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秋物語
会いたいと、逸る気持ち
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師匠さんとの話が終わった後、水を汲んで社へ戻ってみると、神耶君は寝息をたてて静かに眠っていた。
そしてその日、神耶君が目を覚ます事はなかった。
目が覚めるまで待っていようかとも思ったのだけれど、すっかり暗くなった空を見て、師匠さんに帰るよう言われた私は、仕方なく今日は帰る事にした。
社を出る時、私は師匠さんに神耶君への伝言を頼む。
「明日夕方、学校が終わったら神耶君の様子を見に来るから、早く風邪治してまた一緒に遊ぼうね、約束だよ!って伝えておいてください」
「はい。神耶が目を覚ましたら必ず伝えておきますね」
「あっ! それから……」
「まだ何か?」
「はい!今週末の秋祭りデートの約束も、楽しみにしてるって、そう伝えて下さい。 神耶君、忘れてたら困るから」
「秋祭りデートですね。はい、そちらもちゃんと伝えておきますね。葵葉さん、今日は神耶の為に色々とありがとうございました。女の子の夜の一人歩きは危ないですから、気をつけて帰ってくださいね」
「は~い。ありがとうございました。じゃあ、神耶君の事、宜しくお願いします」
「はい。お任せください」
師匠さんに見送られながら、私は神社を後にする。
◆◆◆
――次の日
「あ~もうこんな時間。早くしないと神耶君に会いに行けなくなっちゃうよ」
昨日、師匠さんに伝言した通り、今日は神耶君に会いに行こうと心に決めている。
けれど、そんな日に限って帰り際、先生に掴まって、頼まれ事をされしてしまった。
すっかり秋も深まり、日が沈む時間が早くなって来たと言うのに、暗くなってしまっては、神社に行かせては貰えない。
「急がなくちゃっ!」
神耶君に会いたい一心で、私は帰り道を急いだ。
いつもなら、一度家に帰って荷物を置いてから神社に向かうところだが、赤く染まりはじめた空の色に急かされて、今日は直接神社に行くことに。
私が神社に辿り着いた頃には空は真っ赤に染まり、私の影を長く長く伸ばしていた。
足下から伸びる長い影を辿って、私は視線をゆっくり上げて行く。すると神社の本堂からは少し離れた位置にそびえ立つ赤い大きな鳥居、その柱に寄りかかり座わっている神耶君の姿を見つけた。
「神耶君? こんな所に出てきて何やってるの?! 風邪酷くなっちゃうよ!」
私は慌てて神耶君の元へと駆け寄る。
「神耶君? ねぇ神耶君ってばぁ! 聞こえてないの?」
姿勢を屈めながら何度となく神耶君へと呼び掛ける私。
けれど、いくら声をかけても俯いたまま、神耶君からは何の反応もない。
彼の顔は、狐の面によって隠されていて、表情から様子を探る事も出来ない。
「もしかして……寝てる?」
そう言えば神耶君は、眠る時はいつもこのお面を被って顔を隠していたっけ。
そんな事に気付いて私は、本当に神耶君が寝ているのか様子を確かめようと、そっと彼の顔に被さるお面へと手を伸ばした。
その時不意に、神耶君の体がグラリと揺れて……
「え? 神耶君?」
私は慌てて彼の体を支える。
そして私以外にももう一人、神耶君の背後からも神耶君を支える人物が現れた。
そしてその日、神耶君が目を覚ます事はなかった。
目が覚めるまで待っていようかとも思ったのだけれど、すっかり暗くなった空を見て、師匠さんに帰るよう言われた私は、仕方なく今日は帰る事にした。
社を出る時、私は師匠さんに神耶君への伝言を頼む。
「明日夕方、学校が終わったら神耶君の様子を見に来るから、早く風邪治してまた一緒に遊ぼうね、約束だよ!って伝えておいてください」
「はい。神耶が目を覚ましたら必ず伝えておきますね」
「あっ! それから……」
「まだ何か?」
「はい!今週末の秋祭りデートの約束も、楽しみにしてるって、そう伝えて下さい。 神耶君、忘れてたら困るから」
「秋祭りデートですね。はい、そちらもちゃんと伝えておきますね。葵葉さん、今日は神耶の為に色々とありがとうございました。女の子の夜の一人歩きは危ないですから、気をつけて帰ってくださいね」
「は~い。ありがとうございました。じゃあ、神耶君の事、宜しくお願いします」
「はい。お任せください」
師匠さんに見送られながら、私は神社を後にする。
◆◆◆
――次の日
「あ~もうこんな時間。早くしないと神耶君に会いに行けなくなっちゃうよ」
昨日、師匠さんに伝言した通り、今日は神耶君に会いに行こうと心に決めている。
けれど、そんな日に限って帰り際、先生に掴まって、頼まれ事をされしてしまった。
すっかり秋も深まり、日が沈む時間が早くなって来たと言うのに、暗くなってしまっては、神社に行かせては貰えない。
「急がなくちゃっ!」
神耶君に会いたい一心で、私は帰り道を急いだ。
いつもなら、一度家に帰って荷物を置いてから神社に向かうところだが、赤く染まりはじめた空の色に急かされて、今日は直接神社に行くことに。
私が神社に辿り着いた頃には空は真っ赤に染まり、私の影を長く長く伸ばしていた。
足下から伸びる長い影を辿って、私は視線をゆっくり上げて行く。すると神社の本堂からは少し離れた位置にそびえ立つ赤い大きな鳥居、その柱に寄りかかり座わっている神耶君の姿を見つけた。
「神耶君? こんな所に出てきて何やってるの?! 風邪酷くなっちゃうよ!」
私は慌てて神耶君の元へと駆け寄る。
「神耶君? ねぇ神耶君ってばぁ! 聞こえてないの?」
姿勢を屈めながら何度となく神耶君へと呼び掛ける私。
けれど、いくら声をかけても俯いたまま、神耶君からは何の反応もない。
彼の顔は、狐の面によって隠されていて、表情から様子を探る事も出来ない。
「もしかして……寝てる?」
そう言えば神耶君は、眠る時はいつもこのお面を被って顔を隠していたっけ。
そんな事に気付いて私は、本当に神耶君が寝ているのか様子を確かめようと、そっと彼の顔に被さるお面へと手を伸ばした。
その時不意に、神耶君の体がグラリと揺れて……
「え? 神耶君?」
私は慌てて彼の体を支える。
そして私以外にももう一人、神耶君の背後からも神耶君を支える人物が現れた。
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