僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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十三章

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 新忍道は創設したばかりという事もあり、卓越した技能を身に付けた競技者がまだ少ない。よって壁越えの最中に騒音を立ててしまう競技者が多く、その先の訓練を充分できないという状態に、大勢の人達が陥っていた。その人達にとって、雨は救い主だった。普段なら察知されてしまう音を立てても隠密状態を維持でき、壁越えに続く各個撃破の訓練をすることができたのである。その上、雨を嫌がるせいで砦を攻略されてしまうモンスターの姿は、悪天候から悪影響を受けない精神力の重要性も競技者に教えてくれた。歩みは遅くとも地道に練習を重ね、技術を実直に積み上げてゆくというポジティブ性こそが、ネガティブな存在であるモンスターを倒す力になるのだと競技者は肌で学ぶことができた。然るに僕は思ったのだ。卓越した技能をまだ修得していない他校の選手にとって、今日は絶好の大会日和だったのではないかな、と。
 傲慢のそしりを恐れず率直に言うと、雨でなければ潜入に失敗したかもしれないチームが、武州高校の後に2チームあった。また潜入後の戦闘も、両チームは火炎放射器でモンスターを倒していた。雨天時は得点的に不利だと武州高校が示してくれたにもかかわらず、最も容易くモンスターを倒せる火炎放射器を、彼らは選ばざるを得なかったのである。公式AIが戦闘後の質問で減点個所を指摘するのは高レベルチームのみという不文律を知らない観客は、2チームともCマイナスという評価を受けたことへ疑問を呈していた。ふと気になり、戦闘終了直後に松井と竹と梅本へ尋ねたところ、
「「「良くてCだと思います」」」
 三人は小声でそう即答した。その三人の眼差しに、「目利きを育てたいなら本物だけを見せ続けよ」という言葉を思い出した僕は、競技場に到着したさい抱いた感覚を、一部訂正しなければならなかった。
 この補助競技場に着きバスを降りたさい、会場全体を覆う暗い影を僕は感じた。あの時は、雨の中でプレーせねばならない新忍道のマイナー振りが影を生んだのだろうと考えたが、今振り返るとそれは理由の半分でしかなかった。雨であっても火炎放射器を選択せざるを得ない技術不足への落胆も、影を生み出した理由に含まれていたのである。
 とここまで考えた時、閃きが突然襲ってきた。それは襲ってきたと表現するにふさわしい、本能を炸裂させる衝撃を伴っていたため、
「ならばっ!」
 僕は思わず閃きを口にし、立ち上がってしまった。いつもならここで羞恥心が沸き起こり、僕は我に返れただろう。湖校の新忍道部員は僕の奇行に慣れているから明るく笑い飛ばし、それを無かった事にしてくれたと思う。だが今回はなぜか、
「眠留、言え!」
「切り込んでみせろや、切り込み隊長!」
 真田さんと荒海さんも間髪入れず立ち上がり、裂ぱくの気合をぶつけて来たのである。よって僕は閃き以外の全てを忘れ去り、お二人へ訴えた。
「ならば僕らがすべきは、火炎放射器を使わない作戦を皆に見てもらう事ではないでしょうか。その作戦を成功させることで、それを皆と共有する事ではないでしょうか。戦闘終了時に公式AIと交わす質疑応答には、採点の明瞭化だけでなく、優れた作戦を戦友達と共有するという理由もあるのではないでしょうか。いえそれこそが、神崎さんと紫柳子さんの目指した、新忍道なのではないでしょうか!」
「全員、傾聴!」
 荒海さんが叫ぶや、
 ザッッ!!
 椅子に座っていた十二人が一斉に立ち上がり真田さんへ体を向けた。「起立」も「誰に」も無かったがこの場面でそれが解らない者など、この部には一人もいないのである。そんな皆へ、真田さんは歴代一の眼光を双眸に込めて命じた。
「ミッションを告げる。我々は、モンスターとの戦闘に勝つ。全員、全力を尽くせ!」
「「「ハイッッ!!」」」
 踵を打ち鳴らし、真田さんへ敬礼した。
 周囲に静寂が下りた。
 その周囲は観客席全体を指していたが、僕らにはそんなのどうでも良かった。
 いや、どうでもいい湖校生が僕らの他にもう一人いた。
 それは美鈴だった。
 美鈴は立ち上がり、両手をメガホンにして叫んだ。
「湖校、ファイトー!」
 一拍置き、
「湖校ガンバレ!」「勝てよ!」「応援してるぞ!」「「「せえの、湖校ファイトー!!」」」
 全観客の四分の一に迫る湖校生達が、大声援をあげてくれた。
 僕ら十五人は荷物を背負い、湖校生の声援に応えつつ観客席を後にし、選手控室へ向かった。
 けどそこに着くより早く、湖校チームの様相は激変していた。
「ほら眠留、あと少しで控室だ」
「あと少しだから、頑張れ眠留!」
「北斗と京馬の言うとおりだぞ眠留・・・プッ」
「ちょっと真田さん笑わないでください・・・ププッ」
「真田も黛も笑うな、眠留の気持ちも考えて・・・ギャハハ!」「もうダメだ!」「「「ギャハハハハッッ!!」」」
 ようやく訪れた羞恥心に顔を大噴火させフラフラになりながら歩く僕を、かばっているのか叩きのめしているのか定かでない状態に湖校チームがすぐなったのは、言うまでもなかったのだった。
      
 ナビに従い訪れた選手控室は、入場行進の待機場所になっていた部屋の、西側半分だった。東側半分との間には3D壁が設けられていて、漏れ聞こえてくる音から察するに、現在戦闘中の熊谷北高校がそこを控室にしているようだった。控室は教室二つ分ほどの縦長の長方形をしており、選手数人が簡単な準備運動をするには充分な広さと高さが確保されていた。フィールドに面した南側はスライド式のドアがすべて開け放たれ、真田さん達三人はそこに並び熊谷北校の戦闘をしばし観戦していたが、「そろそろするか」「そうだな」「そうですね」とのやり取りを経て準備運動を始めた。やり取りも観戦も準備運動も気負ったところが一切なく極々普通になされていたため、白状すると僕は幾度か、ここがインターハイの予選会場であることを忘れた。普段の部活でいつも最後に行っているモンスターとの実戦訓練まで二十分を切ったという感覚に、幾度もなったのである。真田さん達のその胆力に、モジモジ性格のあがり症を未だ引きずる僕は、汲めども尽きぬ敬意を胸に溢れさせていた。そしてとうとう、公式AIによる熊谷北校の採点が終わる。選手控室を、最高レベルの相殺音璧が包んだ。競技場から隔離されたその空間に、
「ただ今より、狭山湖畔研究学校の戦闘を開始します」
 公式AIの言葉が流れたのだった。
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