僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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十三章

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「では最後の質問です。建物内のカマキリを、五匹と見定めた理由を教えてください」
「二本の鎌を持つカマキリ族は、昆虫族の中では例外的に、四本足で歩きます。またカマキリ族は瞬発力特化型の筋肉を持ち、長距離行軍を大の苦手としています。砦内の厩舎に五台の馬車が置かれていたことから、この砦に詰めているカマキリは五匹だと俺達は予想しました」
 砦の外にいるカマキリ族は、蜘蛛に似た家畜虫の引く一人乗り馬車を常用している。例外は、魔族同士の戦争に敗北し、命からがら逃げているカマキリに限られていた。よって武州高校の根拠は順当と言えるのだけど、僕は何となく思った。きっと北斗なら馬車に頼らず、カマキリの数を見極めたんだろうなあ、と。
「了解しました。以上で質問を終えます。それでは、採点しますね」
 自然と背筋が伸びた。それは僕だけでなく、また湖校チームだけの現象でもなく、この競技場に集まった全選手に共通することのようだった。
「武州高校の評価は、Bマイナス。これはカマキリ族との雨天時の戦闘で火炎放射器を用いた、ほぼ上限の評価と言えます。武州高校の皆さん、おめでとうございます!」
 新忍道の観戦に慣れていない人達にとって、耳に届いたBは、想定外のアルファベットだったのだろう。その人達は当初、「えっ?」という表情を浮かべていた。けど傘を放り投げ浮かれ騒ぐ武州高校の五人と、「すごいぞ~」「やったな~」と称賛の言葉を掛ける新忍道の選手達を見るにつれ、自然と顔をほころばせて行った。よって、
「皆さんへ、礼!」
「「「ありがとうございました!!」」」
 横一列に並び観客席へ頭を下げた武州高校の五人は、足元の芝生を覆う雨水が揺れるほどの拍手と歓声を、その身に受けたのだった。
     
 高校総体における新忍道は予選と本戦の区別なく、戦闘二十五分のインターバル五分を大会の基本としている。よって八番目を割り振られた湖校チームは十一時半に戦闘を開始する予定だったが、「武州高校が五分早く戦闘を終了させたため開始時間を五分繰り上げます」との連絡を大会本部から受けることとなった。仮に僕がレギュラー選手だったら予定繰り上げという措置に多少の緊張を覚えたはずだが、真田さん達はさすがと言うほかない。最前列に座る三巨頭は頷き合い、黛さんがスクッと立ち上がり、体を僕らの方へ向けた。
「湖校の開始時間は五分早まり、十一時二十五分となった。雨天時の戦闘は短縮する傾向が強く、更に早まることが予想される。各自、注意を怠らぬように」
 黛さんは動揺の欠片もなく、クールイケメン全開の常日頃の調子で後輩達に呼び掛けたのである。だから僕らも、三巨頭へ絶対的な信頼を置く常日頃の僕らで「「「はいっ」」」と元気よく応えることができた。一年生の三人は特に感じ入っていたらしく、感動に打ち震える体を必死で制御しようとしていた。それが去年の自分達を見るようで何とも微笑ましかった僕ら二年生トリオは、一年生の松竹梅へ声をかけた。
「この一瞬は、永劫の時の中でたった一度だけ訪れる、一瞬だ」
「つまり、お前らが何を感じたかを伝える今と、未来に訪れるかもしれないその時は、まったく異なるということだ」
「鉄は熱いうちに打てって言うよね。松井と竹と梅本の胸に熱い何かがあるなら、それを感じている今を、逃す手はないと思うよ」
 祖父母の時代ほどではないにせよ、北斗と京馬と僕の今のセリフをクサイセリフとしてあざ笑う風潮は、この時代にもまだ残っている。だがそれは「まだ残っている」と表現すべきものであることを、研究学校生は知っていた。そして松井と竹と梅本は、一年生の六月上旬という時期からも伺えるように、研究学校独自のこの校風に未だ初々しい反応をしてしまうのである。それが去年の自分達を更に思い出させ、胸中ニコニコしっぱなしの僕らへ、松井が代表して応えた。
「先輩方に比べたら俺ら一年生は、ひよっ子とすら呼べないほどの未熟者です。なのに先輩方は、俺らを一人の人間として扱ってくれます。注意を怠らない努力を自発的にできる人間として、接してくれます。それとは真逆だった小学校時代と同じ光景を周囲に見て、俺達がどれほど恵まれているかを感じている最中に、まさにそれを彷彿とさせる指示を黛さんに出され、俺達は感動してしまったのです」
 研究学校生も小学校までは、教師のいる学校生活を送っていた。そこで関わった過半数の教師は、生徒を半人前の人間としてあざけることに、微塵の疑問も感じていなかった。それは肉体年齢を基準にした時のみ大人に分類される人達の特徴なのだが、大勢の生徒はそれに気づけず、よってその教師達の「なにそのクサイセリフ」と斜に構える様子を、大人の態度として捉えてしまっていた。かつその子達は、目下の者へ敬意を払わない事にも疑問を感じていなかった。それを松井達は、この競技場に集まった高校生に見た。埼玉予選の出場校十四校のうち、湖校と越谷研究学校を除く十二校の新忍道部には絶対的な権力を有する顧問がいて、その顧問の命令に従っているだけの高校生を松井達は見た。顧問が三年生へ頭ごなしに命令し、三年生も二年生へ命令し、二年生も一年生を顎で使う様子を、松井達は目の当たりにした。その高校一年生の、更に三つ年下でしかない自分達はしかし、心底尊敬する先輩方から同じ人間として敬意を払われていた。そのことに松井と竹と梅本は、感動を覚えずにはいられなかったのである。そしてそれは、生き写しと言えるほど去年の自分達に似ていたため、
「うむ、わかるぞ!」
「俺らは、同じ湖校生だからな!」
「あははは、なんか嬉しいね!」
 と余裕をかますことで、一年生に負けぬほど感動している自分を、僕らは懸命にごまかしたのだった。

 その後も雨の中、大会は順調に進んでいった。雨と順調という組み合わせは少し変なのかもしれないが、新忍道の特性に「広まり始めたばかりの新スポーツ」という状況が重なると、大会開催日として今日は絶好の天候だったのではないかと僕は思うようになっていた。その理由は、雨の日は砦への潜入が容易くなるからである。
 新忍道はその特性上、モンスターに察知されず砦に侵入しないと成り立たない競技と言える。そしてそれを、雨は容易くしてくれた。地面や建物を叩く雨粒の音に、潜入時の音が紛れてくれるからだ。また両生類系の一部を除き大抵の魔族は雨を嫌がり、信じがたいことに歩哨までもが建物内へ引っ込むのも、潜入を容易くする大きな要因となっていた。魔族本来の性質であるネガティブ性が、悪天候時も警戒と監視を実直に遂行し続けるというポジティブ性に反するせいで、せっかくの砦が意味をなさなくなるのである。この「ネガティブの特徴」を戦闘を介して直接学べることが、十二歳から十八歳という年齢の若者に多大な成長をもたらすのではないかと、僕には思えたのだ。
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