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共に過ごす夜への一歩
しおりを挟むレイシールド様が黎明宮にお帰りになると、いつものように「下がっていい、ティディス」と、私のお仕事を終わらせてくれようとした。
最近わかったことだけれど、それは別に私が嫌いとかではなくて、一人でレイシールド様のお世話をしている私が大変だろうからと気遣ってくれているみたいだ。
「あ、あの、レイシールド様……」
私はいつもならお言葉に甘えてあっさり引き下がるところだったけれど、今日はそれをしなかった。
だって、シュミット様のお話を聞いた後なのだ。
レイシールド様にはよくしていただいている。過去の苦しさは私にはどうすることもできないけれど、眠れないということなら私にもお手伝いできることがあると思う。
リュコスちゃんは何故か、『父上じゃ、父上じゃ』と言いながら、レイシールド様の周りをぐるぐる回っている。
ペロネちゃんはリュコスちゃんの上に乗っかって、一緒にぐるぐる回って楽しそうにしている。
私の腕の中で、シュゼットちゃんが眠そうに半分目を閉じていた。
「……ティディス。シュミットから話を聞いたのか」
「聞きました。レイシールド様に隠しごとはできませんよね……」
「いや。……俺も常に人の心を読むようなことは、しない。ある程度、力を制御することはできている」
「そ、そうなのですか……!?」
「あぁ。……数度、お前の心を見たのは、すまなかった。お前が何を考えているのか、知りたかった」
「そんなこと、気にしないでください。私としては、レイシールド様とお話しするのは、楽なので、いつでも心を読んでいただいて、大丈夫です」
私に隠すようなことは特にないもの。
恥ずかしいことを考えているのを見られるのは困るけれど、黎明宮にいるときは私は気を引きしめているので、余計なことを考えたりしないのだ。
「……そうか」
「はい」
「わかった」
会話が終わりそうだわ。
レイシールド様に心を読んでいただくのは楽だけれど、これは大切なことなので、ちゃんと伝えなくてはいけない。
大切なことは、自分の言葉で伝えないと。
「私、今日はレイシールド様がお休みになるまでおそばにいます……!」
「何故?」
「なぜ……?」
「あぁ。何故だろうか」
「そ、それは、その、レイシールド様が、眠ることができないとお聞きしましたので、……私の、宵闇フクロウのシュゼットちゃんには、人を眠らせる力があるのです」
「特に困っていない」
「だ、旦那様に、安らかな眠りを提供するのも、お世話係の務めかと……!」
私は、レイシールド様の役に立ちたい。
とてもよくしていただいているもの。レイシールド様が私に優しくしてくれるおかげで私は、こんな私でもお世話係を続けることができていて、家に仕送りをすることができている。
だから、レイシールド様のためにもっと何かしたいと思うのだ。
たとえば、もっとちゃんとお食事を召し上がってほしいとも思うし、一人きりで眠れない夜を過ごさないでほしいとも思う。
「そうか。わかった。……それでは、お前の好きなようにしていい」
「はい! ありがとうございます……!」
許可を頂いたわ! 嬉しい!
やっぱり気持ちを伝えるとは大切よね。レイシールド様がいつも私の心を読んでいるわけではないとわかった今、その察しのよさに甘えてばかりいるわけにはいかない。
レイシールド様は小さな頃に嫌なことがあったから、私がレイシールド様にとって害になる人間じゃないかどうかを心を読んで探っていたのよね。
私のところに来たばかりの頃のリュコスちゃんたちだって人が信用できなくて、私の様子を探っていたから、同じ。
一度傷つけられた動物が、誰かを信用するまでには時間がかかるもの。
できれば私は、レイシールド様にとって安心できる人間でありたい。
「共にいるのは構わない。それなら夕食は俺が作ろう。ティディスは、風呂に入るといい」
「え?」
「俺が眠るまでお前は部屋に戻らないのだろう? 俺が食事の準備を」
「ど、どうしてそうなるのですか……!?」
私はぶんぶん首を振った。
「お食事の準備は私がします……! それから、お風呂のお手伝いも! それは私のお仕事ですから……! 動物を洗うのは得意ですので、きっとレイシールド様にも満足していただけると思います……!」
「ティディス」
「はい!」
「大きな声が出るようになった」
「は、はい……」
「お前の声は、穏やかで優しくて、いい。もっと話していい」
「え、ええと、はい……」
「それから、風呂は一人で大丈夫だ。食事の準備は任せる。ただし、お前の分とリュコスたちの分も用意するように」
「わかりました……!」
『さすがは父上じゃ。肉がよい』
リュコスちゃんが満足げに尻尾をぱたぱたさせた。
あとでお食事の時にでも、リュコスちゃんに父上とは何かを聞いてみましょう。
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