僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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十九章

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 その気負いが、とんでもない裏目に出た。千家さんのお父上が、
「ご高名は娘から常々お聴きしています。あずまのわ・・・ゴホンゴホンッ」
 と、僕の心臓を止めかねない単語を途中まで口走ってしまったのである。いやいや千家さん、舌先をちょこんと出して愛想を振りまいても、東の若君をバラしちゃダメですよ! 確かに今僕は年上女性のギャップ萌えに眩暈がしてますけど、可愛く振舞う千家さんは凄まじく可愛いですけど、翔家の秘密をお父上に話しちゃアカンでしょう。ん? だけど僕はそれを、千家さんに言ってないよな。輝夜さんが話すとも思えないし、だとしたら末吉か? あっ、千家さんは精霊猫の双葉と面識があるんだった。精霊猫は東の若君を知っているから、双葉が犯人と考えるのが妥当か。むむう双葉め、後で搾り上げてやるからな! いや待てよ、精霊猫にはどんな攻撃も無意味だったような・・・
 なんて感じに、残念脳味噌なりに一生懸命考えていたのは、不幸中の幸いとして良いと思う。皆の「吾妻野は?」系の誤変換を耳にしても、懸命な考察のお陰で、神職として口上を述べた際の厳格顔を保ち続けられたからだ。お父上が咳払いを早々に切り上げ、猫将軍家一門の話題を強引に推し進めたことも功を奏し、東の若君を有耶無耶にする事ができたのだった。
 その後は、千家さんの髪飾りで盛り上がった。三枝木さんとエイミィが千家さんの睡蓮の髪飾りに「素敵」や「憧れる」を連発していると、
「三枝木はああいうのが好きなのか?」
 加藤さんが、そう問いかけたのである。それは純粋に三枝木さんの好みを知っておきたかっただけで深い意味はなかったと思うけど、3D電話で繋がっている先を意識しまくっている年頃娘には、とてもじゃないがそうは感じられなかったのだろう。三枝木さんは耳まで真っ赤にして俯き、黙り込んでしまった。その想定外の反応に加藤さんは大慌てになるも、咄嗟に助けを求めたのがそっち関係に疎い京馬では、チンプンカンプンな助言をするのが関の山。三枝木さんは将来の大切な話だと思っているのに、このままではチンプンカンプンがコントになり、恋心を抱く二人の仲を引き裂く原因になりかねないと危惧した竹中さんが、加藤さんと京馬にヒントを出した。
「婚約指輪の代わりに渡すのは、ネックレスだけじゃないぞ」
 お調子者コンビは一瞬呆けるも、真相に辿り着くや「「婚約髪飾り!」」と完璧にシンクロしたのは百点満点と言えよう。千家さんは二人に頷き、手元のバックから色違いの二つの髪飾りを取り出した。
「オーダーメイドのネックレスは間に合わなかったけど、私のイメージにピッタリの髪飾りを見つけたから使って欲しいって、仁君がプレゼントしてくれたの」
 部室に感嘆と、娘達の黄色い歓声が溢れた。千家さんが右手に乗せているのは、白と赤紫のグラデーションの睡蓮。左手に乗せているのは、白と青紫のグラデーションの睡蓮。赤系と青系のこの二つだけでも息を呑むほど素晴らしかったのに、千家さんは両手を左耳に近づけ、今付けている純白の睡蓮と三つセットにして見せてくれたのである。そのあまりの美しさに誰もが言葉を尽くして髪飾りを褒め、するとこちらの騒ぎが3D電話のあちら側にも伝わったらしく、千家さんの親族の女性達がわらわら集まって来て髪飾りに大興奮した。女性陣が集結するまではそっぽを向いていた荒海さんも、こうなったら態度を改めるしかない。だが荒海さんに初対面の女性の対応技術などある訳なく、引き攣った笑みで受け答えしているその光景に、冗談抜きで窒息死するかと僕らは思ったものだ。
 そうこうするうち、部室にいられるのは残り数分となった。黛さんが代表しお二人にその旨を伝え、この時ばかりは荒海さんも少し寂しげな表情をしたけど、こればっかりは仕方ない。僕らは改めてお二人にお祝いを述べ、3D電話を切る。そして手早く片づけを済ませて、部室を後にした。
 黛さんの保健室行きは、エイミィと三枝木さんが付き添うに留まった。婚約髪飾りの件で、さすがの加藤さんも食い下がれなかったのである。それでも精密検査の結果が気になり、皆ハイ子を握ったまま帰宅した。それ故、靭帯に怪我は認められなかったとのメールを三枝木さんから受け取ると、「寮の食堂でガッツポーズしちゃったよ!」や「俺なんて電車の中で万歳しちゃったよ!」等の失敗談を面白おかしく綴ったメールが、部員達の間で多数交わされたのだった。
 
 その日の夕方、自室で寛いでいた僕のもとに紫柳子さんのメールが届いた。鳳さんと月二回のメールのやり取りをしているように、紫柳子さんとも月一で近況報告っぽいものをしていたのだ。その文面の一か所が妙に引っかかり、ダメもとで瞑想してみたところ、思いもよらぬ閃きを得るに至った。すぐさま直接話せるかを問うメールを出し、掛かってきた電話に閃きを話した途端、
「眠留君、何卒よろしくお願い致します!」
 等身大3D映像の紫柳子さんに三つ指をつかれてしまった。僕らが話していたのは音声のみ電話だったからもちろんそれは双方向ではなかったけど、紫柳子さんのその姿に弟を真摯に案じる姉の気持ちを見て取った僕は床に正座し、全力を尽くすことを誓った。紫柳子さんは僕の手を取り、ありがとうと何度も何度も言ってくれた。ここでようやく、いつの間に双方向3D電話になったのだろうと首を傾げていると、お姉さんモードの美夜さんが現れ、早く着替えて社務所を尋ねなさいと僕を急き立てた。その一方、美夜さんは紫柳子さんの前に座って自己紹介し、不出来な弟ですが精一杯頑張るはずです等々の話を始めた。すると紫柳子さんも、自分の愚弟に比べたら眠留君はと僕を褒め始め、とんでもないと美夜さんが応え、いえいえそんな、あらまあそうですのと、二人は女性特有の長話モードに突入してしまったのである。着替えなさいと急き立てたのに、なぜか部屋を一向に出て行こうとしない美夜さんの姿に、あるメッセージを受け取った気がした僕は、社務所の更衣室へ赴いた。そして神事を手伝う時の服装に着替え、祖父母を訪ねる。烏帽子を被っていないだけの常装で現れた僕に祖父母はほんの少し驚くも、一秒と経たぬ間に、話を聴く姿勢を整えてくれた。僕は誠意を込めてお辞儀し、切り出した。
「狼嵐本家の長男、狼嵐はがねさんに、猫将軍家に連なる翔人、岬静香さんを紹介する場を、設けていただけないでしょうか」
 そうこれが、ダメもとの瞑想で閃いた、思いもよらぬ事だったのである。
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