19 / 27
15
しおりを挟む
礼を取ったセスティーナは頭を上げるといつものようにニコリとほほ笑んだ。
「それ、わたくしのことが書かれている資料でしょう?」
彼女が指を指したのは、先ほどまでレイモンドが手に持っていた資料だった。
アルバードは驚いた表情でセスティーナを見つめ、レイモンドは諦めたように頬杖をついた。
先ほど自らを国宝と告げ、そして渡されている資料を言及しようとしているセスティーナに、レイモンドは待ったをかける。
「セスティーナ、これは国家機密であり、皇太子にしか受け継がない内容だよ」
「ええ、ですがアルバード様は血縁関係となりますから」
「私はお前の夫になるなど一言も言っていないだろう!」
セスティーナはニコニコとほほ笑みながらレイモンドを見ると、そういえば、と違う話を始めた。
全く話を聞かないセスティーナにレイモンドとアルバートは呆気にとられながら、しかし、彼女の話に耳を傾ける。
「そういえば、防御膜?でしたか。あれを付け替えるようお父様と話し合いましたの。だってそろそろこの国も外部とのやり取りを行う必要がありますでしょう?国の中だけでは人がただ増え続けるだけだし、文化もそろそろ発展が進まなくなっているし。すべての地域が国の名産と成りえる状態になった今が最適!そう思いませんか?」
「セスティーナ、私もまだ資料を全て目を通した訳ではないんだ。順を追って説明してくれないか」
「あらあら、うふふ。ではここは国宝、いいえ、魔法使いらしく、魔法で解説いたしますわ!」
パチン!
セスティーナが指を鳴らすと一瞬にして周りの景色が変化した。
先ほどまで執務室の中にいたはずが、どこか街の中にいるようだ。
「な、これは……」
「安心してくださいませ、場所は移動しておりません。貴方方の視界を、少々切り替えさせていただきました」
セスティーナが述べた通り、街を歩く人々は急に現れた3人の事を全く気にするそぶりはない。
ふと、レイモンドはある事に気がついた。
まるで本物の火が止まったような電灯が、街に点在している。
何より驚いたことは動く鉄の塊が動いていることだった。
「……」
「外では化学という学問が発展して、どんどんと国が発展しております。これはほんの一部に過ぎませんわ。まだこれらは全て高価な物として一般には普及していませんが、きっと……」
「なるほどな……他国との文化の差が大きくなる前に、門を開けるべきと言うことか」
「ええ、陛下にお伝えした際に、レイモンド様がこの催しを開催したタイミングがよいだろうと言われましたわ」
レイモンドは微笑むセスティーナに目を向けた。目が合った彼女はここ数か月間の中で最も美しい表情をしているように見える。
今まで外との関わりを断つ事で国を安定させていたが、このままでは防御膜では塞ぎきれない何かが開発される可能性だってあるだろう。
確かに外との交流を持つには良いタイミングかもしれない。
しかし……
「セスティーナ……」
「はい?」
「先ほど、魔法使いと言っていたかな。まぁ、今の状況も魔法以外何と説明して良いか分からないけど」
「ええ!魔法使いの説明はその、資料を読んでくださいませ」
レイモンドが視線を下げると、周りの景色は消えて部屋へと戻って来ていた。
現実を突きつけるように多量の資料が目に入り、無意識にため息が漏れる。
「これを読んでいたらこの後のパーティに参加できないな……」
「それはいけませんわ!メレディ様とちゃんと交流していただきませんと!」
「あ、ああ……まぁ」
「は!!今兄上に近寄る不届きものの名前が!」
少し目を泳がせたレイモンドを確認したアルバードは、しかし、左腕をセスティーナにガッチリと掴まれている事に気がつく。
「な、何を」
「アルバード様、さぁ、わたくしと交流しましょう!先ほどの国の事、気になってますでしょう?」
先ほどの光景を目を輝かせて見回していた事を見られていたのだろう。
セスティーナは、ここぞとばかりに「もっと見ますか?」と言ってくる。
「う、うう……」
断りきれない状況につけ込まれたアルバードは、気がつけばセスティーナとレイモンドの話し合いを数時間ほど待っていたのだった。
「それ、わたくしのことが書かれている資料でしょう?」
彼女が指を指したのは、先ほどまでレイモンドが手に持っていた資料だった。
アルバードは驚いた表情でセスティーナを見つめ、レイモンドは諦めたように頬杖をついた。
先ほど自らを国宝と告げ、そして渡されている資料を言及しようとしているセスティーナに、レイモンドは待ったをかける。
「セスティーナ、これは国家機密であり、皇太子にしか受け継がない内容だよ」
「ええ、ですがアルバード様は血縁関係となりますから」
「私はお前の夫になるなど一言も言っていないだろう!」
セスティーナはニコニコとほほ笑みながらレイモンドを見ると、そういえば、と違う話を始めた。
全く話を聞かないセスティーナにレイモンドとアルバートは呆気にとられながら、しかし、彼女の話に耳を傾ける。
「そういえば、防御膜?でしたか。あれを付け替えるようお父様と話し合いましたの。だってそろそろこの国も外部とのやり取りを行う必要がありますでしょう?国の中だけでは人がただ増え続けるだけだし、文化もそろそろ発展が進まなくなっているし。すべての地域が国の名産と成りえる状態になった今が最適!そう思いませんか?」
「セスティーナ、私もまだ資料を全て目を通した訳ではないんだ。順を追って説明してくれないか」
「あらあら、うふふ。ではここは国宝、いいえ、魔法使いらしく、魔法で解説いたしますわ!」
パチン!
セスティーナが指を鳴らすと一瞬にして周りの景色が変化した。
先ほどまで執務室の中にいたはずが、どこか街の中にいるようだ。
「な、これは……」
「安心してくださいませ、場所は移動しておりません。貴方方の視界を、少々切り替えさせていただきました」
セスティーナが述べた通り、街を歩く人々は急に現れた3人の事を全く気にするそぶりはない。
ふと、レイモンドはある事に気がついた。
まるで本物の火が止まったような電灯が、街に点在している。
何より驚いたことは動く鉄の塊が動いていることだった。
「……」
「外では化学という学問が発展して、どんどんと国が発展しております。これはほんの一部に過ぎませんわ。まだこれらは全て高価な物として一般には普及していませんが、きっと……」
「なるほどな……他国との文化の差が大きくなる前に、門を開けるべきと言うことか」
「ええ、陛下にお伝えした際に、レイモンド様がこの催しを開催したタイミングがよいだろうと言われましたわ」
レイモンドは微笑むセスティーナに目を向けた。目が合った彼女はここ数か月間の中で最も美しい表情をしているように見える。
今まで外との関わりを断つ事で国を安定させていたが、このままでは防御膜では塞ぎきれない何かが開発される可能性だってあるだろう。
確かに外との交流を持つには良いタイミングかもしれない。
しかし……
「セスティーナ……」
「はい?」
「先ほど、魔法使いと言っていたかな。まぁ、今の状況も魔法以外何と説明して良いか分からないけど」
「ええ!魔法使いの説明はその、資料を読んでくださいませ」
レイモンドが視線を下げると、周りの景色は消えて部屋へと戻って来ていた。
現実を突きつけるように多量の資料が目に入り、無意識にため息が漏れる。
「これを読んでいたらこの後のパーティに参加できないな……」
「それはいけませんわ!メレディ様とちゃんと交流していただきませんと!」
「あ、ああ……まぁ」
「は!!今兄上に近寄る不届きものの名前が!」
少し目を泳がせたレイモンドを確認したアルバードは、しかし、左腕をセスティーナにガッチリと掴まれている事に気がつく。
「な、何を」
「アルバード様、さぁ、わたくしと交流しましょう!先ほどの国の事、気になってますでしょう?」
先ほどの光景を目を輝かせて見回していた事を見られていたのだろう。
セスティーナは、ここぞとばかりに「もっと見ますか?」と言ってくる。
「う、うう……」
断りきれない状況につけ込まれたアルバードは、気がつけばセスティーナとレイモンドの話し合いを数時間ほど待っていたのだった。
22
お気に入りに追加
131
あなたにおすすめの小説
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
私が死んだあとの世界で
もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。
初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。
だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
婚約破棄されたショックですっ転び記憶喪失になったので、第二の人生を歩みたいと思います
ととせ
恋愛
「本日この時をもってアリシア・レンホルムとの婚約を解消する」
公爵令嬢アリシアは反論する気力もなくその場を立ち去ろうとするが…見事にすっ転び、記憶喪失になってしまう。
本当に思い出せないのよね。貴方たち、誰ですか? 元婚約者の王子? 私、婚約してたんですか?
義理の妹に取られた? 別にいいです。知ったこっちゃないので。
不遇な立場も過去も忘れてしまったので、心機一転新しい人生を歩みます!
この作品は小説家になろうでも掲載しています
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
【完結】無能に何か用ですか?
凛 伊緒
恋愛
「お前との婚約を破棄するッ!我が国の未来に、無能な王妃は不要だ!」
とある日のパーティーにて……
セイラン王国王太子ヴィアルス・ディア・セイランは、婚約者のレイシア・ユシェナート侯爵令嬢に向かってそう言い放った。
隣にはレイシアの妹ミフェラが、哀れみの目を向けている。
だがレイシアはヴィアルスには見えない角度にて笑みを浮かべていた。
ヴィアルスとミフェラの行動は、全てレイシアの思惑通りの行動に過ぎなかったのだ……
主人公レイシアが、自身を貶めてきた人々にざまぁする物語──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる