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肩甲骨は翼の名残と言うけれど
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「んっぁ………じ、ジル……!」
一定の拍子で揺れる寝台、粘着質な水音と、熱く湿った吐息。耳を塞ぎたくなるくらい甘ったるい女の声の合間で、唸るような低い男の声も聞こえてくる。
初日に処女を貰われた寝台の上で、ポルカは幾度となく妖精に抱かれている。そして今夜も、彼は熱杭を突き込み、突き上げ、ポルカの身体を存分に蹂躙していた。
「もっ……ちょ、待っ……聞いとくれってば! あっ……ひぁんッ!」
「今更何を聞けってんだ嘘つき女」
「んふ、ぁぅっ!んんんぅう……ぅー……ッ」
後ろから顎を掴まれ、振り仰いだ唇にかぶりつくようなキスをされる。溢れる唾液まで貪り食われるような激しさに、ポルカは酸欠とトキメキでクラクラだ。
――おかしい。そもそも『報復』って、ときめくもんじゃないよねぇ。
最初の宣言の通り、ジルは初物になったポルカをそれはそれは丁寧に抱いてくれた。
報復目的だと知っているポルカとしては、『優しく抱くのは最初だけ。この体が慣れてきたら乱暴に犯すつもりだろう』と思っていたのだが……予想を裏切り、ジルはそれから乱暴の一つもせず、ポルカを抱き続けている。いや、強面に似合わず根は優しい男なので、ある意味予想の範囲内ではあるのだが。
いつ顔や腹を殴られても良いよう、毎度しっかりと覚悟を決めて挑んでいるのに。ポルカとしてはとんだ肩透かしを食らった気分である。
「ちがっ……せなか、が」
「あ゛?」
「背中、いたい……ッ」
それはさて置き。
ここ最近、ポルカは原因不明の背中の痛みに悩まされていた。
丁度肩甲骨のあたりで疼くような、何かが皮膚を突き上げて来るような謎の痛みがずっと続いているのである。こうしてジルに抱かれている最中も疼痛は続いている。
むしろ、昨晩よりさらに痛みが増しているのは気のせいではないだろう。
「何だ、無理な体勢はしてねぇぞ。体固くなったか?」
「ッ……そういうンじゃ、ないよぉ。何か、ズキズキするっていうか……ヒッ!?」
ジルが指を鳴らすと、魔灯がそこかしこで灯り寝室が一気に明るくなる。繋がったまま、肩甲骨の辺りを人差し指の腹で押され……ポルカの背筋が跳ねた。
「……ああ、ここか」
「じ、ジルッ!? 痛いっ痛いよ!」
「我慢しろよ嘘つき女。これも『報復』の一環だ」
「うぅヴ~~~~~~ッ」
報復を出されると弱いポルカである。しかしどういう理屈なのか、ジルに触れられる度に、痛みがどんどん増してゆくようで……。
「ジル、ジルっ……怖いよぅ、アタシの体、どうなってるんだい……!?」
そういえば、背中の痛みが出始めてからずっと体がダルかった。新しい家や人付き合い、何よりも焦がれていたジルとの再会と共同生活に、気を使って疲れがたまってしまったのかと思っていたが。
しかしもしも何か、大きな病気なんかだったら……そこまで考えて、ポルカの不安がはち切れんばかりに膨らんだ。
報復目的だとしても、折角恋しい男と再び会えたというのに。また、すぐにお別れなんてことになったら――
「怖い……いた、い……ッ」
……しかし、後ろにいる男に『助けて』なんて言う資格を、ポルカはとうの昔に失くしている。
だから、目の前に広がるシーツを握りしめ、歯を食いしばるしかない。
「あぁ、あ゛ッ………ぐ……!」
ついに、ミチミチッと肩甲骨あたりの肌が悲鳴をあげはじめた。皮の下で何かが、肌を突き破って出てこようとしているような、そんな音だ。
これは本格的にとんでもない展開になってきた。
自称『腹さえ括れば何とかなる派』なポルカといえど流石に受け流せない何かが、ポルカの身の内で起ころうとしている!
しかし、暴れようにも背後からのしかかる男のせいで腰から下が動かせない。というより、こんな状況でも未だ萎えずに後ろからポルカを串刺しにできる彼は一体どういう精神をしているのだろうか。
――ああ、でも、『報復相手』が苦しんでるなら、それはジルも願ったり叶ったりなのかも。
そう思い当たった瞬間、指先からゆっくりと冷えていく。……過ごす日々があまりにも穏やかで、触れてくる唇が、指先があまりにも優しくて、知らず知らずの内に自分の立場を忘れそうになっていたのかもしれない。
何とまぁ、烏滸がましい話だ。
「ッく、ひっ」
ポルカのくすんだ灰色の瞳から、ころころと涙が零れ落ちる。けれど、泣くべきではないのだ。うそつきのポルカには、その資格もないだろう。ポルカがすべきは、この『報復』である痛みを粛々と受け入れることであって、涙など垂れ流せばジルに不愉快な思いをさせてしまう――
「ポルカ」
耳元で、低く囁く声。それに労るような、優しさを感じるのはきっと錯覚だ。
「ポルカ、あと少しだ。あと少しで生えるぞ――そうしたら、もう痛いのは終わりだ」
「……ンェッ!!!? は、はははは生える!? 生えるって何が――」
次の瞬間。背中が、あり得ない音を立てる。皮膚の下から何か……!
「わぁあ、ぁあぁああぁああぁあーーーーッ!!!?」
自分が何か別の生き物に脱皮させられたような、そんな言いようのない感じがポルカの全身を貫いた。
未知の感覚に怯える小さな体を、温かな何かが包み込む。それが、恋しい男の温もりだと気づく前に……ポルカはパッタリと気を失った。
そして翌朝。
「なっ……なななななん何だいこりゃぁあぁああぁあ!!!!?」
ポルカの絶叫が、風呂場に響きわたる。彼女の視線の先には――
半透明の小さな羽が二枚、丁度肩甲骨のあたりからニョッキリと生えていたのだった。
一定の拍子で揺れる寝台、粘着質な水音と、熱く湿った吐息。耳を塞ぎたくなるくらい甘ったるい女の声の合間で、唸るような低い男の声も聞こえてくる。
初日に処女を貰われた寝台の上で、ポルカは幾度となく妖精に抱かれている。そして今夜も、彼は熱杭を突き込み、突き上げ、ポルカの身体を存分に蹂躙していた。
「もっ……ちょ、待っ……聞いとくれってば! あっ……ひぁんッ!」
「今更何を聞けってんだ嘘つき女」
「んふ、ぁぅっ!んんんぅう……ぅー……ッ」
後ろから顎を掴まれ、振り仰いだ唇にかぶりつくようなキスをされる。溢れる唾液まで貪り食われるような激しさに、ポルカは酸欠とトキメキでクラクラだ。
――おかしい。そもそも『報復』って、ときめくもんじゃないよねぇ。
最初の宣言の通り、ジルは初物になったポルカをそれはそれは丁寧に抱いてくれた。
報復目的だと知っているポルカとしては、『優しく抱くのは最初だけ。この体が慣れてきたら乱暴に犯すつもりだろう』と思っていたのだが……予想を裏切り、ジルはそれから乱暴の一つもせず、ポルカを抱き続けている。いや、強面に似合わず根は優しい男なので、ある意味予想の範囲内ではあるのだが。
いつ顔や腹を殴られても良いよう、毎度しっかりと覚悟を決めて挑んでいるのに。ポルカとしてはとんだ肩透かしを食らった気分である。
「ちがっ……せなか、が」
「あ゛?」
「背中、いたい……ッ」
それはさて置き。
ここ最近、ポルカは原因不明の背中の痛みに悩まされていた。
丁度肩甲骨のあたりで疼くような、何かが皮膚を突き上げて来るような謎の痛みがずっと続いているのである。こうしてジルに抱かれている最中も疼痛は続いている。
むしろ、昨晩よりさらに痛みが増しているのは気のせいではないだろう。
「何だ、無理な体勢はしてねぇぞ。体固くなったか?」
「ッ……そういうンじゃ、ないよぉ。何か、ズキズキするっていうか……ヒッ!?」
ジルが指を鳴らすと、魔灯がそこかしこで灯り寝室が一気に明るくなる。繋がったまま、肩甲骨の辺りを人差し指の腹で押され……ポルカの背筋が跳ねた。
「……ああ、ここか」
「じ、ジルッ!? 痛いっ痛いよ!」
「我慢しろよ嘘つき女。これも『報復』の一環だ」
「うぅヴ~~~~~~ッ」
報復を出されると弱いポルカである。しかしどういう理屈なのか、ジルに触れられる度に、痛みがどんどん増してゆくようで……。
「ジル、ジルっ……怖いよぅ、アタシの体、どうなってるんだい……!?」
そういえば、背中の痛みが出始めてからずっと体がダルかった。新しい家や人付き合い、何よりも焦がれていたジルとの再会と共同生活に、気を使って疲れがたまってしまったのかと思っていたが。
しかしもしも何か、大きな病気なんかだったら……そこまで考えて、ポルカの不安がはち切れんばかりに膨らんだ。
報復目的だとしても、折角恋しい男と再び会えたというのに。また、すぐにお別れなんてことになったら――
「怖い……いた、い……ッ」
……しかし、後ろにいる男に『助けて』なんて言う資格を、ポルカはとうの昔に失くしている。
だから、目の前に広がるシーツを握りしめ、歯を食いしばるしかない。
「あぁ、あ゛ッ………ぐ……!」
ついに、ミチミチッと肩甲骨あたりの肌が悲鳴をあげはじめた。皮の下で何かが、肌を突き破って出てこようとしているような、そんな音だ。
これは本格的にとんでもない展開になってきた。
自称『腹さえ括れば何とかなる派』なポルカといえど流石に受け流せない何かが、ポルカの身の内で起ころうとしている!
しかし、暴れようにも背後からのしかかる男のせいで腰から下が動かせない。というより、こんな状況でも未だ萎えずに後ろからポルカを串刺しにできる彼は一体どういう精神をしているのだろうか。
――ああ、でも、『報復相手』が苦しんでるなら、それはジルも願ったり叶ったりなのかも。
そう思い当たった瞬間、指先からゆっくりと冷えていく。……過ごす日々があまりにも穏やかで、触れてくる唇が、指先があまりにも優しくて、知らず知らずの内に自分の立場を忘れそうになっていたのかもしれない。
何とまぁ、烏滸がましい話だ。
「ッく、ひっ」
ポルカのくすんだ灰色の瞳から、ころころと涙が零れ落ちる。けれど、泣くべきではないのだ。うそつきのポルカには、その資格もないだろう。ポルカがすべきは、この『報復』である痛みを粛々と受け入れることであって、涙など垂れ流せばジルに不愉快な思いをさせてしまう――
「ポルカ」
耳元で、低く囁く声。それに労るような、優しさを感じるのはきっと錯覚だ。
「ポルカ、あと少しだ。あと少しで生えるぞ――そうしたら、もう痛いのは終わりだ」
「……ンェッ!!!? は、はははは生える!? 生えるって何が――」
次の瞬間。背中が、あり得ない音を立てる。皮膚の下から何か……!
「わぁあ、ぁあぁああぁああぁあーーーーッ!!!?」
自分が何か別の生き物に脱皮させられたような、そんな言いようのない感じがポルカの全身を貫いた。
未知の感覚に怯える小さな体を、温かな何かが包み込む。それが、恋しい男の温もりだと気づく前に……ポルカはパッタリと気を失った。
そして翌朝。
「なっ……なななななん何だいこりゃぁあぁああぁあ!!!!?」
ポルカの絶叫が、風呂場に響きわたる。彼女の視線の先には――
半透明の小さな羽が二枚、丁度肩甲骨のあたりからニョッキリと生えていたのだった。
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