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特製スープは目分量

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「お向かいのベルナおばさんがさ、揚げ物の素っていうのを試供品で下すったんだ」

 渋々自分の席についたジルの前に湯気の立つ皿を並べながら、ポルカは努めて機嫌よさそうな声で料理の説明をし始めた。
 因みに、本日の献立は白身魚の揚げ物と、野菜をたっぷりの『ポルカ特製スープ』である。………『特製』と言えば聞こえはいいが、ようは手癖で適当に味付けした汁物だ。
 有り合わせの材料に加え、調味料も目分量で入れる為その都度微妙に味が変わる。まぁ、レストランじゃあるまいし主婦の料理は大抵がこんなものだ――――と、ポルカは思っている。

「揚げ物は自信作だよ! でも汁物は有り合わせの適当なやつだからそこは先に謝っ……」
「……自分の分はどうした?」
「へっ?」

 食卓には、確かに一人分の料理しか並んでいない。しかし、何故ジルはそんな些細なことを気にするのだろうか?首を傾げつつ、ポルカはよく冷えたミリ麦茶をコップに注いだ。

「だって、アタシはアンタの、ほら、えーと……『報復の相手』じゃないか。そんなのが一緒に飯なんて食べたら、アンタだって気分が悪くなるだろ?」

 勿論、ポルカの分は取り分けてある。しかし、今のポルカと彼は対等な立場ではないし、何より自分は報復を受ける身だ。そんな人間と同じ食卓で、向かい合って飯を食いたい妖精などいないだろう。

 ……………と、思ったのだが。

「何だ、あるならお前もさっさと食え」
「え」
「洗いもんがいっぺんに済むだろうが。小分けになんざしたら水が勿体無ぇ」
「あっ……あぁ! なるほど! そうだねぇ!!」

 流石、顔の割に生真面目な男。水のことをすっかり失念していた。井戸まで汲みに行かねばならぬ下界と違って、ここでは水まで魔導具で出てくる為実感がなかったが、汲みに行かなくて良い分、使った量が記録され月末に役所でお金を支払わねばならないのだ。塵も積もれば何とやら、水代も積もれば家計を圧迫する。
 ポルカは慌てて自分の分の皿を戸棚から出してきて……しばし迷った後、ジルのお向かいに並べた。

「いただきます」
「い、いただきます?」

 向かいに座ったポルカに何を言うでもなく、ジルは黙って食事を始めた。ポルカもフォークを握り、一口大の揚げ物を齧る。
 サクサクの衣に歯を立てれば、白身魚のうま味がジュワリ!と口いっぱいに弾ける。ベルナさんお勧めの『揚げ物の素』という下味粉は塩気もいい塩梅だ。微かに舌を叩く刺激は……香辛料だろうか?
 普段の料理では決まった香辛料しか使わないポルカでは作り出せない旨味である。会心の出来に、ポルカはにんまりと笑った。

「どうだいジル?揚げ物が中々上手く出来てるだろ!」
「………………………」

 一方ジルは、肝心の揚げ物もそこそこに汁物を嗜んでいた。眉間の皺が深くなり、普通にしていても鋭い眼光が、さらに鋭くなって『ポルカ特製スープ』に注がれている。

 ……そんなに酷い味だっただろうか?
 試しに一口飲んでみたが、特に変わった味はしない。ごくごく普通のスープだ。

「あー、ジル? 汁物が口に合わなかったら……」

 残しとくれよ、と言おうとしたポルカの鼻先に、空になったスープ皿が差し出された。

「おかわり」
「へっ?」

 目を丸くして目の前の男を見る。ジルはやはり眉間に皺を寄せ、口を『へ』の字に曲げたままポルカを睨んでいる。
 ……聞き間違いだろう。そうに違いない。こんな顔でおかわりなんぞ要求するはずが……

「おかわり」
「あっうん。はいはい、ちょっと待っといで」


 ――聞き間違いじゃなかったよぅ……!?


 結局その後、ジルはしかめっ面のまま『ポルカ特製スープ』を三杯おかわりした。空になった鍋を洗いながら、ポルカはひたすら首を傾げていた。
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