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帰宅

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「ただいまー」
「サタ!!!!!!」

 汚い長屋に戻るころには、すっかり日は昇り切っていた。いつもならレオンはぐっすり寝ているはずの時間なのに……部屋に入るなり転がるように飛びついてきた彼に抱きしめられた。

「っうわ! っ、ぃてぇ!」
「サタ!!! サタッ!!! どこ行ってたんだよ!? いつもなら俺よりずっと早く戻ってるのに、今日は夜が明けても帰ってこないし……! 心配して、俺おかしくなりそうだった!」


 ぎゅうぎゅうと太い腕に締め付けられて、酷使した尻と腰が痛む。それどころかアバラも背骨も圧迫されて折れそうだ。

「い、痛ぇ……! わ、わかった……! ごめん、ごめんって!」

 必死にレオンの腕を叩くと、ようやく腕がゆるめられた。

「あ、サタ!? ごめん! サタがか弱いの忘れてた」
「……ぅう。いや、心配かけた俺がわるい……」

 げほげほとむせる俺の背中を、レオンが優しく撫でる。俺がか弱いんじゃない。お前らの力が強すぎるんだ。

「うん、本当に心配したんだよ? ……って、その首の噛み痕どうしたの?」

 レオンが驚いたように呟くと、俺のフードを下ろして首筋をあらわにさせる。色濃く残る情交の痕に、俺は若干気まずくて頬を掻いた。


「あ、あーーー。昨日のお客さんに、ちょっと噛まれたみたい、だな」


 実際はちょっとじゃない。熱い舌で首筋を舐められていると思っていたら、獲物をしとめるように何度も牙を立てられた。加減されていたのかそれほど痛くなくて、むしろ興奮すらしてしまったんだけど……やっぱり痕はくっきり残っているみたいだ。

 俺の答えになぜか眦を釣り上げたレオンは、取り調べるみたいに首筋でスンスンと鼻を鳴らす。

「で、サタは? まさか噛み返したの!?」
「いや噛み返すって、俺は獣人じゃないんだけど……」

 剣呑なレオンの眼差しに、しどろもどろになりながら答える。たしかにあのアズラークの美しい首筋に痕を残せたら、と考えなかったわけじゃない。でもそんな嫉妬深い女みたいなことを金で買われた俺にされたら嫌だろう。俺と寝たことを知られたくない相手がいるかもしれない。
そう思ってしなかった。キスマークひとつ、爪の痕ひとつだって残さなかった。

 そんな俺の答えに、レオンの機嫌は回復したみたいだった。

「そうだよね! サタがこんな乱暴な痕残す奴、相手にするわけないよね! 大丈夫だった? 嫌なこととか無理やりされてない?」
「いや、全然乱暴じゃなかったし、嫌なこともされてないよ。っつーか、くすぐったいって」

 噛み跡にぺろぺろと舌を這わされて、くすぐったさに身をよじる。やっぱりこいつも獣なんだなと思ったら笑いがこぼれた。


「俺、疲れたからちょっと寝るね。レオンは?」
「じゃー俺も寝る!」
「もしかして寝ないで心配しててくれた?」
「うん。でも俺、2、3日なら寝なくても平気だから」
「ごめんな。」
「いーよ。その代り、今日は俺の抱き枕になってね」
「・・・・・お前、重いからなぁ」

 シャツを脱いでかび臭いベッドに寝転ぶと、レオンがふざけてのしかかってくる。俺が今朝 目覚めたベッドとは大違いの、狭くて固くて寝心地なんて最悪のベッド。夢のような時間は終わって、目が覚めたらまた仕事をしに行かなくちゃいけない。この長屋でいつまでも暮らしていけるわけはないのだから。俺は誰かを心に住まわせているような余裕なんてないんだ。そう思ってきつく目を閉じた。

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