食べ物より甘い味だった。喉が焼けるほど濃い味が、爽やかで甘酸っぱい匂いが、ねっとりした果肉が、ポルカの舌の上でしゅわしゅわと弾けて溶けてゆく。
 魅惑の甘味に、ポルカはしゃぶっている指の事を忘れて一生懸命に舌を動かしていた。

「……おい、ポルカ」
「ぁっ……!?」

 しかし、美味しい時間はジルの指に舌を摘まれて終わった。我に返ったポルカが見たのは――

「随分、好き放題してくれんじゃねぇか……なぁ?」
「ひェッ!?」

 朝焼け色の目をギラギラさせた、強面夫の凶悪な顔であった。
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