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第四章その5 ~さあ反撃だ!~ やる気満々、決戦準備編
雪菜は恋バナが好き
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『しずやしず しずの苧環繰り返し 昔を今になすよしもがな』
ヒカリは口ずさみながら舞い踊る。
平和な頃に、鶴岡八幡宮で奉納されていた『静の舞』であり、源義経の恋人だった静御前が、離れ離れになった義経を恋しがって舞ったのが元ネタだ。
糸をたぐるように時を巻き戻し、大好きな人といた頃に戻りたい、という趣旨であるが、義経の兄であり時の権力者……そして弟を殺そうとしていた頼朝の前でこれを舞ったというのだから、恋する乙女は無敵である。
「……と、まあほんとはもっと長いんで、超ダイジェストに端折ったわけだけども」
少し照れ隠しのようにヒカリが言うと、雪菜は惚けたように呟いた。
「綺麗……ヒカリ、とっても綺麗……」
喋ってなければ、と余計な事を言う雪菜だったが、彼女は素直に拍手してくれた。
「いやほんと、嘘じゃないわ。オレンジの照明のせいかな、凄くこう陰影が効いてて……篝火とか太鼓とか、舞台で舞うヒカリが確かに見えたの」
雪菜はこくこく頷きながら、興奮してぐっと拳を握った。
「感動した。まさかあのヒカリに、こんな特技があったなんて」
「そう褒められると照れるけど、うちは古い農家だからね。子供の頃ちょっと舞踊をやらされてて」
「日本舞踊は分からないけど、ドラマか何かで見た事あるわ。静御前でしょう?」
「そうそう、あの頃の幸せを取り戻したい、って舞いだけどさ」
ヒカリはぼふん、と尻を投げ出し、ベッドの上に腰掛ける。
「実際にはどれだけ舞っても、過ぎてからじゃ遅いだろ? 幸せの糸は、無くなる前に掴まなくちゃ」
「…………そうよね。きっとその通りだと思う」
雪菜は体育座りのまま、真剣な顔で頷いた。
タイトスカートから覗く足は、照明で火照ったような色に染まり、長く伸ばした金の髪は、きらきらと光を放って輝いている。
本当に女神様みたいだ、とヒカリは思った。
こんな子が恋に無器用なんて今でも信じられないが、とにかく彼女には、何が何でも幸せになって欲しいのだ。
「大丈夫、雪菜になら出来るよ。綺麗だし、度胸だってあるし。きっときっと大丈夫」
ヒカリはそこで、少し自虐するように微笑んだ。
「……ボクは腰抜けだから、どんなに近くても掴めないけどさ」
「……………………えっ……???」
雪菜はしばらくぽかんとしていたが、急に目の奥がきらりと光った。体育座りをほどき、ぐいぐいと身を乗り出す。
「そ、それってもしや……ヒカリ……!?」
明らかな期待の眼差しだった。顔は一気に赤くなり、少し鼻息が荒くなっている。
元々恋愛話が好きなので、彼女はこういう話題ですぐ興奮するのである。
ヒカリは内心話がずれてしまうと思ったが、もうやけくそで続ける事にした。折角の夜更けだ、どうせなら楽しくいこう。
「……ごめんね。君にアドバイスをしておいて」
「そっそそそ、そんな事ないわ。それでその、相手はもしかして……?」
「……情けないよ。実家でコシヒカリを作ってたボクが腰抜けだなんて」
「こ、コシヒカリ……??」
「ちなみにうちは、兄弟姉妹がなんと10人。結婚は輿入れとも言うけど、父母は相当腰が強かったんだね。越後らしい、エッチな子だよ2人とも。いわば人間コシヒカリ、愛の魚沼産婦人科……」
「う、うう~っ……えーっ……えーっと???」
マシンガンのように雪崩れ込む適当な言葉に、雪菜は露骨に混乱している。
「……ご、ごめん、いつも思うけど、これ今冗談なの? シリアスなの?」
「尻とアスは同じ意味さ。お尻の穴!って言うだろ」
「あ、冗談なのね……って、疲れたわもう、なんなのっ!!?」
雪菜はドタンと後ろ向きにベッドに倒れた。
「ひどすぎる……ちょっと、かなり期待したのに……」
「ごめんね、生粋の悪党で」
「ほんとに悪い詐欺師さんだわ……」
雪菜は力が抜けてしまったのか、少し口元に笑みを浮かべた。
それから大きく息をついて、心地良さそうに目を閉じる。
「……でもいい疲れかも。頭の中しっちゃかめっちゃかで……ちょっと怖さがまぎれたみたい」
「なら良かった。何かあったら起こすから、それまで寝てなよ。ボクはその時代わりに寝るから」
「…………それってずるいじゃない……?」
雪菜は目を閉じたまま、ふふふ、と笑った。
「…………でもねヒカリ……恋愛なんて、最後まで分からないわよ?」
「雪菜でも?」
「……そ、誰にもね。冗談ばっかり言う悪い子には、特に……」
彼女はそのまま眠りに落ちていく。本来は寝つきのいい子なのだ。
ヒカリはしばし寝顔を見つめ、それから前に視線を戻した。
(…………冗談なら、どんなにいいだろうね)
雪菜の真似で体育座りをしてみる。
膝に顎を乗せ、ただじっと爪先を見つめた。
靴下越しでもよく動く足の指は、某アニメ映画のどでかい蟲のようだったが、今はそんな隠し芸をみがいている場合じゃない。
結局、これが最後かも知れないのだ。
魔王はもうすぐやって来る。世界が終わるその前に、恋の宿題を終わらせるべきだろうか……?
……いいや、自分はそうしない。ずるくて弱くて腰抜けなのだ。
氷水をかぶって風邪を引いてでも、夏休みを延長しようとするだろう。そう、1秒でも長く……1秒でも見苦しく。
「……さて、ズルの準備を始めるかな?」
眠る雪菜を起こさないよう、ヒカルは部屋を抜け出した。
本当に、素直で可愛い眠り姫だ。
いつかあの子の結婚式で、ゲリラ的に高砂でもかましてあげればいいんだろうけど……それこそつかさに怒られるだろうか。
ヒカリは口ずさみながら舞い踊る。
平和な頃に、鶴岡八幡宮で奉納されていた『静の舞』であり、源義経の恋人だった静御前が、離れ離れになった義経を恋しがって舞ったのが元ネタだ。
糸をたぐるように時を巻き戻し、大好きな人といた頃に戻りたい、という趣旨であるが、義経の兄であり時の権力者……そして弟を殺そうとしていた頼朝の前でこれを舞ったというのだから、恋する乙女は無敵である。
「……と、まあほんとはもっと長いんで、超ダイジェストに端折ったわけだけども」
少し照れ隠しのようにヒカリが言うと、雪菜は惚けたように呟いた。
「綺麗……ヒカリ、とっても綺麗……」
喋ってなければ、と余計な事を言う雪菜だったが、彼女は素直に拍手してくれた。
「いやほんと、嘘じゃないわ。オレンジの照明のせいかな、凄くこう陰影が効いてて……篝火とか太鼓とか、舞台で舞うヒカリが確かに見えたの」
雪菜はこくこく頷きながら、興奮してぐっと拳を握った。
「感動した。まさかあのヒカリに、こんな特技があったなんて」
「そう褒められると照れるけど、うちは古い農家だからね。子供の頃ちょっと舞踊をやらされてて」
「日本舞踊は分からないけど、ドラマか何かで見た事あるわ。静御前でしょう?」
「そうそう、あの頃の幸せを取り戻したい、って舞いだけどさ」
ヒカリはぼふん、と尻を投げ出し、ベッドの上に腰掛ける。
「実際にはどれだけ舞っても、過ぎてからじゃ遅いだろ? 幸せの糸は、無くなる前に掴まなくちゃ」
「…………そうよね。きっとその通りだと思う」
雪菜は体育座りのまま、真剣な顔で頷いた。
タイトスカートから覗く足は、照明で火照ったような色に染まり、長く伸ばした金の髪は、きらきらと光を放って輝いている。
本当に女神様みたいだ、とヒカリは思った。
こんな子が恋に無器用なんて今でも信じられないが、とにかく彼女には、何が何でも幸せになって欲しいのだ。
「大丈夫、雪菜になら出来るよ。綺麗だし、度胸だってあるし。きっときっと大丈夫」
ヒカリはそこで、少し自虐するように微笑んだ。
「……ボクは腰抜けだから、どんなに近くても掴めないけどさ」
「……………………えっ……???」
雪菜はしばらくぽかんとしていたが、急に目の奥がきらりと光った。体育座りをほどき、ぐいぐいと身を乗り出す。
「そ、それってもしや……ヒカリ……!?」
明らかな期待の眼差しだった。顔は一気に赤くなり、少し鼻息が荒くなっている。
元々恋愛話が好きなので、彼女はこういう話題ですぐ興奮するのである。
ヒカリは内心話がずれてしまうと思ったが、もうやけくそで続ける事にした。折角の夜更けだ、どうせなら楽しくいこう。
「……ごめんね。君にアドバイスをしておいて」
「そっそそそ、そんな事ないわ。それでその、相手はもしかして……?」
「……情けないよ。実家でコシヒカリを作ってたボクが腰抜けだなんて」
「こ、コシヒカリ……??」
「ちなみにうちは、兄弟姉妹がなんと10人。結婚は輿入れとも言うけど、父母は相当腰が強かったんだね。越後らしい、エッチな子だよ2人とも。いわば人間コシヒカリ、愛の魚沼産婦人科……」
「う、うう~っ……えーっ……えーっと???」
マシンガンのように雪崩れ込む適当な言葉に、雪菜は露骨に混乱している。
「……ご、ごめん、いつも思うけど、これ今冗談なの? シリアスなの?」
「尻とアスは同じ意味さ。お尻の穴!って言うだろ」
「あ、冗談なのね……って、疲れたわもう、なんなのっ!!?」
雪菜はドタンと後ろ向きにベッドに倒れた。
「ひどすぎる……ちょっと、かなり期待したのに……」
「ごめんね、生粋の悪党で」
「ほんとに悪い詐欺師さんだわ……」
雪菜は力が抜けてしまったのか、少し口元に笑みを浮かべた。
それから大きく息をついて、心地良さそうに目を閉じる。
「……でもいい疲れかも。頭の中しっちゃかめっちゃかで……ちょっと怖さがまぎれたみたい」
「なら良かった。何かあったら起こすから、それまで寝てなよ。ボクはその時代わりに寝るから」
「…………それってずるいじゃない……?」
雪菜は目を閉じたまま、ふふふ、と笑った。
「…………でもねヒカリ……恋愛なんて、最後まで分からないわよ?」
「雪菜でも?」
「……そ、誰にもね。冗談ばっかり言う悪い子には、特に……」
彼女はそのまま眠りに落ちていく。本来は寝つきのいい子なのだ。
ヒカリはしばし寝顔を見つめ、それから前に視線を戻した。
(…………冗談なら、どんなにいいだろうね)
雪菜の真似で体育座りをしてみる。
膝に顎を乗せ、ただじっと爪先を見つめた。
靴下越しでもよく動く足の指は、某アニメ映画のどでかい蟲のようだったが、今はそんな隠し芸をみがいている場合じゃない。
結局、これが最後かも知れないのだ。
魔王はもうすぐやって来る。世界が終わるその前に、恋の宿題を終わらせるべきだろうか……?
……いいや、自分はそうしない。ずるくて弱くて腰抜けなのだ。
氷水をかぶって風邪を引いてでも、夏休みを延長しようとするだろう。そう、1秒でも長く……1秒でも見苦しく。
「……さて、ズルの準備を始めるかな?」
眠る雪菜を起こさないよう、ヒカルは部屋を抜け出した。
本当に、素直で可愛い眠り姫だ。
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