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捜索
しおりを挟む「……失踪?」
シャツを羽織っただけで、まだベッドの上に座り込んでいた俺の口から間抜けな声が漏れる。
失踪って……アズラークが?アズラークがいなくなったってこと?
いやいや、彼だって大人だし強い獣人なんだから、少し姿が見えなくなっても失踪なんて言わないだろう。彼だって一人で外出とか人と会ったりとかするんじゃないか。彼ほど強い獣人がトラブルに巻き込まれる可能性は低いと思う。だから失踪なんて言う理由があるんだろうか。
戸惑う俺の顔を見て、ハロルドさんは暗い顔をさらに苦しそうに歪める。
「騎士団より連絡がありました。夕暮れ前に精鋭部隊を引き連れて人質の解放へ向かった旦那様が、部隊ごと消えたまま戻らないと。人質が囚われていたはずの館はもぬけの殻で痕跡すら見つからないとのことで」
ハロルドさんの言葉が俺の耳に入るけれど、理解できなくてぐるぐると思考が回る。人質を解放しに行って、なんで。他の騎士の人もいたんだろう。なんで失踪なんか、しかも痕跡すら見つからないなんて。そんな……そんなことがあるわけがない。
「わたくし達にできることはございませんが、サタ様、せめて祈りをご一緒に……」
固まった俺に静かにハロルドさんの声が掛けられる。その言葉に俺ははたと我に返って、ベッドから飛び降りた。朝着せられたままのシャツのボタンをはめて、ずっと床の上に放置されていたズボンに足を通す。放り投げられていた靴を履いて扉へと駆けようとしたら扉を体で塞ぐようにしてハロルドさんが立ち塞がった。
「……っ! どこへ向かわれるつもりですか!」
「放してください! アズラークを探しに行かないと!」
噛みつくように叫ぶ。こんな部屋に守られたまま彼が帰るのを待つなんてできない。
アズラーク。強い彼が誰かに傷つけられるなんて信じたくないけど、もし今もどこかで囚われているならなんとしてでも見つけ出さないといけない。嫌な想像に背筋が凍る。
だけど困惑を露わにしたハロルドさんは戸惑うように首を横に振った。
「何を仰るのですか! そんなこと無理に決まっております! それに、サタ様が外に出られたと知ったら、旦那様がどれほどお怒りになるか……!」
「アズラークが戻ってこなかったら、俺を怒ることもできないじゃないですか!」
そうだろう。どれだけアズラークが怒ったって、それは無事に彼が帰ってこれたらの話だ。無事に……帰ってこれない可能性もあるだろう。そう考えると足元がガラガラと崩れ去っていってしまう気がする。アズラークは騎士で強いけど、騎士の仕事はとても危険だ。
ああ、こんなところで揉めている場合じゃない。 俺は舌打ちしそうになるのを堪えてハロルドさんの横をすり抜ける。
「サタ様……!」
足音を響かせて廊下を走る俺の後から、ハロルドさんの声が響く。彼が老齢の獣人で良かった。引き留めるような響きを持った声だけど……俺は振り向かずに屋敷から飛び出した。
閉じ込められていたのはせいぜい半月程度だろう。なのにすっかり体が鈍ってしまっていて、足はもつれるし息は酷く上がってしまって肺が痛む。
前に屋敷から抜け出した時もそうだったな。前はレオンと会いたいとそれだけだった。アズラークにばれないようにと少し後ろめたい気持ちで、ただ一目レオンの無事を見たらそれでいいと。
あの時と状況は似ているのに……胸の内側で吹き荒れるものは大きく違った。レオンの時は彼が無事であるということは分かっていたせいだろうか。ルアンさんのところにいるのだから、差し迫った危険はないと。だけど、アズラークは……彼は果たして無事なんだろうか。
疲れて足が上がらなくなって転びそうになるけど、それでも立ち止まることはしたくなくて必死に走る。ようやくルアンさんの屋敷へ辿り着いた時には、薄っすらと吐き気さえこみあげていた。イレリオさんに背負ってもらって来た時はあっという間の距離だったのに、その時の数倍の時間がかかってしまった。
足をもつれさせながら扉へと縋り、握った拳で叩く。すると内側から人がざわめくような音がして、それからゆっくりと扉が開かれた。
「サタ君、」
深夜に近い時間の突然の訪問に驚いた顔をしたルアンさんは、それでも扉の前で肩で息をしながら立ち尽くす俺を部屋の中へと導こうとしてくれた。だけど、『中へ』と俺の肩に手を回そうとするルアンさんの腕を振り払う。中に入る時間さえ勿体なくてもどかしい。失礼だっていうのは分かっているけど……それでも、俺はその場で足を踏ん張るようにして彼を見上げた。
「ルアンさん、力を貸して」
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