64 / 95
第64話 突然の乱入者
しおりを挟む神様からの忠告をもらってから1週間が過ぎた。目が覚めた俺はさっそくエレナお嬢様とアルゼさんに防衛の強化を話した。もちろん神様のことは話さずに最近アルガン家をかぎまわっている輩がいるのを噂で聞いた、不審な奴を屋敷付近で見たといった形で報告をした。
しばらくの間は身の回りを固めるということで、エレナお嬢様が外に出る時はアルゼさん以外にもリールさんかシェアル師匠がつくことになった。サリアとマイルには極力外出を避けてもらい、外に出なければならない時は護衛をつけるようになった。
一応屋敷にはシェアル師匠がはった悪意のある者を拒む結界があるのだが、それに加えて屋敷の門に新たに護衛を雇い配置した。
二つの工場には警備を増やし、原始的だが何かあった際には狼煙をあげるようにした。本当はモールス信号を利用した連絡網を敷きたかったんだが、さすがに無線の作り方まではわからんからなあ。有線ならできそうなんだが、まさか電線を工場から屋敷まで繋げるわけにはいかないから難しかった。
そしてこっちには被害はいかないと思うが、関わりのある商人のランディさん、行商人のエドガーさん、鍛冶屋のグルガーさんには近頃周りが物騒なので注意した方がいいと伝えてある。ついでにローラン家のルーさんにも伝えておいたが、ローラン様にはまだ疑いもわずかにあるから本人には伝えていない。
えっ、俺に関して?俺に関しては特に何も。ちょっと強くなったからって自惚れてんじゃないのかと思われるかもしれないが、修行の甲斐あってか単純な速さだけだったらついにアルゼさんを超えることができた。
逃げに徹しさえすれば、アルゼさんやシェアル師匠からも逃げ切ることができるようになったので特に護衛は必要ないと言われた。まあ力や速さが上でも圧倒的に得てきた経験が違うので戦闘ではまだまだ敵わないんだけどな。
そんなわけで防衛を強化してから1週間が経ったが特に動きがない。神様からの情報だから信憑性は高い。こちらが防衛を強化したから諦めてくれたと信じたい。
「とりあえず今のところ特に目立った動きはないね」
「ですね。ただこのまま防衛は強化したままにしておいた方がいいと思います」
「そうだね、確かにアルガン家は今盛り上がっているから誰かに狙われてもおかしくないよ」
そういうリールさんにも護衛はなしだ。リールさんには試合形式で真っ正面から戦えば勝てるのだが、なんでもありの森や屋内だったらまず勝てない。死角の取り方や気配の消し方が抜群にうまいのだ。目の前で戦っていても一瞬木の影に重なるだけで見失いそうになる。この人に関していえば俺やアルゼさん以上に1人でも問題ないと思うな。
「さて、そっちのほうは置いておいてこっちにも集中しないとね。いくら強くなったからといっても油断は禁物だよ」
俺は今リールさんと一緒に盗賊退治に来ている。俺やサリア、マイルを攫って奴隷として売っていた常闇の烏という盗賊団を退治して以来、定期的にリールさんと一緒に盗賊団を探しては捕まえている。
ローラン様はちゃんと約束を守って情報統制をしてくれているので、エレナお嬢様にはバレずに盗賊退治を続けられている。まあ街では盗賊団を狙う謎の正義の味方が現れたというのは噂にはなっているらしい。
そうしたおかげで少しづつ奴隷商に流れる奴隷の数は減少していると聞いている。地道にコツコツと盗賊団を潰してきた甲斐があるってもんだ。
「はい!油断して一撃で命を落とすなんてことは絶対にしたくありませんからね」
この世界では回復魔法にも限度がある。一瞬で致命傷レベルの傷を治すということなどシェアル師匠でもできはしない。ゲームや漫画ではないんだ、硬化魔法や身体能力強化魔法を使っていない状態で心臓や首に一撃貰ってしまえばイチコロだ。そのために不意打ちの訓練も受けている訳だが油断は絶対にするまい。
「うん、それでいいよ。今日の盗賊団はいつもより少なく、腕のたつ相手もいないということだけど慢心は駄目だからね」
「はい、気をつけます!」
今日の盗賊団は10人くらいの規模で魔法を使えるやつはひとりもいないとの情報だ。行商人の人たちや近くの村の人たちからの情報なので信憑性はそこまで高くないかもしれない。
とはいえ、アジトの候補場所が絞り込めるのでありがたい。基本的にはリールさんが盗賊達の目撃情報をもとに盗賊達のアジトの候補を絞り、その候補を俺がサーチの魔法で片っ端から調べるという方法だ。当然全て外れる日も結構あるがどうやら今回は当たりのようだ。
「向こうのほうにテントがいくつかあって人数は8人ですね。一応盗賊じゃない可能性もあるんで近付いてから確認ですね」
「うん、ご苦労様。盗賊だったらいつも通り人質がいる可能性を考えてユウキくんが突っ込んで僕が奇襲する作戦で行こうか」
「はい」
気付かれないようにリールさんと2人で盗賊達に近づく。一緒に来ているべニールさんは少し離れたところで馬車と一緒に待機している。リールさんがさらに近付き盗賊かどうかを確認してきたところ、会話から盗賊であることは確定したらしい。身体能力強化魔法と硬化魔法をかけて準備はできた。さあ、行くぞ!
「あ~あ、最近はろくな獲物が掛かりゃしねえな」
「たまにゃ豪勢な飯でも食って綺麗なねえちゃんでも抱きてえよな」
「全くだぜ。あの蒸留酒とかいううめえ酒を浴びるほど飲んでみ……ぐえっ!」
「なっ、どうした。ぐえっ!」
とりあえず見張りの二人を気絶させる。最近は俺もリールさんと同じ首トンができるようになった。漫画みたいに後ろからやるのは実際には難しいが、首の横から適度な角度と力とスピードでやるとうまくいくようになった。力加減を誤るとしばらく目覚めなかったり、首がムチ打ちになるので良い子は絶対に真似しちゃダメだぞ☆
「おい、どうした!何があっ……ぐえっ!」
「ちっ、敵だ!さっさと武器を持っていこい!ぐえっ!」
近くのテントから出てきたばかりの二人を同様に落とす。両腕と両足を折って戦闘不能にしていたころよりはだいぶ楽になったし、罪悪感もあまりなくなったな。
「くそっ!なんだてめえは!」
「お頭、こいつはきっと例の盗賊狩りってやつですよ。刀とかいう武器を持って単身で突っ込んでくるって噂ですぜ!」
もう一つのでかいテントから残りの4人が出てくる。こっちのことはこいつらも知っているようだ。それにしても今のところ逃した奴もいないし、ローラン様の情報統制もあるのにどこからこういう情報を手に入れるんだこいつらは?
「その盗賊狩りだ。大人しく投降すれば痛い目には合わないぞ」
一応テンプレ通りに投降を進める。
「ちっ、上等だ、ぶっ殺してやる!」
「なめてんじゃねえぞ!」
まあ捕まったらほぼ人生が詰むからそれで投降する奴は今のところ見たことないんだけどな。
「まあそう言うと思ってたよ」
「ぐはっ!」
「がはっ!」
「はっ、速え!」
「なんてスピードだ!」
どうやら盗賊達は魔法で強化されたスピードについて来れないようだ。俺も最初の頃に比べればだいぶ速くなったもんな。
「ごはっ!」
よし、もう一人も倒して残りはボス一人だ。ボスは兜をしているので首への手刀は難しい。俺は腰に差している日本刀を抜く。襲撃の可能性があるということで、今回は念のために変異種を切った日本刀を持ってきている。
「くそが!死ねや!」
斧を振りかぶってこちらに向かってくる。だが俺から見るとあまりに遅い。振り下ろした斧を横によけ、地面に突き刺さった斧を持つ両手に向かって刀の峰で打ち付ける。
「いやああああああ!」
「ぎゃあああ!痛え、痛えよ!」
盗賊のボスの両腕がおかしな方向に曲がる。強めの力で打ち抜いたのでおそらく両腕とも折れたのだろう。
「ふう」
よし、今回の盗賊の討伐もうまくいったようだ。自身にかけた身体能力強化魔法と硬化魔法を解く。あとはここにいない盗賊がいないかをリールさんに確認してもらいもしどこかに出ているようだったら戻ってきたところを捕まえれば……
「ユウキくん、危ない!」
うっ!!
突如強烈な殺気が後方から発せられる。やばい、何かが複数飛んでくるのがわかる。なんとか体を捻ってかわせ!
「うおおおおおおお!」
後頭部を狙ってきた飛来物はなんとかかわせた。しかし、同時に飛んできた腹部への飛来物はかわせない!やばい、当たる!
キィン!
腹部に軽い衝撃が走る。だがそれ以外に特に痛みはない。どうやらなんとか胸当てに当たり弾かれたようだ。弾かれた飛来物を見るとかなり切れ味の良さそうなナイフだ。本気で危ないところだった。
「……ほう、どうやらあの時とは見違えるほど強くなったようですね」
ナイフが投げられた方向を見ると木の影から襲撃者が姿を現す。
「……黒の殺戮者」
「よく覚えていましたね。あの時は老騎士アルゼの側にいただけの少年が随分と成長したものです。せっかく雑魚どもを倒して一番油断したところを狙ったというのに防がれてしまうとは。それにこの業物のナイフを弾くとは良い防具も持っているようです」
もしリールさんが大声を出してくれなければ危なかったかもしれない。そしてエドガーさんありがとうございます、この防具のおかげで命拾いしました!
「それで黒の殺戮者くんがなんの用かな?ここにはエレナお嬢様もアルゼ様もいないんだけどな」
リールさんも森の中から出てきた。確かに、なぜこいつがここにいる?ここにはエレナお嬢様もアルゼさんもいないぞ。それにサーチの魔法にも反応しなかったが街から尾行されていたのか?
「ええ、もちろん知っておりますよ。ずっと気配を消して伺っておりましたからね。いやあ、気付かれずにあなた方の後を追うのはとても大変でしたよ。特にそちらの方はかなり後方からでも気付かれそうになりましたし、少年のほうの魔法に気付かれないように高価な魔道具を用意したりといろいろ面倒でしたね」
なるほどそんな魔道具があるのか。そしてリールさんの警戒をかいくぐるとはやはりこいつは只者ではない。
「本当は私も屋敷の方へ行ってあの老騎士と戦いたかったんですけどね、あっちには強力な魔法結界があるので先にこっちにさせてもらいましたよ。ああ、安心してください。あなた方を消して屋敷に帰るころには結界も破られているでしょうからちょうどいいでしょう」
「くっ……!」
まじかよ、屋敷の方にも襲撃者が向かっているのか!早く戻らないとみんなが危ない。
「なるほどね、そこまで僕たちに話してくれるということは当然見逃す気もないということだね」
「ええ、心配事が気になって本気で戦えないのは私としても本意ではないですからね。いいですね、あなたは非常に良い!こちらの少年にはナイフが一本当たりましたがあなたには投げた瞬間に気付かれて防がれてしまいました。それにこんな状況なのに冷静で隙もない。本当に楽しめそうだ!ただの使用人と良い武器を持っているだけの少年だけだと聞いていましたがとてもとても楽しめそうです」
あのナイフはリールさんの方にも投げていたのか。それを防ぐとはさすがリールさんだ。
「さあ、それでは殺し合いを始めましょう!」
15
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
異世界でキャンプ場を作って全力でスローライフを執行する……予定!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
お気に入りに追加
364
あなたにおすすめの小説
女神様の使い、5歳からやってます
めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。
「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」
女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに?
優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕!
基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。
戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。


加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

宇宙戦争時代の科学者、異世界へ転生する【創世の大賢者】
赤い獅子舞のチャァ
ファンタジー
主人公、エリー・ナカムラは、3500年代生まれの元アニオタ。
某アニメの時代になっても全身義体とかが無かった事で、自分で開発する事を決意し、気付くと最恐のマッドになって居た。
全身義体になったお陰で寿命から開放されていた彼女は、ちょっとしたウッカリからその人生を全うしてしまう事と成り、気付くと知らない世界へ転生を果たして居た。
自称神との会話内容憶えてねーけど科学知識とアニメ知識をフルに使って異世界を楽しんじゃえ!
宇宙最恐のマッドが異世界を魔改造!
異世界やり過ぎコメディー!

モブっと異世界転生
月夜の庭
ファンタジー
会社の経理課に所属する地味系OL鳳来寺 桜姫(ほうらいじ さくらこ)は、ゲーム片手に宅飲みしながら、家猫のカメリア(黒猫)と戯れることが生き甲斐だった。
ところが台風の夜に強風に飛ばされたプレハブが窓に直撃してカメリアを庇いながら息を引き取った………筈だった。
目が覚めると小さな籠の中で、おそらく兄弟らしき子猫達と一緒に丸くなって寝ていました。
サクラと名付けられた私は、黒猫の獣人だと知って驚愕する。
死ぬ寸前に遊んでた乙女ゲームじゃね?!
しかもヒロイン(茶虎猫)の義理の妹…………ってモブかよ!
*誤字脱字は発見次第、修正しますので長い目でお願い致します。

異世界転生漫遊記
しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は
体を壊し亡くなってしまった。
それを哀れんだ神の手によって
主人公は異世界に転生することに
前世の失敗を繰り返さないように
今度は自由に楽しく生きていこうと
決める
主人公が転生した世界は
魔物が闊歩する世界!
それを知った主人公は幼い頃から
努力し続け、剣と魔法を習得する!
初めての作品です!
よろしくお願いします!
感想よろしくお願いします!

元チート大賢者の転生幼女物語
こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。)
とある孤児院で私は暮らしていた。
ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。
そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。
「あれ?私って…」
そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる