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第四章その5 ~さあ反撃だ!~ やる気満々、決戦準備編
キスの人間マシンガン
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「興奮して眠れない……」
ヒカリ達が部屋について10分後。
さっきの舌の根も乾かぬうちに、雪菜は弱音を吐いていた。
艦内の仮眠室……しかし本来は来賓用に設計されたその部屋は、良質のベッドが並び、寝心地もなかなかのものである。
しかしいかに寝心地が良かろうと、気持ちが高ぶっていてはどうしようもない。
雪菜はしばらくベッドの傍を歩き回った。後ろに手を組み、まるで推理中の名探偵ホームズのようだ。
それからベッドに乗って腹筋したり、体をねじったり。ヨガらしき変な事もしているが、多分詳しいポーズは知らないんだろう。
思いつきであれこれ奇妙な体操をしたあげく、急に目を閉じて瞑想を始めた。
片手を胸の前で拝むようにし、もう片方の手は膝の上に柔らかく置いて。瞑想というよりどこかの仏像のようだが、数分後、雪菜はベッドの上で体育座りした。どうやら寝るのを諦めたらしい。
(昔からそうだけど、観察してると飽きないねえ……)
ヒカリは素直にそう思った。
歳は確か24、ヒカリより2つ歳下であるが、しっかりしてるのか抜けているのか、今でもよく分からない仲間である。
……それでもたった一つ分かるのは、この子がとびきり優しいという事だ。
この絶望の世界で、生き残るのは彼女のような子がいい。意地っ張りな自分より、きっとその方が正解だろう。ヒカリは常々そう思っていた。
「……ね、何か話さない?」
眠れなかった手前、雪菜は照れ臭そうに言った。
「昔の……パイロット時代みたいに。戦いの後、こうしてみんなでお喋りしたよね?」
「したねえ。つかさに言うと怒られるけど、何回も徹夜したねえ」
ヒカリが言うと、雪菜はとびきり嬉しそうに頷いた。
「そうそう、ほんとに楽しかった! いつ死ぬか分からないから、生きてるうちに全部話したかったのかな?」
雪菜は10代の少女に戻ったように目をきらきらさせているが、そこでふと尋ねてきた。
「そう言えば、2人はどうして第3船団に来たんだっけ?」
もっともな疑問である。ヒカリの出身は旧新潟県、つかさは兵庫。怪訝に思うのも無理無いだろう。
「それは……明日馬っちが江戸っ子だったからね。ボクもつかさも随分助けられたし……明日馬っちが居なくなった今、ボク達が取り返さなきゃって。北陸には他にも神武勲章隊のメンバーがいるし、何も心配してないから」
「ヒカリがそう言う時は、心配でしょうがないって時でしょ?」
雪菜は割と鋭い事を言うが、そこで彼女は感慨深そうに宙を見上げた。
「明日馬くん、か……」
懐かしむような、愛おしむような不思議な横顔である。
「……そうよね、関東の人だものね。平和になったら、神田明神さんのお祭りに出たいって、いつも言ってたわ。子供の頃から楽しみにしてたから、なんとしてももう一度って……」
雪菜はしばし沈黙する。
(しまった、ついしんみりさせちゃったか……)
ヒカリは内心反省した。
雪菜は明日馬と恋人だったため、その死を今でも受け止められていないのだろう。
どうしていいか分からなかったが、こういう時、ヒカリの引き出しにはふざける以外の選択肢が無いのだ。
「……言っとくけど、ボクは明日馬っちにラブい気持ちを持ってたわけじゃないよ? 君と明日馬っちがラブのラブラブ、もうとんでもない事だったのは知ってるわけだし」
「いやいや、全く何にも、とんでもなくないわ。いつ出撃か分からなかったから、デートだって出来ないし。キスぐらいしか……した事ないもの」
素直な雪菜は、手をブブブブン、と振りながら赤くなっている。こうなればもう一押しだ。
「そうだった。人目もはばからず、チュッチュ、チュッチュとやってたよね。まさに人間マシンガン、愛の治外法権。夢の公然猥褻カップルさ」
「誰がいつそんな事をっ!? 1回だけっ、ノーマシンガン! ワンタイム! ワンモア!」
「そうかい? でも今はあの弟子と、愛を紡いでる事も調査済みだよ」
「つっつつつ、紡いでないっ!! どこ情報よそれは!!」
雪菜は顔から蒸気が出そうな勢いで叫んだ。それから少しボリュームを抑えて言う。
「……い、いえ……紡ぐつもりが無いわけじゃないんだけど……まだ、紡げていないのでありまして……」
「前も駄目、今回も駄目駄目。チミは一体、いつになったら動くんだね?」
「……あい、申し訳ありません」
雪菜は体育座りのまま、赤い顔で俯いたが、ヒカリはそこで謝罪した。
「なーんてね、偉そうに言ってゴメン。お詫びにひとつお見せしようか」
ヒカリはそこでベッドから立ち上がり、背筋を伸ばしてついと進み出る。
昔習っていた日本舞踊を……そしてテレビで見た鎌倉祭りを思い出し、ヒカリは舞った。
ヒカリ達が部屋について10分後。
さっきの舌の根も乾かぬうちに、雪菜は弱音を吐いていた。
艦内の仮眠室……しかし本来は来賓用に設計されたその部屋は、良質のベッドが並び、寝心地もなかなかのものである。
しかしいかに寝心地が良かろうと、気持ちが高ぶっていてはどうしようもない。
雪菜はしばらくベッドの傍を歩き回った。後ろに手を組み、まるで推理中の名探偵ホームズのようだ。
それからベッドに乗って腹筋したり、体をねじったり。ヨガらしき変な事もしているが、多分詳しいポーズは知らないんだろう。
思いつきであれこれ奇妙な体操をしたあげく、急に目を閉じて瞑想を始めた。
片手を胸の前で拝むようにし、もう片方の手は膝の上に柔らかく置いて。瞑想というよりどこかの仏像のようだが、数分後、雪菜はベッドの上で体育座りした。どうやら寝るのを諦めたらしい。
(昔からそうだけど、観察してると飽きないねえ……)
ヒカリは素直にそう思った。
歳は確か24、ヒカリより2つ歳下であるが、しっかりしてるのか抜けているのか、今でもよく分からない仲間である。
……それでもたった一つ分かるのは、この子がとびきり優しいという事だ。
この絶望の世界で、生き残るのは彼女のような子がいい。意地っ張りな自分より、きっとその方が正解だろう。ヒカリは常々そう思っていた。
「……ね、何か話さない?」
眠れなかった手前、雪菜は照れ臭そうに言った。
「昔の……パイロット時代みたいに。戦いの後、こうしてみんなでお喋りしたよね?」
「したねえ。つかさに言うと怒られるけど、何回も徹夜したねえ」
ヒカリが言うと、雪菜はとびきり嬉しそうに頷いた。
「そうそう、ほんとに楽しかった! いつ死ぬか分からないから、生きてるうちに全部話したかったのかな?」
雪菜は10代の少女に戻ったように目をきらきらさせているが、そこでふと尋ねてきた。
「そう言えば、2人はどうして第3船団に来たんだっけ?」
もっともな疑問である。ヒカリの出身は旧新潟県、つかさは兵庫。怪訝に思うのも無理無いだろう。
「それは……明日馬っちが江戸っ子だったからね。ボクもつかさも随分助けられたし……明日馬っちが居なくなった今、ボク達が取り返さなきゃって。北陸には他にも神武勲章隊のメンバーがいるし、何も心配してないから」
「ヒカリがそう言う時は、心配でしょうがないって時でしょ?」
雪菜は割と鋭い事を言うが、そこで彼女は感慨深そうに宙を見上げた。
「明日馬くん、か……」
懐かしむような、愛おしむような不思議な横顔である。
「……そうよね、関東の人だものね。平和になったら、神田明神さんのお祭りに出たいって、いつも言ってたわ。子供の頃から楽しみにしてたから、なんとしてももう一度って……」
雪菜はしばし沈黙する。
(しまった、ついしんみりさせちゃったか……)
ヒカリは内心反省した。
雪菜は明日馬と恋人だったため、その死を今でも受け止められていないのだろう。
どうしていいか分からなかったが、こういう時、ヒカリの引き出しにはふざける以外の選択肢が無いのだ。
「……言っとくけど、ボクは明日馬っちにラブい気持ちを持ってたわけじゃないよ? 君と明日馬っちがラブのラブラブ、もうとんでもない事だったのは知ってるわけだし」
「いやいや、全く何にも、とんでもなくないわ。いつ出撃か分からなかったから、デートだって出来ないし。キスぐらいしか……した事ないもの」
素直な雪菜は、手をブブブブン、と振りながら赤くなっている。こうなればもう一押しだ。
「そうだった。人目もはばからず、チュッチュ、チュッチュとやってたよね。まさに人間マシンガン、愛の治外法権。夢の公然猥褻カップルさ」
「誰がいつそんな事をっ!? 1回だけっ、ノーマシンガン! ワンタイム! ワンモア!」
「そうかい? でも今はあの弟子と、愛を紡いでる事も調査済みだよ」
「つっつつつ、紡いでないっ!! どこ情報よそれは!!」
雪菜は顔から蒸気が出そうな勢いで叫んだ。それから少しボリュームを抑えて言う。
「……い、いえ……紡ぐつもりが無いわけじゃないんだけど……まだ、紡げていないのでありまして……」
「前も駄目、今回も駄目駄目。チミは一体、いつになったら動くんだね?」
「……あい、申し訳ありません」
雪菜は体育座りのまま、赤い顔で俯いたが、ヒカリはそこで謝罪した。
「なーんてね、偉そうに言ってゴメン。お詫びにひとつお見せしようか」
ヒカリはそこでベッドから立ち上がり、背筋を伸ばしてついと進み出る。
昔習っていた日本舞踊を……そしてテレビで見た鎌倉祭りを思い出し、ヒカリは舞った。
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