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とある人物の昔話
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歳が14だったある日の事。
父上に会いに部屋を訪ねると客人が来ているから今はダメだと断られた。
いつも通り近くの部屋で待っていると廊下がざわざわと騒がしい。
つい好奇心に駆られ扉を薄く開けると、信じられないほど美しい少女が父上と会話をしながら出口へ向かっているところだった。
すぐに閉めるべきと分かりつつもその美しさに目を奪われ、見えなくなるまでその姿を瞳に焼き付ける。
侍女たちが彼女について話していた為にいつもより騒がしかったのだろう。
誰でも一目惚れするであろう彼女に、自らも心臓が高鳴ったようだった。
「父上、先ほどの令嬢はどなたですか」
別の用事で訪れていたが先に尋ねたのは例の彼女の事であった。
息子のキラキラとした瞳を呆れた表情で見下ろす男はこの国の頂点に立つ人物だ。
「……ああ」
「是非彼女と婚約をさせてください!」
「そう言うと思ったから会わせなかったのだ。全く油断も隙もないな」
「どういう事ですか」
「あの者との婚約はできない」
「なぜですか!」
悩む時間を一切持たず、父上はあっさりと提案を却下する。
まるでそれが世界の摂理とでも言うようだった。
理由を聞いても答えてはもらえず、その後彼女の姿を見る事なくあっという間に月日は5年も流れていた。
「最近ようやく皇太子としての意識を持つようになったな」
突然執務室へ入ってきた父上は、慌てる侍女たちにお茶を淹れるよう指示を出し、ソファへドカリと腰を下ろした。
驚きで止まっていた手からペンが落ちた音で我に帰る。
「何故こちらに?」
「ようやく婚約者が決まっただろう。我が国では婚約者が決まる時に正式に皇太子として認めるのだ」
「……は?」
初めて聞いた内容と父上の手元にある多量の紙の束に驚き、反論しようとした口は開けたまま固まった。
父上は腰を下ろしたまま、紙束をソファの前に置かれた長机にばさりと置き、うっとうしそうな仕草で整えられた前髪をくしゃりと掴むと、父上はため息までつく。
「はぁ、疲れたな」
「父上……ちゃんとしてください」
「いいじゃないか、お前と私しかおらん」
確かに茶を取りに出た侍女たちは席を外しているし、いつも父上の隣を金魚のフンのように引っ付きまわっている宰相も今は何故か居ないようだ。
多少の疲れている姿は見たことがあったが、ここまでダルそうにくつろいでいる姿は見たことがない。
果たしてわざとなのか、これが本来の姿なのかは分からないが、色々な情報に驚きが隠せずに何から確認した方が良いか分からないまま落としたペンを拾おうと席を立つ。
「具体的に、【正式に皇太子になる】ということの意味を話すぞ」
ふと視線を上げると、ソファの隣をポンポンと叩く父上の姿があった。
その顔は、ようやく隠していた秘密を話せることが嬉しそうににやにやと頬が緩んでいる。
「……」
「なんだ」
「父上は、そんな感じでしたっけ」
「責任をお前と二分できてとてもうれしいからな」
「それは全く聞きたくなかったです」
こうして皇太子となった私は、あの少女の秘密を……いや、この国の秘密を知ったのであった。
父上に会いに部屋を訪ねると客人が来ているから今はダメだと断られた。
いつも通り近くの部屋で待っていると廊下がざわざわと騒がしい。
つい好奇心に駆られ扉を薄く開けると、信じられないほど美しい少女が父上と会話をしながら出口へ向かっているところだった。
すぐに閉めるべきと分かりつつもその美しさに目を奪われ、見えなくなるまでその姿を瞳に焼き付ける。
侍女たちが彼女について話していた為にいつもより騒がしかったのだろう。
誰でも一目惚れするであろう彼女に、自らも心臓が高鳴ったようだった。
「父上、先ほどの令嬢はどなたですか」
別の用事で訪れていたが先に尋ねたのは例の彼女の事であった。
息子のキラキラとした瞳を呆れた表情で見下ろす男はこの国の頂点に立つ人物だ。
「……ああ」
「是非彼女と婚約をさせてください!」
「そう言うと思ったから会わせなかったのだ。全く油断も隙もないな」
「どういう事ですか」
「あの者との婚約はできない」
「なぜですか!」
悩む時間を一切持たず、父上はあっさりと提案を却下する。
まるでそれが世界の摂理とでも言うようだった。
理由を聞いても答えてはもらえず、その後彼女の姿を見る事なくあっという間に月日は5年も流れていた。
「最近ようやく皇太子としての意識を持つようになったな」
突然執務室へ入ってきた父上は、慌てる侍女たちにお茶を淹れるよう指示を出し、ソファへドカリと腰を下ろした。
驚きで止まっていた手からペンが落ちた音で我に帰る。
「何故こちらに?」
「ようやく婚約者が決まっただろう。我が国では婚約者が決まる時に正式に皇太子として認めるのだ」
「……は?」
初めて聞いた内容と父上の手元にある多量の紙の束に驚き、反論しようとした口は開けたまま固まった。
父上は腰を下ろしたまま、紙束をソファの前に置かれた長机にばさりと置き、うっとうしそうな仕草で整えられた前髪をくしゃりと掴むと、父上はため息までつく。
「はぁ、疲れたな」
「父上……ちゃんとしてください」
「いいじゃないか、お前と私しかおらん」
確かに茶を取りに出た侍女たちは席を外しているし、いつも父上の隣を金魚のフンのように引っ付きまわっている宰相も今は何故か居ないようだ。
多少の疲れている姿は見たことがあったが、ここまでダルそうにくつろいでいる姿は見たことがない。
果たしてわざとなのか、これが本来の姿なのかは分からないが、色々な情報に驚きが隠せずに何から確認した方が良いか分からないまま落としたペンを拾おうと席を立つ。
「具体的に、【正式に皇太子になる】ということの意味を話すぞ」
ふと視線を上げると、ソファの隣をポンポンと叩く父上の姿があった。
その顔は、ようやく隠していた秘密を話せることが嬉しそうににやにやと頬が緩んでいる。
「……」
「なんだ」
「父上は、そんな感じでしたっけ」
「責任をお前と二分できてとてもうれしいからな」
「それは全く聞きたくなかったです」
こうして皇太子となった私は、あの少女の秘密を……いや、この国の秘密を知ったのであった。
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