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第四章その1 ~大ピンチ!?~ 無敵の魔王と堕ちた聖者編

相手にもされない

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 ディアヌスの猛攻を目の当たりにし、誠達も混乱していた。

 恐ろしいほど広範囲、かつ強力な術が、味方部隊を玩具おもちゃのように薙ぎ払っていく。

 凍り、焼かれ、吹き飛ばされ、苦悶のままに息絶える人々。

 頑強な装甲車が、そして人型重機が、もうもうと蒸気を上げる黒こげの塊になって崩れ落ちていく。

 魔王の発した魔法の1つ1つが恐ろしく強力で、大災害のようである。

 あたかも愚かな人間に天罰を下す、破壊神そのものだった。

 誠の人型重機の後部座席で、鎧姿の姫君・つるは懸命に意識を集中していた。

 巨大な雷が何度も機体を叩く度、機体の周囲に輝く光……鶴が発した霊力のバリアが、何とかそれを受け止めている。

「これ、重たい……!! とても何回も防げないわね……!」

 鶴はそう苦しげに言った。

「みんなはどうなってるのかしら。これじゃ探す余裕もないわ……!」

 八百万やおよろずの神の指示を受け、地上を守りに来た神人しんじん・鶴の力をもってしても、自機とごく近くの人々を守るので精一杯のようだ。

「守れないなら、攻撃するしかない……!!」

 誠は人型重機を操作し、そそり立つ魔王の方へと走らせる。

「ヒメ子、いつものいけるか!?」

「頑張るわ! 全力でいくわよ!」

 鶴が胸の前で手を合わせると、機体の持つ強化刀に眩い光が宿った。

「おおおおおおっっっ!!!!!!」

 誠は機体を跳躍させ、魔王の眼前に刀を振り下ろす。

 だがそれも効果が無い!!!

 鶴と機体の全ての力を注ぎこんだ一撃は、魔王の光の障壁しょうへきはばまれた。

 激しい火花が立ち昇ったが、防御の魔法は全く揺るがず、魔王はゆっくりと視線を動かす。

「…………っっっ!!!」

 その巨大な目に見据えられた時、あの日の記憶が思い起こされた。

 当時まだ幼かった誠は、恩人であり尊敬するパイロットでもある明日馬あすま達と共に、魔王ディアヌスと対峙したのだ。

 まるでゴミを見るような目で一瞥いちべつされ、薙ぎ払われたあの日の屈辱。

 それを払拭ふっしょくすべく鍛えてきたつもりだったが、眼前の魔王の表情は、当時と何一つ変わらなかった。

 ただ飛び交う羽虫を眺めるように、こちらに目を向けただけだ。

「ぐっ、うっ、うううううっっっ!!!」

 誠は機体の操作レバーを押し込み、相手の結界を破ろうと試みる。

 だが次の瞬間、機体は猛烈な力を受けて吹き飛ばされていた。

 !!!!!!!!!!!!!?????????????

 滅茶苦茶に振り回され、大地に叩きつけられるはずだったが、機体はぎりぎりで光に包まれて着地する。

 恐らく鶴が、寸前で霊力によるブレーキをかけてくれたのだろう。

 誠は内心鶴に感謝しながら、再び魔王を見上げた。

 届かない、倒せない……!!!

 10年積み重ねてきた技術も、苦難を耐え忍んできた人々の思いも、全てを嘲笑うかのような圧倒的な力だった。

 それでも諦めるわけにはいかない。

 あの怪物を倒せなければ、永遠にこの国の不幸は終わらないのだ。

 この長きに渡った悲しみの物語は、目の前の魔王をほふらない限りは閉じられないのだから。

「ヒメ子、もう一度……」

 だが誠が言いかけた時、鶴はその言葉をさえぎった。

「黒鷹、ここは一度退きましょう……!」

「……?」

 誠が振り返ると、鶴は真剣な表情でこちらを見つめている。

 いつもの明るくお茶らけた様子ではない、本気の顔だ。

「……さっきの戦いもあったし、私もコマも、黒鷹だってもう限界。悔しいけど、今は逃げて立て直しましょう。このままじゃ、助かる人も助からなくなるわ……!」

「ヒメ子………………分かった……!」

 誠はすぐに覚悟を決めた。

 鶴の言う通り、現時点であの魔王を倒す手段は見つからない。ならば生き延び、体勢を立て直すしかないだろう。

 鶴は霊力を集中し、周辺の部隊に思念で呼びかけている。

「みんな、一旦退却しましょう! このまま戦っても全滅するわ!」

 言葉と共に、鶴の思念が白い波動となって辺りに広がっていく。

 そのおかげだろうか、魔王の精神攻撃で心を乱していた人々も、少しだけ正気を取り戻したようだ。それぞれ手近な人に呼びかけ、急ぎ撤退の手はずを取り始める。

 魔王は逃げ惑う人々をよそに、北部湖岸から南東へ、内陸へと歩を踏み出した。

 このまま旧名古屋方面へ、濃尾平野のうびへいやに向かうつもりだろうか。

 やがて魔王の右手に赤い光が宿ると、黒く禍々まがまがしい肉厚の刀が姿を現す。あたかも黒曜石から削り出したかのようにいびつな、しかし恐るべき魔力を秘めた刀だ。

 魔王は刀を握り締め、牙を剥き出しにして大きく咆えた。その視線は天に向いている。

(そうか、あの闘神とうしんを……永津彦ながつひこを警戒してるんだ……! だとしたら、俺達なんて眼中に無いはず……!)

 誠はやっと気が付いた。

 魔王は恐らく、10年前に引き分けた高天原たかまがはらの神・葦原永津彦あしはらながつひこの襲撃に備えているのだ。だったら生き延びる道はまだ残っている。

 …………だがそこで、誠達の機体の前に、1人の女が舞い降りてきた。

 長くたなびく髪、死人のように青白い肌。

 全身を激しい邪気に覆われた『元聖者』は、嘲笑うように口元を歪めて言った。

「……そろそろ悪あがきは終わられましたか……?」
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