上 下
11 / 54

捜索

しおりを挟む
「あ、サタ。おはよう」
「おはよ……やばい、寝過ぎた」

 夕暮れ時には起きようと思ってたのに、狭い窓から外を見るとすっかり真っ暗闇。それほど遅い時間じゃないとは思うけど、夕暮れから夜更けまでを仕事の時間帯にしていた俺にとっては致命的だ。まだ痛む体をベッドから起こして、仕事に出る支度をしようとする。だが窓際に座ったレオンは、渋い顔をすると首を横に振った。

「今日は外に出ない方がいいかも」
「え? なんで?」

 手招きされ近寄ると、雨戸の陰に隠れるように外をのぞかされる。この部屋は2階で、高い建物がないスラムの様子がよく見える。

「こっから見える?あの制服の騎士団員たち……見回りが今日は異常に厳しいんだ。娼婦狩りだよ。」
「娼婦狩り?」
「うん。名目としては12歳以下の子供がいないかとか、無理やり働かされてる者がいないかを調べてるらしいんだけど、実際は街の大掃除。娼婦や男娼なんて、叩けば埃なんていくらでもでてくるからね」

 年に一回くらいだからまだ大丈夫だと思ってたんだけど、とレオンはぼやきながら頭を掻いた。このスラムは王都の中心部に比べると治安が悪い。実際ここに住んでいる獣人は脛に傷がある人がほとんどで、レオンはどうか知らないけど、少なくとも俺は騎士団に調べられたらマズイ。当たり前だけど出生記録も身分証もなければ、獣性のかけらもない人間なんだから。もし見つかってしまったらと想像して俺はぶるりと震えた。王宮の中で実験動物のように飼われるなんて冗談じゃない。


「……いつ終わるのかな?」
「今日だけだとおもうけど、今回は冷静で冷酷って噂のアズラーク団長が指揮してるらしい。娼婦と火遊びでもして、何か盗まれでもしたかな。」

 アズラーク……団長?聞き覚えがありすぎる名前にひくりとのどが震える。いや、もしかしたらアズラークなんて名前は、この世界ではありふれた名前なのかも。冷静を装ってさりげなく尋ねる。

「な、なぁ。そのアズラーク団長ってもしかして、銀髪に真っ白い尻尾で、めちゃくちゃ背が高い人?」
「うん、そうそう。ライオン族でもめったにいないホワイトライオンで、すごい美形の。なに、どっかで見たの?」
「い、いや~、どっかで見たって言うか……」

 ……まさか昨日ヤッちゃいましたとは言えない。はは、と引き攣った笑いをこぼす。
そんな俺にレオンは呆れたようにため息をこぼした。

「まあ確かに格好いいよね。騎士団はエリートで憧れだし。でもマジで冷酷な人らしいよ。獣性薄くても特別扱いとかしないし興味示さないって有名だし。どんだけ美人からの番の申し込みも、ぜーんぶお断りしてるみたいだしね」
「そ、そうなんだ」
「だからサタは出生票もないし家にいたほうがいいよ。俺、なにかメシ買ってくる」

 レオンはそう言うと、フードをかぶってするりと扉の外に消えて行ってしまった。

 それにしてもまさか彼が団長だったなんて……。どうりで身なりも見た目もいいわけだ。下っ端の騎士団員でもこのスラムの住人からすれば雲の上の人なのに、何百人もいるらしい騎士団員をまとめる立場なんて、想像もつかない。なんでスラム街なんかにいたのか分からないけど、本当なら俺の客になるような人じゃなかったってのは確かだ。

 また苦しくなる心臓を抑えて、窓の外の騎士団員たちを眺めた。かっちりとした制服とマントは、普段見回りをしている警邏団とは少し違う。鋭利な美形のアズラークにもよく似合っていた……そう思いだしただけで心臓が高鳴ってしまう。

 ぼんやりと外を見ていたら、少し離れた場所に馬に乗った集団がいるのに気が付いた。こんな狭い路地で馬に乗るなんて珍しい。そう思っていたら、そのうちの一人がどうも見覚えのある風貌だということに気が付いた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

獣人彼氏のことを童貞だと思って誘おうとしたら、酷い目にあった話

のらねことすていぬ
BL
異世界トリップして、住人の9割が獣人の世界に住み始めたアラサーのアオ。この世界で仕事も恋人もできて問題ない生活を送っている……ように見えたが、一つ不満があった。それは恋人である豹の獣人、ハンスが彼と最後までセックスしないことだった。彼が童貞なのでは?と思い誘ってみることにしたが……。獣人×日本人。♡喘ぎご注意ください。

異世界で大切なモノを見つけました【完結】

Toys
BL
突然異世界へ召喚されてしまった少年ソウ お世話係として来たのは同じ身長くらいの中性的な少年だった だがこの少年少しどころか物凄く規格外の人物で!? 召喚されてしまった俺、望月爽は耳に尻尾のある奴らに監禁されてしまった! なんでも、もうすぐ復活する魔王的な奴を退治して欲しいらしい。 しかしだ…一緒に退治するメンバーの力量じゃ退治できる見込みがないらしい。 ………逃げよう。 そうしよう。死にたくねぇもん。 爽が召喚された事によって運命の歯車が動き出す

魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。

柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。 そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。 すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。 「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」 そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。 魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。 甘々ハピエン。

魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。

柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。 頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。 誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。 さくっと読める短編です。

俺の悪役チートは獣人殿下には通じない

空飛ぶひよこ
BL
【女神の愛の呪い】  この世界の根源となる物語の悪役を割り当てられたエドワードに、女神が与えた独自スキル。  鍛錬を怠らなければ人類最強になれる剣術・魔法の才、運命を改変するにあたって優位になりそうな前世の記憶を思い出すことができる能力が、生まれながらに備わっている。(ただし前世の記憶をどこまで思い出せるかは、女神の判断による)  しかし、どれほど強くなっても、どれだけ前世の記憶を駆使しても、アストルディア・セネバを倒すことはできない。  性別・種族を問わず孕ませられるが故に、獣人が人間から忌み嫌われている世界。  獣人国セネーバとの国境に位置する辺境伯領嫡男エドワードは、八歳のある日、自分が生きる世界が近親相姦好き暗黒腐女子の前世妹が書いたBL小説の世界だと思い出す。  このままでは自分は戦争に敗れて[回避したい未来その①]性奴隷化後に闇堕ち[回避したい未来その②]、実子の主人公(受け)に性的虐待を加えて暗殺者として育てた末[回避したい未来その③]、かつての友でもある獣人王アストルディア(攻)に殺される[回避したい未来その④]虐待悪役親父と化してしまう……!  悲惨な未来を回避しようと、なぜか備わっている【女神の愛の呪い】スキルを駆使して戦争回避のために奔走した結果、受けが生まれる前に原作攻め様の番になる話。 ※悪役転生 男性妊娠 獣人 幼少期からの領政チートが書きたくて始めた話 ※近親相姦は原作のみで本編には回避要素としてしか出てきません(ブラコンはいる) 

奴の執着から逃れられない件について

B介
BL
幼稚園から中学まで、ずっと同じクラスだった幼馴染。 しかし、全く仲良くなかったし、あまり話したこともない。 なのに、高校まで一緒!?まあ、今回はクラスが違うから、内心ホッとしていたら、放課後まさかの呼び出され..., 途中からTLになるので、どちらに設定にしようか迷いました。

処理中です...