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秋物語
初めてのキス
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「師匠さんっ!」
「こんにちは、葵葉さん」
「こ、こんにちはっ! あ、あの……師匠さん、神耶君、元気になったんですか? 外に出ても大丈夫なくらい元気になったんですか?」
突然の師匠さんの登場に驚きながらも、私は神耶君の様子を師匠さんへと訪ねた。
「いいえ、まだ治りかけですよ」
「じゃあどうしてこんな所で寝て?」
「きっと貴方を待っていたのでしょうね。今日は夕方、葵葉さんが来てくださると、神耶に伝えてありましたから。だから待ちきれなくなって、ここで待っていたのでしょう。私の目を盗んで、全くこの子は」
「……え? 神耶君が?」
私を待っていてくれた?
嬉しさについつい心が躍る。
私のときめきに気付いているのか、私に向かってニッコリ微笑んだ師匠さんは、ゆっくりと神耶君の体を起すと再び鳥居の柱へともたれ掛けさせる。
そうして一度神耶君の態勢を整えた後で、社へ彼を運ぼうと彼の体を抱え上げようとした。
すると、その時――
「あっ……」
いつの間に掴んでいたのか、彼が持ち上げられたと同時に、私の制服の袖が神耶君によって強く引っ張られた。
「おやおや」
師匠さんは苦笑いを浮かべながら、神耶君を持ち上げる事を止め、地面へ下ろす。
と、三度鳥居の柱へと彼の体をもたれ掛けさせた。
「ふう。全くこの子は、本当に手のかかる。仕方ないですね。何かかけるものを持って来ます。その間葵葉さん、少し神耶の事見ていていただいても宜しいですか?」
「あ、はい。わかりました」
「ありがとうございます」
師匠さんは、私に小さくお辞儀してニッコリ微笑むと、私達を残し社へ向けて歩いて行った。
遠ざかっていく師匠さんの背中を見送りながら、私は神耶君の隣に腰掛け、大人しく師匠さんが戻ってくるのを待つ事に。
腰を下ろした事で神耶君と視線の高さが揃う。
「……」
神耶君の姿を瞳に写し、暫くの間じっと見つめる。
けれど、お面に隠されて神耶君の顔が見られない。
こんなにもすぐ近くにいられるのに、顔がみられないなんて。
なんだが物足りなくて、このお面に隠された彼の寝顔が見てみたい。そんな好奇心から、神耶君の顔に被せられた狐の面を取りたい衝動にかられる。
その衝動に逆らうべきか、従うべきか、暫くの間葛藤してみた結果、私は衝動に従う事を選んだ。
「……失礼……しま~す」
躊躇い気味にゆっくりと神耶君の顔から狐のお面をお外す。
お面の下から表れたのは、スヤスヤと気持ち良さそうに眠る神耶君の整った綺麗な顔。
昨日ぶりに見る彼の顔を、私は微笑ましい気持ちで見つめた。
いや、木々の隙間から差し込む夕日に照らされた神耶君の寝顔が、男の人ながらとても綺麗で、見惚れていたと言った方が正しいのかもしれない。
無意識に、私の手が神耶君の頬へと伸びる。
その綺麗な寝顔に、まるで吸い込まれるように、私は神耶君の元へと顔を近付けていた。
――『伝えても良いんだ、私の気持ちを……神耶君に、伝えても良いんだ』
昨日、師匠さんから聞かされた#可能性__・__の話に、私の心に芽生えた希望。
その希望が、私を一瞬可笑しくさせたのか、気付けば私は、神耶君の唇に自分の唇を重ねていた。
「こんにちは、葵葉さん」
「こ、こんにちはっ! あ、あの……師匠さん、神耶君、元気になったんですか? 外に出ても大丈夫なくらい元気になったんですか?」
突然の師匠さんの登場に驚きながらも、私は神耶君の様子を師匠さんへと訪ねた。
「いいえ、まだ治りかけですよ」
「じゃあどうしてこんな所で寝て?」
「きっと貴方を待っていたのでしょうね。今日は夕方、葵葉さんが来てくださると、神耶に伝えてありましたから。だから待ちきれなくなって、ここで待っていたのでしょう。私の目を盗んで、全くこの子は」
「……え? 神耶君が?」
私を待っていてくれた?
嬉しさについつい心が躍る。
私のときめきに気付いているのか、私に向かってニッコリ微笑んだ師匠さんは、ゆっくりと神耶君の体を起すと再び鳥居の柱へともたれ掛けさせる。
そうして一度神耶君の態勢を整えた後で、社へ彼を運ぼうと彼の体を抱え上げようとした。
すると、その時――
「あっ……」
いつの間に掴んでいたのか、彼が持ち上げられたと同時に、私の制服の袖が神耶君によって強く引っ張られた。
「おやおや」
師匠さんは苦笑いを浮かべながら、神耶君を持ち上げる事を止め、地面へ下ろす。
と、三度鳥居の柱へと彼の体をもたれ掛けさせた。
「ふう。全くこの子は、本当に手のかかる。仕方ないですね。何かかけるものを持って来ます。その間葵葉さん、少し神耶の事見ていていただいても宜しいですか?」
「あ、はい。わかりました」
「ありがとうございます」
師匠さんは、私に小さくお辞儀してニッコリ微笑むと、私達を残し社へ向けて歩いて行った。
遠ざかっていく師匠さんの背中を見送りながら、私は神耶君の隣に腰掛け、大人しく師匠さんが戻ってくるのを待つ事に。
腰を下ろした事で神耶君と視線の高さが揃う。
「……」
神耶君の姿を瞳に写し、暫くの間じっと見つめる。
けれど、お面に隠されて神耶君の顔が見られない。
こんなにもすぐ近くにいられるのに、顔がみられないなんて。
なんだが物足りなくて、このお面に隠された彼の寝顔が見てみたい。そんな好奇心から、神耶君の顔に被せられた狐の面を取りたい衝動にかられる。
その衝動に逆らうべきか、従うべきか、暫くの間葛藤してみた結果、私は衝動に従う事を選んだ。
「……失礼……しま~す」
躊躇い気味にゆっくりと神耶君の顔から狐のお面をお外す。
お面の下から表れたのは、スヤスヤと気持ち良さそうに眠る神耶君の整った綺麗な顔。
昨日ぶりに見る彼の顔を、私は微笑ましい気持ちで見つめた。
いや、木々の隙間から差し込む夕日に照らされた神耶君の寝顔が、男の人ながらとても綺麗で、見惚れていたと言った方が正しいのかもしれない。
無意識に、私の手が神耶君の頬へと伸びる。
その綺麗な寝顔に、まるで吸い込まれるように、私は神耶君の元へと顔を近付けていた。
――『伝えても良いんだ、私の気持ちを……神耶君に、伝えても良いんだ』
昨日、師匠さんから聞かされた#可能性__・__の話に、私の心に芽生えた希望。
その希望が、私を一瞬可笑しくさせたのか、気付けば私は、神耶君の唇に自分の唇を重ねていた。
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