上 下
20 / 27

16

しおりを挟む
メレディは緊張で吐きそうであった。
もしくは心臓が口から飛び出す可能性を感じて口に手を当てていた。

何故これほど緊張しているかと言えば、今朝セスティーナが訪ねて来たところから始まったのだ。



「急にごめんなさい、メレディ様にお願いがあって来ましたの」
「……セスティーナ様、今何時かご存知ですか」

メレディは少しぼさぼさとした髪を手で撫でつけながら文句を伝えた。
当たり前だ、彼女はセスティーナを出迎える準備をほとんどさせてもらえなかったのだから。

「そうですわね、朝の7時ごろでしょうか?」
「そして、お願いが何回目かお分かりですか?」
「ええっと……さ、4……?回目でしょうか?」
「6回です!この2か月の間にです!私を召使か何かだと思っていらっしゃるの!全く」

撫でつけても戻ってくる飛び跳ねた髪をあきらめ、両手を腰に合ててセスティーナを怒る姿は、まるで威嚇している子猫のようだとメイドのマイは思っていた。
最近かなりセスティーナからお願いを受けているが、彼女のことをとても気に入ってしまったメレディがいくら怒ったところで、ただ可愛いだけなのである。そして、セスティーナもそれを良く理解していた。

「まさか!いつもメレディ様にしか頼めない特別なお仕事だから、ごめんなさい。あまりにも頼もしくてつい……」
「ま、まぁ!別に?頼まれて嫌な気持ちにはなりませんもの!それで?今回はどんな要件でいらしたの?」
「ありがとうございます!では今日の午後にこの場所で皇太子殿下と2人でお茶をしてくださいませ」
「なんだ、ただのお茶……って、はあ!?何を言ってらっしゃるの!」

メレディがセスティーナの方を見たときには、すでにセスティーナの体のほとんどが部屋から出ている状態であった。
セスティーナはニコリと微笑むと、片手をふわふわと振りながら遠ざかっていく。

「では、よろしくお願いいたしますわ!またごきげんよう~」
「ちょ、お待ちに……」

無言で扉を開けていたマイが、固まった主人の体を優しく押し、椅子に座らせた。
心が落ち着くフレーバーティーを用意し、待っているとメレディが目を覚ます。

「え?え?え?あの人は一体何を言っていたの?今日?皇太子殿下と?お茶?は?今日、今日?!」
「メレディ様、落ち着いてください。もう準備を始めないといけません」

髪の毛をかき乱していた主人の手を押さえつけ、マイはフレーバーティーを主人の口に流し込むと、パチンと指を鳴らして他のメイドたちを招集した。
静かに集合した彼女たちにスパスパと支持を出した彼女は、いつも通りメレディを嗜めながら準備を始めたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

前世で医学生だった私が、転生したら殺される直前でした。絶対に生きてみんなで幸せになります

mica
ファンタジー
ローヌ王国で、シャーロットは、幼馴染のアーサーと婚約間近で幸せな日々を送っていた。婚約式を行うために王都に向かう途中で、土砂崩れにあって、頭を強くぶつけてしまう。その時に、なんと、自分が転生しており、前世では、日本で医学生をしていたことを思い出す。そして、土砂崩れは、実は、事故ではなく、一家を皆殺しにしようとした叔父が仕組んだことであった。 殺されそうになるシャーロットは弟と河に飛び込む… 前世では、私は島の出身で泳ぎだって得意だった。絶対に生きて弟を守る! 弟ともに平民に身をやつし過ごすシャーロットは、前世の知識を使って周囲 から信頼を得ていく。一方、アーサーは、亡くなったシャーロットが忘れられないまま騎士として過ごして行く。 そんな二人が、ある日出会い…. 小説家になろう様にも投稿しております。アルファポリス様先行です。

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【完結】私の結婚支度金で借金を支払うそうですけど…?

まりぃべる
ファンタジー
私の両親は典型的貴族。見栄っ張り。 うちは伯爵領を賜っているけれど、借金がたまりにたまって…。その日暮らしていけるのが不思議な位。 私、マーガレットは、今年16歳。 この度、結婚の申し込みが舞い込みました。 私の結婚支度金でたまった借金を返すってウキウキしながら言うけれど…。 支度、はしなくてよろしいのでしょうか。 ☆世界観は、小説の中での世界観となっています。現実とは違う所もありますので、よろしくお願いします。

【完結】『サヨナラ』そう呟き、崖から身を投げようとする私の手を誰かに引かれました。

仰木 あん
ファンタジー
継母に苛められ、義理の妹には全てを取り上げられる。 実の父にも蔑まれ、生きる希望を失ったアメリアは、家を抜け出し、海へと向かう。 たどり着いた崖から身を投げようとするアメリアは、見知らぬ人物に手を引かれ、一命を取り留める。 そんなところから、彼女の運命は好転をし始める。 そんなお話。 フィクションです。 名前、団体、関係ありません。 設定はゆるいと思われます。 ハッピーなエンドに向かっております。 12、13、14、15話は【胸糞展開】になっておりますのでご注意下さい。 登場人物 アメリア=フュルスト;主人公…二十一歳 キース=エネロワ;公爵…二十四歳 マリア=エネロワ;キースの娘…五歳 オリビエ=フュルスト;アメリアの実父 ソフィア;アメリアの義理の妹二十歳 エリザベス;アメリアの継母 ステルベン=ギネリン;王国の王

処理中です...