願いが叶うなら

汐野悠翔

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秋物語

可能性②

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「あ、あのっ!それは、どう言う事ですか?」


思いもしなかった展開に、私の胸は高鳴った。
はやる気持ちが押さえられなくて早口になりながら私は師匠さんに訪ねた。



「これはあくまで可能性の話です。詳しくはまだお話できないのですが……ここを留守にしていた間、私はその可能性の実現の為に天界を走り周って来ました」


「それで暫く留守にすると? でも、どうして急にそんな……」


「急に……でもないのですよ。前々から考えてはいた事なんです。まぁ、きっかけになったのは葵葉さんの神耶への想いを確認したあの日ですかね。私は、貴方の想いにかけてみたくなったんです」


「私の想いに?」



そう語る師匠さんの姿が、なぜか私にはどこか切なげに映って見えた。



「神耶は……愛情と言うものを知らない子なんですよ。人なら多くの者が受ける親の愛情ですら知らない。あの子は誰からも愛されず、世の中から疎まれて生きて来ました。そして、誰からも必要とされない、疎まれたままあの子は人としての生を閉じました。でもあの子は……どんなに疎まれようと、嫌われようと、人が大好きなんですよね」


「…………」


「人から頼られたい。人の役に立ちたい。あの子は人から愛される事に必死なんです。だからこそ神になる道を選んだ。神となり、人を助け、守る道を。でも……神になったからと言って、私達に出来る事は限られています。私達の力は決して万能ではない。必ずしも人の願いを叶えられるわけではないのです。それは仕方の無いことであり、当然のことでもある。でも高い理想を持って神となる事を選んだあの子にとってそれは、辛く悲しい事だった。神と言う存在の無力さに、あの子は何度歯痒い思いをしてきた事でしょう」



神耶君が一人悩み、苦しんで来た日々を想像すると、私も胸が苦しくなって、知らぬ間に涙が頬を伝っていた。



「あの子は、いつだって人の役に立ちたいと一生懸命でした。それは側で見て来た私が一番良く知っています。けれどあの子の想いはいつも人には届かなかった。人はいつしか神と言う存在を信じないようになって行った。それどころか……神耶の存在を……この八幡神社の存在を忘れて行きました。あの子は、神になった現在いまでも、人の愛情に餓えているんです」


「私はっ……神耶君の事を忘れたりなんかしません! 私は私を助けてくれた神耶君に感謝してるし、神耶君が凄く優しい人だって事も知ってます。そんな神耶君だからこそ、私は神耶君が大好きなんです!!」


「ありがとうございます、葵葉さん。あんな意地っ張りで、素直じゃない神耶の事を理解してくれて……好きになってくれて、本当にありがとう」 



そう言いながら師匠さんが私の頭を優しい手つきで撫でた。
見上げた師匠さんの顔が、先ほどの切なげなげな表情から、いつもの穏やかな表情に変わっていた。



「だから私は、神耶にまっすぐに向けられる貴方の愛情にかけてみたいと、そう思ったんですよ。私はあの子を孤独から解放してあげたい。ずっとそれを望んで来ました。だから、神耶を好きになってくれた葵葉さんに、人の愛情の温かさを教えてあげて欲しい。神耶を幸せにしてあげて欲しいのですよ。その為だったら私は……どんな協力も惜しみません。どうか……」



師匠の言葉を途中で遮り、私は口を開いた。



「私、今凄く幸せなんです。神耶君と一緒にいる時間が楽しくて、今でも十分過ぎる程幸せなのに、でも心のどこかでそれ以上を望んでしまう自分がいるんです。欲を出したら、今のこの幸せが壊れてしまうかもしれない。だからこれ以上の幸せは望んではいけないと、ずっと自分に言い聞かせてるのに……神耶君への想いが膨めば膨らむ程、私の中の醜い欲望が隠し切れなくて……そんな欲張りな自分が本当に大嫌い」


「……葵葉さん」


「でも……大嫌いだけど…………願わずにはいられない。もし……もし叶うのならば………この先の私の未来も神耶君とずっと共にあって欲しいと。そして、もしも許されるのならば……いつか私のその気持ちを、神耶君に伝えたいと。私はそう願ってしまうんです」


「……ありがとうございます、葵葉さん。全力でその願いを、叶えるお手伝いをさせていただきます」



そう言って師匠さんが、ニッコリと嬉しそうに微笑んだ。
だから私も、嬉しくなって微笑み返した。


良いんだ、伝えも。
神耶君に私の気持ちを
伝えても良いんだ――
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