僕の名前は、猫将軍眠留

初山七月

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四章

両側の二人、1

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 午後五時二十分、集合時間の十分前。
 北斗、猛、真山、二階堂が揃って神社にやって来た。大石段の下で猛が僕に、十分早く来た理由を教えてくれた。
「真山と二階堂は眠留のお祖父さんとお祖母さん、美鈴ちゃんと四匹の猫達に初めてお会いするから、その分の時間を確保しておかないとな」
 その心配りに感謝の言葉を伝えると、猛は一瞬照れたのち神妙な顔になり、僕の家族と猫達について真山と二階堂に話し始めた。真山と二階堂も同じく神妙な顔をして、猛の話をウンウン頷きながら聴いている。北斗が忍び足で近づいて来て、僕にそっと耳打ちした。
「眠留の家族と猫達について真山と二階堂に事前レクチャーをするべきだと、先日猛に毅然と言われてな。もっともだと思ったから、俺の家で一旦集合し、改めて眠留の家に向かう手筈にしたんだ。猛は俺の家で一度目のレクチャーをしているから今やっているのは二度目で、真山と二階堂も二度目のレクチャーを受けているのだが、三人とも一度目と同じ顔になってるのは、きっと皆の人柄なんだろうな」
 感謝を込めて猛へ目をやる。家族と猫達について二度目のレクチャーを終えたのだろう、猛は今、境内は左側通行である事、道の中央は神様が使うからなるべく避ける事、手水舎てみずしゃでの振る舞い等々を二人に話していた。そして猛の指導のもと、三人は正しい参拝手順のおさらいを始めた。
「初詣やなんやかんやで俺らと神社は一生ものの縁で結ばれているから、正しい参拝方法を覚えておいて損はない。特に今日は眠留の神社に詣でる記念すべき第一回目だから、二人ともビシッと決めようぜ!」
 オオ――ッと拳を空へ突き上げる三人に、こちらこそ手を合わせたい、僕だった。

「さあみんな、行こうか」
 僕が先導し、縦一列になって石段を登る。ほんの一時間前とは打って変わり、僕は爽やかな気持ちで脚を上げ下げした。
 石段を登り切り、全員一旦停止。先頭から順に腰を折り、鳥居を一人一人くぐった。
 続く石畳を、足音をあまり立てず左側通行で歩き、社務所に正対する位置で停止。全員で右向け右をし、境内東側に設けられた社務所の中にいる祖父母へ、無言でお辞儀した。祖父母も立ち上がり、無言で礼を返してくれた。
 左向け左で歩みを再開する。そして今度は立ち止まらず境内西側の手水舎に足を向け、僕らは作法に従い、手を洗い口をすすいだ。
 身を清め終わった僕らは石畳へ戻り、拝殿を目指す。僕らの少し後ろから、祖父母も付いてきているようだ。祖父母の意図を察した僕は当初の予定通り、拝殿前に五人で横一列に並ぶ。思ったとおり、祖父母は僕らの少し後ろに並んでいた。
 作法に従い参拝を終える。誰とはなしに全員でタイミングを合わせ回れ右をし、祖父母へもう一度お辞儀。祖父は祖母と並んで礼を返してから、四人の友へ朗らかに言った。
「さあ、皆で拝殿へお越しください」 
「「はい!」」
 僕らは再度、誰が音頭を取った訳でもないのに声を合わせた。すると、あることが起こった。僕を除く男子四人が不思議そうな顔をして、辺りをきょろきょろ窺い始めたのである。どうされましたかなと問う祖父へ、二階堂がおずおず答えた。
「不思議なんですけど、今急に、蝉の鳴き声が聞こえ始めた気がします」
 同意の頷きを二階堂にして、猛がはきはき答える。
「それに暑さも、今初めてやって来た気がします」
 北斗が目を細め、昔を懐かしむような声音で答えた。
「この町に引っ越して来た、小学三年生の春休み。家族と初めてこの神社を訪れた時のことを思い出しました。春の日差しと命芽吹く森に守られているような、そんな気がしました」
 そして最後に真山が、目を閉じたまま、鎮守の森へ語りかけるように言った。
「いらっしゃい、あとは寛いでね。うん、ありがとう。そんな挨拶を、森と交わした気がしました」 
 皆の返答に、喜びと深い感謝の表情を祖父母は浮かべた。
「君達のような小冠者こかじゃに出会えて、儂は嬉しい。だから神様も、きっと嬉しかったのでしょう」
「さあさあ皆さん、拝殿へお入りください。お祖父さん、皆さんをお連れしましょう」
「うむ、そうだな。こころ健やかなる誇り高き若者達よ、いざこちらへ」
 阿吽の呼吸すらなく、四人の小冠者は声を合わせた。
「「はい、喜んで」」
 拝殿へ向かう列の最後尾を歩いていた僕はふと立ち止まり、境内を見渡す。
 そして確信した。
 真山だけは、そんな気がしたのではない。
 真山はまさしくあの挨拶を、森と交わしたんだ。

 拝殿で真山と二階堂は、祖父母と美鈴と四匹の猫達へ、初対面の挨拶を丁寧にしてくれた。四人の友の後ろに座る僕は、挨拶を交わす七人の様子を、満ち足りた気持ちで眺めていた。
 どういう取り決めがあったか知らないが四人の友は、北斗、猛、真山、二階堂の順を神社で守ることにしているようだ。然るに拝殿では順序を入れ替え、初めて拝殿に昇る真山と二階堂を右側に、北斗と猛を左側にして、四人は横一列に並んでいた。すると必然的に真山が最初の挨拶を述べる事になったのだけど、その板についた立ち居振る舞いに僕は首を傾げた。真山は僕と同じ、社家の生まれなのかな、と。
 続く二階堂は、真山の見よう見まねで口上を述べていると一見して判ったが、少しでも礼を尽くそうとする二階堂の心根に、みな好感を抱いたようだった。大吉は特に二階堂を気に入ったのだろう、目を細め口角を持ち上げ、ただでさえ広大な顔を更に横方向へ広げて、福々しいことこの上ない猫神様になっていた。まあ実際、東日本猫社会の筆頭たる大吉は、世が世なら猫神様として崇め奉られるだけの実力を、本当に持っているんだけどね。
 そうそう猫と言えば、真山に挨拶された中吉達が、緊張に身をすくませていたのには驚いた。一般猫の三倍の顔面積を誇る大吉こそいつもと変わらず貫録たっぷりだったが、中吉はどことなく、小吉は少しばかり、そして末吉は明らかに、真山に緊張していたのだ。もっともそれは、毛を逆立て牙をむく威嚇いかく系の緊張ではなかったため失礼には当たらなかったが、安全と知りつつも未知なる上位者へ覚える畏怖のようなものを、三匹の猫達は真山へ感じたと僕には見受けられたのである。う~ん、不思議なこともあるものだなあ。
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