新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART4 ~双角のシンデレラ~

朝倉矢太郎(BELL☆PLANET)

文字の大きさ
上 下
76 / 110
第四章その7 ~急転直下!~ 始まりの高千穂研究所編

似合ってるって言われたの

しおりを挟む
ゴサロは途方に暮れていた。

いつの間に気を失ったのかも分からないが、例の元Aランクの一人に揺り起こされた。

聞けば、最後に残ったローブの男が大爆発を起こしたと言う。

言われてみれば、そうだったような気もする。まだ頭がくらくらして、記憶も曖昧だ。

例の黒服メイドとターゲットの娘は既に姿を消していた。

元Aランクの四人組は何かを喚いていたが、よく分からなかった。

最後に何某かのことを言ったと思ったら、取り乱すように走り去った。

いま、この何もない開けた高地には自分だけが取り残されていた。

少し先には、どうやら首の無い二つの死体が転がっているようだが、この際そんな事はどうでも良かった。

自分は仕事をしくじった。これまでも、些細な失敗はあったが、自分の力でリカバリーしてきた。

何の問題も無かった。

だが、今回は完全に失敗した。もう取り返しはつかない。仲間も失った。

後は自分の死を待つのみかと考えたところで、はたと気づいた。

自分に責任を負わすと言っていた男達は居なくなった。

これは、生き残るチャンスなのか?そう言えば、さっきの奴らは何と言ってた?

【闇ギルド】に見つからないように、名前も変えて、みんなでバラバラに違う土地で暮らすとかなんとか…。

ゴサロは一気に覚醒した頭を振ると、自分の持ち物が手元にある事を確認して、駆け出した。



それから数日…

ここは獣人国との国境に近い【シモン共和国】の小都市【バトン】。

うらぶれた安宿の1階にある食堂で安いエールを呷りながら、ゴサロは人込みに溶け込んでいた。

人に後ろ指をさされる仕事も金が稼げていっぱしにいい暮らしが出来るからやるのであって、命を懸けてまでやる気はさらさら無かった。

ゴサロの哲学は、終始一貫して自己保身と長いものに巻かれてうまくやる事だった。

もう死んでしまった部下達も、そういう意味では同じ穴の狢であり、価値観が合うからこそ一緒にやっていけたのだ。

自分だけが生き残ったことに僅かばかりの痛みはあるが、しょせんはみんな運が悪かったのだとも思う。

お前たちの分まで、俺はしっかり生きて楽しんでやるからな!等と自分勝手な理屈を自分の中で完結させ、最後の鎮魂の盃を傾けた。

ブラックオパールへの恩義はここ数年の働きで十分返せただろうと自分を納得させ、さあ、この後はどうするかと考える。

切り替えの早さも長生きする秘訣と、終わった事は気にしないのがこの男の良いところであり悪いところでもあった。

まずは、貯めこんでた金をどうやって回収するか、下手な事して【闇ギルド】にバレては元も子もないな、等とあれこれ考えていると、突然肩に手を置かれて耳元で誰かの声がした。

「おいおい、まだ仕事も終わってないのに、こんな所で飲んでるのか?」

声を聞いた瞬間、全身の血の気が引くのが分かった。瞬時に鳥肌が立つ。

恐る恐る声のした方へ視線を向けると、そこには笑顔の中に色のない視線で自分を見るブラックオパールの姿があった。

「ひっ!…」

そんなゴサロの様子に頓着することもなく、ゴサロの肩に手を回したまま、ブラックオパールは空いているゴサロの隣に腰を下ろした。

ゴサロは反射的に視線を下に落とし、戻すことが出来なかった。さほど熱いわけでもないのに、滝のような汗が流れ落ちる。

「どうした?ゴサロ。すごい汗じゃないか。熱でもあるんじゃないか?早く仕事を片付けて医者にでもかかった方がいいんじゃないか?」

何もしらない誰かが傍でその言葉だけを聞いていれば、知り合いを労わる優しい言葉に聞こえただろう。

だが、当事者にしてみれば逃げ場のないその場所で、これ以上ない圧力をかけられている状態である。

暫しの沈黙が場を支配したが、耐えられなくなったのはゴサロだった。

「た、隊長…」

ゴサロはブラックオパールの事を傭兵時代からの呼び名で”隊長”と呼んでいた。

「隊長、ど、どうしてここへ?…」

ゴクリと喉を鳴らすと、愛想笑いともつかないぎこちない笑いをその顔に張り付けて、ゴサロは精いっぱいの勇気を振り絞って隣に座る人物に問いかけた。

「んっ?いやあ、お前に頼んだ仕事がうまくっていないって聞いてな。助けてやろうと思って来てやったんだよ」

ブラックオパールはそう言いながら「あ、ねえちゃん、エール一つくれ」と店員に注文していた。

ゴサロはほとんどパニック状態だった。

そもそも、どうして隊長はここに俺がいる事を知ってるんだ?!

俺がここにいるなんて誰も知るはずがないし、だいたいこの人は何処から来たんだ?!

様々な疑問が頭の中を駆け巡るが、喫緊の課題は今の状況の整合性のある言い訳をどうするか、だった。

「おっ!来たな!じゃ、ほら!ゴサロ、乾杯!」

ブラックオパールは先ほどとは打って変わったにこやかな笑顔でゴサロを促すと盃を合わせてエールを喉へ流し込んだ。

ゴサロもそれに合わせたが、エールの味など分からず、まして酔えるはずなどなかった。

「・・・で、俺の頼んだ仕事、どうなってる?」

ブラックオパールの言葉にビクッとしたゴサロは、更に止めどなく流れ出る汗を腕で拭いながら、この場を生き延びる為の言葉を口にした。

「き、聞いてくださいよー!最初は上手く行ってたんですが、変な邪魔が入っちまって・・・何んだか黒猫連れたメイドの小娘が俺たちの邪魔をしやがったんですよ!参りましたよ、マジで・・・」

言ってる事は事実だが、ふと目に入ったブラックオパールの刺すような視線がゴサロの口を閉じさせる。

「んっ?どうした?続きは無いのか?」

ゴサロの言葉が途切れたところで、ブラックオパールはエールを飲み干すと、

「お前、逃げるわけじゃ無いよな?」

とゴサロを見つめた。

その目を見たゴサロは生きた心地がしなかった。

獲物を捕食する直前の肉食獣や猛禽類と同じ種類の視線をゴサロはそこに見たのである。

「そ、そんなわけ無いじゃ無いですか。俺、今まで隊長の仕事を途中で投げ出した事、ありましたか?」

思わずそんな言葉がゴサロの口をついて出たが、この瞬間にそれ以外の言葉が吐けるはずが無かった。

その言葉を聞いたブラックオパールは、数瞬ゴサロを見つめた後に破顔して、

「だよな!お前は仕事できるから、俺は頼りにしてるんだぜ?」

そう言って食堂の店員にエールを二つ追加した。

「お前には荷が重い相手だって事は分かったから、次は俺も入ることにするわ。クライアントがうるさいからよ」

店員が運んできたエールをゴサロにも渡すと、ブラックオパールは自分の分はさっさと呷って盃を空にし、

「じゃ、手順が決まったらまた連絡するから、例の辺境伯の領地近くで待機しててくれ」

そう言ってテーブルに金貨を1枚放り投げると立ち上がった。

「えっ?!あのガキ、伯爵の領地に戻ってるんですか?」

自分が知らない情報をどうやってこの人は手に入れてるのかと常々思っていたが、自分の居場所も難なく掴むこの人なのだからと納得した。

「じゃ、この数日うちには動くと思うからよろしくな」

そう言ってその場を離れようとした男に、ゴサロはつい先日の出来事を聞いてしまった。

「隊長、その…あいつらの事、知ってたんですか?」

ゴサロから離れようとしていたブラックオパールは、立ち止まって振り向くと、

「あいつらの事?」

と疑問を口にした。ゴサロは聞いてはいけないと思いながら、内心の葛藤に負けた。

「俺の部下たちの事です…」

その言葉を聞いたブラックオパールは、何かを思い出したかのように手をたたくと、再びゴサロの横に腰を下ろし、

「あぁ、その事か。あいつら、酷いよな?俺も話を聞いた時はビックリしたよ!せっかくお前と一緒に仕事をしてもらったのに俺も残念だよ」

そう言ってゴサロの肩を叩いた。

ゴサロは、ブラックオパールが知らないうちに部下が処分されたのだと分かり、やはりそうかと自分の疑問を解消したところだったが、

「でも、別に問題ないだろう?」

そう隣の男に言われて思わずそちらを振り返った。

そこには無表情な視線を自分に向ける一個の怪物がいた。

「仕事が出来なきゃ別にいても…なぁ?お前もそう思うだろう?」

「隊長…」

ゴサロの顔には、自分がかつて知っていた男とはやはり違う男がここにいる事を実感した諦念が顔に浮かんだが、ブラックオパールはそんな事にはお構いなく、

「まぁ、気を取り直して、また楽しくやろうや。取りあえず、今回の仕事を終わらせてからな!」

そう言って、今度は本当にその場を離れた。



ブラックオパールの姿が消えて少し時が経ち、ゴサロは落ち着いて考える。

確かに隊長はここへ来たが、あの化け物娘の相手をするのは嫌だった。絶対に今度は殺される。

急いでこの場を離れて遠くへ行けばあるいは…。

そう思い立ったゴサロは、先程ブラックオパールが投げていった金貨を懐に入れると、エールの代金に大銅貨を数枚テーブルの上に置いて食堂を出た。

外に出たゴサロは、直ぐに辻馬車の乗り場へ向かおうとしたが、その時、食堂の入口近くで屯していた男たちの声が聞こえてきた。

「おい!聞いたか?街の入り口近くで冒険者っぽい男と女の死体が見つかったってよ」

「聞いた、聞いた!顔が潰されてて、どこの誰だか分からんって話じゃないか!」

「そうなのか?俺が聞いたのは、森の入り口近くに男の死体があったって話だが。それも冒険者風で顔が潰されてたってよ!」

「ひでぇ話だな!犯罪者とか近くに潜んでんじゃねーだろうな?!」

「衛兵が辺りの捜索と警備を強化するとか言ってたぜ。おっかねー話だな」

その話を聞いたゴサロの脳裏には、瞬時にあの場で別れた元冒険者の姿が浮かんだ。

まさか、これもブラックオパールが!?…。

暫しその場に立ち尽くしたゴサロは、諦めの表情を浮かべると踵を返して宿屋に戻り、今日の宿を取った。

今日の獣人国行きの辻馬車はもう終了している事は分かっていたので、明日に備える為に今日は早めに寝ることにする

ゴサロは運命に絡めとられた子ウサギの心境だったが、そこから逃れる術は無いのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~

川原源明
ファンタジー
 秋津直人、85歳。  50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。  嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。  彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。  白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。  胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。  そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。  まずは最強の称号を得よう!  地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編 ※医療現場の恋物語 馴れ初め編

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

ひきこもり瑞祥妃は黒龍帝の寵愛を受ける

緋村燐
キャラ文芸
天に御座す黄龍帝が創りし中つ国には、白、黒、赤、青の四龍が治める国がある。 中でも特に広く豊かな大地を持つ龍湖国は、白黒対の龍が治める国だ。 龍帝と婚姻し地上に恵みをもたらす瑞祥の娘として生まれた李紅玉は、その力を抑えるためまじないを掛けた状態で入宮する。 だが事情を知らぬ白龍帝は呪われていると言い紅玉を下級妃とした。 それから二年が経ちまじないが消えたが、すっかり白龍帝の皇后になる気を無くしてしまった紅玉は他の方法で使命を果たそうと行動を起こす。 そう、この国には白龍帝の対となる黒龍帝もいるのだ。 黒龍帝の皇后となるため、位を上げるよう奮闘する中で紅玉は自身にまじないを掛けた道士の名を聞く。 道士と龍帝、瑞祥の娘の因果が絡み合う!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...