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第四章その7 ~急転直下!~ 始まりの高千穂研究所編
遠い未来を見て来てくれ
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しばし平和な時が流れたが、当時は戦国の乱世である。ある時島は大軍勢に襲われた。
カノンは出陣前の彼を引き止め、自分も一緒に戦うと申し出た。
「敵はすごい大軍なんだろ? あたしは鬼だし、腕も立つ。助太刀すれば、必ずあんたを勝たせてみせる……!」
だが彼は首を振った。
「一つの戦に勝ったところで、必ずその力を求められ、使い潰される。一族にも知られて追っ手が来るだろう」
だから駄目だと言ったのだ。
カノンはたまらず訴えかけた。
「か、勝手な事言うなよ……あたしに生きろといったじゃないか! それなのに、あんたが死んでどうするんだよ!?」
「……分からない」
黒鷹は項垂れていた。
「分からないって何だ、ちゃんと答えろ!!」
「本当に分からぬのだ……」
彼は静かに顔を上げる。初めて見る弱気な表情だった。
「なあ鬼の姫君……人はどうしたらいいと思う? 争いを止めたい。でもどうしていいか分からない。こちらから仕掛けなくても、否応なしに攻めて来るのだ。馬鹿な事だと分かっていても、誰もやめる事が出来ない」
「………………」
カノンは何も言えなかったが、彼は更に言葉を続けた。
「ずっと思っていた。なぜ人が人を泣かせる? なぜこの世はこれ程地獄なのだ? こんな事をしていたら、いつか大事なものまで消えてしまうのに……」
彼はそこで我に返ったのか、気まずそうに目を伏せた。
「すまぬ。我ながら、弓矢とる者の言葉とは思えんが……このような事、人には言えぬ。お前以外に話せなかったのだ」
彼はそこで踵を返し、石ころだらけの浜を眺めた。
「……遠い未来なら、何か変わっているだろうか」
「未来……?」
「そうだ。もしかしたら、綺麗なものが増えて、面白いものが沢山出来て……そのうち本当に、争いだって無くなるかもしれない。そなたが長く生きられるなら、私の代わりに見てくれないか」
黒鷹は俯いたまま、もう一度繰り返した。
「……どうか、代わりに見て来てくれ」
彼はそこで立ち去ろうとする。
カノンは咄嗟に追いかけ、叫んだ。
「あっ、あたしは鬼だ! それも双角天様の血を引いてる! だからきっと何千年も生きるぞ!」
いつの間にか、涙が頬を伝っていた。
立ち止まる彼の背を睨み、カノンは必死に叫んでいた。
「だから……だから生まれ変わったら、絶対文句言ってやるからな!」
「……その時は、ぜひ沢山怒ってくれ」
彼は振り返らずに答えた。
「来世の私が死に急がぬよう……どうか沢山怒ってくれ」
「あったりまえだ、あたしはバケモノだぞ!」
カノンは必死に叫んだが、彼は今度は立ち止まらない。
「お前がビビッてちびるぐらい、毎日ガミガミ言ってやる!! それでもいいのか!!!」
捨て台詞のようなその叫びが、黒鷹への最後の言葉だった。
彼の死を女神から聞き、カノンはただ項垂れていた。
姫君も特殊な呪詛で魂を壊し、彼の後を追ったという。
あまりのショックで気がふれるかと思われたが、女神はこう続けたのだ。
「黒鷹を転生させるのは、恐らく4~500年後となる。それが最後となるし、その転生では、鶴と結ばれる事になる」
それから少し語気を弱め、静かな声で問いかけた。
「……長い間耐え続け、逢えたとしても失意に沈む。それでも待つか……?」
頬をつたい落ちる涙に抗うように、カノンはゆっくり顔を上げた。
迷う事も無かったし、答えは既に決まっていた。
『もう一度ふられるために、500年待って彼と出会おう』
あの日己にそう誓ったのだ。
それからは、ただただ日々を必死に生きた。長い年月を駆け抜けながら、あの人の再来を待っていたのだ。
もし次に会った時、お腹が空いていたら、おいしいご飯を作ってあげたい。もし次に会った時、怪我をしていたら、真っ先に手当てしてあげたい。
きっと来世も無茶ばかりしているだろうから、私が助けてあげなければ……そんな一心で人の暮らしを学び続けた。
苦手だった針仕事も覚え、嫌いだった書物も読んだ。
長く生きて姿が変わらない事を怪しまれると、逃げて別の土地に住んだ。
あれからいくつもの戦があり、災害があり。
彼に受けた恩を世に返すべく、出来る範囲で人助けをしながら、無限とも思える年月をカノンは待った。
やがて無器用だった自分が、人並み以上に何でもこなせるようになった頃、ある時女神が夢に出た。もうすぐ逢えるよ、と言ってくれたのだ。
「~~~~~っっっ!!!」
嬉しくて嬉しくて、枕を抱いて転げ回った。
カノンという名前を考え、パイロットに志願し、急いで彼に会いに行った。
もう一度会えば、それが永遠の別れに繋がると知っていたのに…………一目見た時、体が震えるほど嬉しかったのだ。
カノンは彼を支え続けたが、でもそれは女神や鶴が来るまでのお役目だ。
『どうか沢山怒ってくれ』
前世で言われた通りにカノンはよく怒ったが、それは己の思いにブレーキをかけるためでもあった。
(もし彼に優しくしたら……もう気持ちを抑えられない)
身の内に潜むこの恋慕が、500年分の『大好き』が、一気にあふれ出てしまうから。
カノンは出陣前の彼を引き止め、自分も一緒に戦うと申し出た。
「敵はすごい大軍なんだろ? あたしは鬼だし、腕も立つ。助太刀すれば、必ずあんたを勝たせてみせる……!」
だが彼は首を振った。
「一つの戦に勝ったところで、必ずその力を求められ、使い潰される。一族にも知られて追っ手が来るだろう」
だから駄目だと言ったのだ。
カノンはたまらず訴えかけた。
「か、勝手な事言うなよ……あたしに生きろといったじゃないか! それなのに、あんたが死んでどうするんだよ!?」
「……分からない」
黒鷹は項垂れていた。
「分からないって何だ、ちゃんと答えろ!!」
「本当に分からぬのだ……」
彼は静かに顔を上げる。初めて見る弱気な表情だった。
「なあ鬼の姫君……人はどうしたらいいと思う? 争いを止めたい。でもどうしていいか分からない。こちらから仕掛けなくても、否応なしに攻めて来るのだ。馬鹿な事だと分かっていても、誰もやめる事が出来ない」
「………………」
カノンは何も言えなかったが、彼は更に言葉を続けた。
「ずっと思っていた。なぜ人が人を泣かせる? なぜこの世はこれ程地獄なのだ? こんな事をしていたら、いつか大事なものまで消えてしまうのに……」
彼はそこで我に返ったのか、気まずそうに目を伏せた。
「すまぬ。我ながら、弓矢とる者の言葉とは思えんが……このような事、人には言えぬ。お前以外に話せなかったのだ」
彼はそこで踵を返し、石ころだらけの浜を眺めた。
「……遠い未来なら、何か変わっているだろうか」
「未来……?」
「そうだ。もしかしたら、綺麗なものが増えて、面白いものが沢山出来て……そのうち本当に、争いだって無くなるかもしれない。そなたが長く生きられるなら、私の代わりに見てくれないか」
黒鷹は俯いたまま、もう一度繰り返した。
「……どうか、代わりに見て来てくれ」
彼はそこで立ち去ろうとする。
カノンは咄嗟に追いかけ、叫んだ。
「あっ、あたしは鬼だ! それも双角天様の血を引いてる! だからきっと何千年も生きるぞ!」
いつの間にか、涙が頬を伝っていた。
立ち止まる彼の背を睨み、カノンは必死に叫んでいた。
「だから……だから生まれ変わったら、絶対文句言ってやるからな!」
「……その時は、ぜひ沢山怒ってくれ」
彼は振り返らずに答えた。
「来世の私が死に急がぬよう……どうか沢山怒ってくれ」
「あったりまえだ、あたしはバケモノだぞ!」
カノンは必死に叫んだが、彼は今度は立ち止まらない。
「お前がビビッてちびるぐらい、毎日ガミガミ言ってやる!! それでもいいのか!!!」
捨て台詞のようなその叫びが、黒鷹への最後の言葉だった。
彼の死を女神から聞き、カノンはただ項垂れていた。
姫君も特殊な呪詛で魂を壊し、彼の後を追ったという。
あまりのショックで気がふれるかと思われたが、女神はこう続けたのだ。
「黒鷹を転生させるのは、恐らく4~500年後となる。それが最後となるし、その転生では、鶴と結ばれる事になる」
それから少し語気を弱め、静かな声で問いかけた。
「……長い間耐え続け、逢えたとしても失意に沈む。それでも待つか……?」
頬をつたい落ちる涙に抗うように、カノンはゆっくり顔を上げた。
迷う事も無かったし、答えは既に決まっていた。
『もう一度ふられるために、500年待って彼と出会おう』
あの日己にそう誓ったのだ。
それからは、ただただ日々を必死に生きた。長い年月を駆け抜けながら、あの人の再来を待っていたのだ。
もし次に会った時、お腹が空いていたら、おいしいご飯を作ってあげたい。もし次に会った時、怪我をしていたら、真っ先に手当てしてあげたい。
きっと来世も無茶ばかりしているだろうから、私が助けてあげなければ……そんな一心で人の暮らしを学び続けた。
苦手だった針仕事も覚え、嫌いだった書物も読んだ。
長く生きて姿が変わらない事を怪しまれると、逃げて別の土地に住んだ。
あれからいくつもの戦があり、災害があり。
彼に受けた恩を世に返すべく、出来る範囲で人助けをしながら、無限とも思える年月をカノンは待った。
やがて無器用だった自分が、人並み以上に何でもこなせるようになった頃、ある時女神が夢に出た。もうすぐ逢えるよ、と言ってくれたのだ。
「~~~~~っっっ!!!」
嬉しくて嬉しくて、枕を抱いて転げ回った。
カノンという名前を考え、パイロットに志願し、急いで彼に会いに行った。
もう一度会えば、それが永遠の別れに繋がると知っていたのに…………一目見た時、体が震えるほど嬉しかったのだ。
カノンは彼を支え続けたが、でもそれは女神や鶴が来るまでのお役目だ。
『どうか沢山怒ってくれ』
前世で言われた通りにカノンはよく怒ったが、それは己の思いにブレーキをかけるためでもあった。
(もし彼に優しくしたら……もう気持ちを抑えられない)
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