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新婚旅行編
朝飯前の家族
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「ほんっと信じらんない! 間借りしてる家で普通そういう事するかい!?」
「うう、返す言葉も……」
背中を丸めションボリと小さくなっていた。そして、その隣には傷が落ち着いたジルが仏頂面で腕をくんでいる。
先日こっそりアレコレしようとしたポルカお祖母ちゃんの部屋にて、ポルカとジルは正座で孫娘にお説教されていたのだった。
――昔は、サリアに叱られたジルコニアを泣きやませる役目だったのに。まさかジルコニアに叱られる側になるなんてねェ。
腕を組み、口をヘの字にして怒る姿は、本人を叱っていた母親にそっくりだ。何だか時の流れを染み染み感じてしまって、ポルカはついじーんとしてしまう。
あんまり堪えた様子が今イチ感じられないポルカに、ジルコニアはさらに鼻息を荒げ……叱りの矛先をジルの方に向けた。
「アンタもアンタさね! ルカさんの旦那だか何だか知らないけど、人様の家でヤラシイ事おっ始めようなんて!非常識にもほどがあるよ!」
「…………」
「何とか言ったらどうなんだい!」
「………………」
ジルはといえば、ミゲルにまだ数日大人しくするよう言われている。大体にして怪我人なので、逃げることもせず黙って孫娘のお叱りを受けていた。顔は恐ろしい程に仏頂面だけど……今のポルカには何となく分かる。これは気まずい時の仏頂面だ。
ややあって、ジルはボソリ、と口を動かした。
「……すまん」
「あ゛ぁん!? 聞こえないよ! 図体デカイんだからもっとデカイ声で喋りな!」
「……すまなかった」
「言い方がなってないよ! もう一回!」
「……ご、ごめん、なさい……」
「ふんっ! ま、いいよ。目に毒だったけど、怪我が治ったら働いて埋め合わせしとくれな」
ジルコニアは寝台に座らされたジルとポルカを見下ろし、ふんっ!と一際大きく息を吐き出した。そういえば、その仕草は母サリアが叱るのを終える合図と全く同じである。
「んじゃ、ルカさん。新しい包帯を巻いたらシャツでも羽織って居間に連れて来とくれ。その……ジルさん? の朝飯も一緒に用意してあるから」
「……うん。ありがとね、ジルコニア」
「ふ、ふん! また家で破廉恥なことしたら承知しないからね!!」
ぷりぷりと怒りつつも、朝食に呼んでくれるジルコニア。第一印象のせいでツンツンしているけど、やはり根が優しい子だ。
孫娘が部屋を出ていった後、ポルカはジルと顔を見合わせてついつい笑ってしまった。
「俺達の孫は随分気が強いな」
「でも、根っこが温かい良い子だよ。母親似さね」
そんな感じで、孫娘の成長や気遣いにますますジーンとなるポルカだった。
◆◇◆
何はともあれ、朝ご飯だ。
ポルカがジルの体を頑張って支えて部屋の扉を開けると……そこには困り眉で笑うミゲルと、相変わらず強面なガルラが立っていた。
「あー……おはよう」
「おはよう、ミゲル。どうしたんだい? ガルラも揃ってこんなトコで」
「ははは、いやさ。母さ……ルカさん一人で、その人を支えて連れてくるのは大変だと思ってさ。お手伝いに来たって訳だよ。ねぇ? ガルラ兄さん」
「…………」
ガルラは何も言わず、ジルの太い腕を自分の肩に回して支えた。しかし、狭い廊下に、ただでさえガタイの良いジルとガルラが並ぶと……大層窮屈だ。
おまけに怪我人であるジルを庇って歩くので、ガルラはそこかしこの壁やら何やらにぶつかっている。結構痛そうだ。
「おい、無理すんな。これくらいなら自分で……」
「……無理してるのは、アンタだ」
「…………」
「大人しく、して。途中で転ぶより、この方が……被害が、少ない」
廊下にみっしり詰まりながら歩いていく父子と、後ろで手をかそうかとオロオロするポルカ。それをやっぱり困った顔で見守るミゲル。
何とも不思議な空気のまま、四人はそれぞれ神妙な顔で居間へと向かっていく。
しばらく遠慮がちに歩いていたジルは、やがて観念したように……ガルラに体重を預けた。かなりの重量な筈なのに、それをガルラは難なく支えて歩いてゆく。
「……いつの間にか、デッカくなりやがったなぁ。ガルラ」
思わず、といった感じに、ジルの口からそんな言葉が零れ落ちる。とても小さな呟きを、側で支えて歩くガルラの耳が拾った。
「………父さんの、子どもだから」
ガルラは一瞬息を詰まらせ、絞り出すような声で返す。その呟きはガタイの割に小さくて、結局聞いたのは本人と、近くにいたジルの二人だけだった。
「うう、返す言葉も……」
背中を丸めションボリと小さくなっていた。そして、その隣には傷が落ち着いたジルが仏頂面で腕をくんでいる。
先日こっそりアレコレしようとしたポルカお祖母ちゃんの部屋にて、ポルカとジルは正座で孫娘にお説教されていたのだった。
――昔は、サリアに叱られたジルコニアを泣きやませる役目だったのに。まさかジルコニアに叱られる側になるなんてねェ。
腕を組み、口をヘの字にして怒る姿は、本人を叱っていた母親にそっくりだ。何だか時の流れを染み染み感じてしまって、ポルカはついじーんとしてしまう。
あんまり堪えた様子が今イチ感じられないポルカに、ジルコニアはさらに鼻息を荒げ……叱りの矛先をジルの方に向けた。
「アンタもアンタさね! ルカさんの旦那だか何だか知らないけど、人様の家でヤラシイ事おっ始めようなんて!非常識にもほどがあるよ!」
「…………」
「何とか言ったらどうなんだい!」
「………………」
ジルはといえば、ミゲルにまだ数日大人しくするよう言われている。大体にして怪我人なので、逃げることもせず黙って孫娘のお叱りを受けていた。顔は恐ろしい程に仏頂面だけど……今のポルカには何となく分かる。これは気まずい時の仏頂面だ。
ややあって、ジルはボソリ、と口を動かした。
「……すまん」
「あ゛ぁん!? 聞こえないよ! 図体デカイんだからもっとデカイ声で喋りな!」
「……すまなかった」
「言い方がなってないよ! もう一回!」
「……ご、ごめん、なさい……」
「ふんっ! ま、いいよ。目に毒だったけど、怪我が治ったら働いて埋め合わせしとくれな」
ジルコニアは寝台に座らされたジルとポルカを見下ろし、ふんっ!と一際大きく息を吐き出した。そういえば、その仕草は母サリアが叱るのを終える合図と全く同じである。
「んじゃ、ルカさん。新しい包帯を巻いたらシャツでも羽織って居間に連れて来とくれ。その……ジルさん? の朝飯も一緒に用意してあるから」
「……うん。ありがとね、ジルコニア」
「ふ、ふん! また家で破廉恥なことしたら承知しないからね!!」
ぷりぷりと怒りつつも、朝食に呼んでくれるジルコニア。第一印象のせいでツンツンしているけど、やはり根が優しい子だ。
孫娘が部屋を出ていった後、ポルカはジルと顔を見合わせてついつい笑ってしまった。
「俺達の孫は随分気が強いな」
「でも、根っこが温かい良い子だよ。母親似さね」
そんな感じで、孫娘の成長や気遣いにますますジーンとなるポルカだった。
◆◇◆
何はともあれ、朝ご飯だ。
ポルカがジルの体を頑張って支えて部屋の扉を開けると……そこには困り眉で笑うミゲルと、相変わらず強面なガルラが立っていた。
「あー……おはよう」
「おはよう、ミゲル。どうしたんだい? ガルラも揃ってこんなトコで」
「ははは、いやさ。母さ……ルカさん一人で、その人を支えて連れてくるのは大変だと思ってさ。お手伝いに来たって訳だよ。ねぇ? ガルラ兄さん」
「…………」
ガルラは何も言わず、ジルの太い腕を自分の肩に回して支えた。しかし、狭い廊下に、ただでさえガタイの良いジルとガルラが並ぶと……大層窮屈だ。
おまけに怪我人であるジルを庇って歩くので、ガルラはそこかしこの壁やら何やらにぶつかっている。結構痛そうだ。
「おい、無理すんな。これくらいなら自分で……」
「……無理してるのは、アンタだ」
「…………」
「大人しく、して。途中で転ぶより、この方が……被害が、少ない」
廊下にみっしり詰まりながら歩いていく父子と、後ろで手をかそうかとオロオロするポルカ。それをやっぱり困った顔で見守るミゲル。
何とも不思議な空気のまま、四人はそれぞれ神妙な顔で居間へと向かっていく。
しばらく遠慮がちに歩いていたジルは、やがて観念したように……ガルラに体重を預けた。かなりの重量な筈なのに、それをガルラは難なく支えて歩いてゆく。
「……いつの間にか、デッカくなりやがったなぁ。ガルラ」
思わず、といった感じに、ジルの口からそんな言葉が零れ落ちる。とても小さな呟きを、側で支えて歩くガルラの耳が拾った。
「………父さんの、子どもだから」
ガルラは一瞬息を詰まらせ、絞り出すような声で返す。その呟きはガタイの割に小さくて、結局聞いたのは本人と、近くにいたジルの二人だけだった。
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