83 / 154
新婚旅行編
千の空模様(ジルベルト視点)
しおりを挟む
今度こそ普通にお風呂に入って、ふたりで汗やら何やらを普通に流した後。ジルベルトは、案の定足腰が立たなくなったポルカを嬉々として抱え上げた。
お姫様抱っこはポルカが恥ずかしすぎて断固拒否したため、縦抱っこである。……これはこれで、体格差も相まって子どものようでまた恥ずかしい。すれ違う他の客は微笑ましそうに見守っているし、従業員たちに至ってはむしろ普通に挨拶してくるのが居た堪れない。
羞恥で真っ赤に茹だったポルカを存分に愛でていたジルベルトは、踊り場にある大きな窓の前で立ち止まった。
「おい、ポルカ」
「うぅ……っ何だい? 降ろしとくれるのかい?」
「あ゛? 降ろさねぇよ。それより、窓の外」
「え…………うわぁ…………!!!」
海側に向けて窓をつけた客室に対し、この大窓は逆方向――町側へ向けて取付けられている。つまりこの大窓からは、シエンテの町並みを見ることができた。
「凄い……」
ポルカたちの目に飛び込んできたのは、朝焼け、真昼の青空、夕暮れ、宵の月、真夜中の星々……様々な空模様で彩られたシエンテの家々の屋根。
これぞ、このお宿の売りの一つ、『千の空窓』。シエンテ特有の町並みをくり抜いた、天然の風景画だ。
「色んな空が、いっぺんに落ちてきたみたいに綺麗だね……」
「ああ」
「町を歩いてる時は何処もかしこも白い壁ばっかりだったのに、上から見たらこんな――凄いよ……!!」
「その家に住んでる奴が一番好きな空の色を塗るんだとよ。ほら、同じ青空でもアッチの家は秋、コッチの家は真夏の青だろ?」
「わぁ、わぁぁあ!! 本当だ! ジル、物知りだねぇ!!」
「……フフン」
――夜なべして観光手帳を熟読してきてよかった。
ポルカのキラキラした羨望の眼差しを受けながら、心の拳を天へと突き上げるジルベルトだった。
◆◇◆
所変わって、ここはお宿の大食堂。
豪華な装飾の施された大広間に、所狭しと並べられたテーブルは圧巻の一言である。
白いテーブルクロスの眩しい席につけば、厨房の方から漂う美味しそうな匂いにポルカのお腹がグゥ、と鳴った。
「ポルカ、何か食べたいか言え」
「え、でも、言えって言われても……知らない食べ物ばっかで分かんないよぅ」
「甘いのが良いとか辛いのが良いとか、そういうんで良いんだよ」
パラリ、とメニュー表を開く。お高い宿らしく、落ち着いた装飾に小さな文字で品よく並べられたそれを見つめる新妻の両頬がプクぽこと膨らんだ。これは、真剣に悩んでいるときのポルカの癖である。しかし本人にはあえて言っていない。何故なら可愛いからだ。
「うーーん、それじゃあ……折角だし、シエンテ名物が食べたいねェ」
「味は?」
「ぜ、贅沢は言わないけど……出来ればアッサリしてると、嬉しいかな?」
いつの間にか傍らに控えていた給仕係の青年が、ジルベルトの方を向いて軽く頷く。これからポルカの要望を元に、良いように料理を選んで運んできてくれることだろう。
『オススメのものを、お任せで』というのは、勇気はいるけれど旅の醍醐味だろう。ジルベルトは、そわそわワクワクしはじめたポルカを愛おしそうに見つめ――傍目には強面で睨んでいるようにしか見えないが――口の端をほんのちょっと上げて笑った。
お姫様抱っこはポルカが恥ずかしすぎて断固拒否したため、縦抱っこである。……これはこれで、体格差も相まって子どものようでまた恥ずかしい。すれ違う他の客は微笑ましそうに見守っているし、従業員たちに至ってはむしろ普通に挨拶してくるのが居た堪れない。
羞恥で真っ赤に茹だったポルカを存分に愛でていたジルベルトは、踊り場にある大きな窓の前で立ち止まった。
「おい、ポルカ」
「うぅ……っ何だい? 降ろしとくれるのかい?」
「あ゛? 降ろさねぇよ。それより、窓の外」
「え…………うわぁ…………!!!」
海側に向けて窓をつけた客室に対し、この大窓は逆方向――町側へ向けて取付けられている。つまりこの大窓からは、シエンテの町並みを見ることができた。
「凄い……」
ポルカたちの目に飛び込んできたのは、朝焼け、真昼の青空、夕暮れ、宵の月、真夜中の星々……様々な空模様で彩られたシエンテの家々の屋根。
これぞ、このお宿の売りの一つ、『千の空窓』。シエンテ特有の町並みをくり抜いた、天然の風景画だ。
「色んな空が、いっぺんに落ちてきたみたいに綺麗だね……」
「ああ」
「町を歩いてる時は何処もかしこも白い壁ばっかりだったのに、上から見たらこんな――凄いよ……!!」
「その家に住んでる奴が一番好きな空の色を塗るんだとよ。ほら、同じ青空でもアッチの家は秋、コッチの家は真夏の青だろ?」
「わぁ、わぁぁあ!! 本当だ! ジル、物知りだねぇ!!」
「……フフン」
――夜なべして観光手帳を熟読してきてよかった。
ポルカのキラキラした羨望の眼差しを受けながら、心の拳を天へと突き上げるジルベルトだった。
◆◇◆
所変わって、ここはお宿の大食堂。
豪華な装飾の施された大広間に、所狭しと並べられたテーブルは圧巻の一言である。
白いテーブルクロスの眩しい席につけば、厨房の方から漂う美味しそうな匂いにポルカのお腹がグゥ、と鳴った。
「ポルカ、何か食べたいか言え」
「え、でも、言えって言われても……知らない食べ物ばっかで分かんないよぅ」
「甘いのが良いとか辛いのが良いとか、そういうんで良いんだよ」
パラリ、とメニュー表を開く。お高い宿らしく、落ち着いた装飾に小さな文字で品よく並べられたそれを見つめる新妻の両頬がプクぽこと膨らんだ。これは、真剣に悩んでいるときのポルカの癖である。しかし本人にはあえて言っていない。何故なら可愛いからだ。
「うーーん、それじゃあ……折角だし、シエンテ名物が食べたいねェ」
「味は?」
「ぜ、贅沢は言わないけど……出来ればアッサリしてると、嬉しいかな?」
いつの間にか傍らに控えていた給仕係の青年が、ジルベルトの方を向いて軽く頷く。これからポルカの要望を元に、良いように料理を選んで運んできてくれることだろう。
『オススメのものを、お任せで』というのは、勇気はいるけれど旅の醍醐味だろう。ジルベルトは、そわそわワクワクしはじめたポルカを愛おしそうに見つめ――傍目には強面で睨んでいるようにしか見えないが――口の端をほんのちょっと上げて笑った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
35
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる