37 / 82
37
しおりを挟む
突然の訪問にもかかわらず、ジェンキンス伯爵夫妻は、二人をとても歓迎してくれた。だが、流石は親といったところか。すぐにミアの雰囲気が違うことに気付いたようで。
「はじめまして。お父様、お母様。ルシンダと申します」
優雅にカーテシーをするルシンダに、ジェンキンス伯爵夫妻が、目を瞠る。
「──僕が、お話します。長くなりますが、聞いてもらえますか?」
決意を秘めた双眸に、なにかを察したジェンキンス伯爵は、表情を緩めた。
「ああ。いくらでも、いつまででも、聞くよ」
その隣で、ジェンキンス伯爵夫人が肯定するように、にっこりとうなずいた。
──温かいな。
日が傾き、空が赤く染まっていく。沈みゆく太陽が眩く光り、四人を包み込む。
いつもより綺麗だと思えたのは、一歩でも、前に進めたからだろうか。
♢♢♢♢♢
エディは、ルソー伯爵に出会ったときからこれまでのすべてを、あますことなく語った。ああ、本当はずっと、誰かに聞いてもらいたかったんだ。話ながらも、エディは痛感していた。
ジェンキンス伯爵夫妻が、心を痛めてくれているのが、伝わってきた。二人はあえて口を挟まず、それでも一言も聞き漏らすまいと、必死に耳を傾けてくれている。
それだけで、エディは泣きそうだった。随分と涙腺が緩んでしまった。こっそり苦笑する。
すべてを語り終えたころには、空は黒く染まり、夕食の時間もとっくに過ぎていた。
「──ルソー伯爵はいまごろ、僕に激怒しているはずです。迷惑をかけることはわかっていたのですが……僕にはここしかなくて……すみません」
席を立ち上がり、頭を下げる。心臓が、バクバクと早く脈打つ。信じていないわけではない。でも、現実的に、迷惑をかけるどころの話ではないのだ。けれど、たとえどんな結論が出ようと、ジェンキンス伯爵夫妻への感謝は、変わらない。それだけは、確かだった。
「──よく話してくれたね」
慈しむような声音に、エディは瞬時、固まった。予想していた反応とは、まるで違っていたから。
ジェンキンス伯爵を見る。ジェンキンス伯爵は小さく笑い、懐から一通の手紙を出し、テーブルの上に置いた。
「……これは」
「きみたちより一足早く着いた、ルソー伯爵からの手紙だよ。明日の午後、こちらに着く予定だそうだ」
青ざめるエディに、ジェンキンス伯爵は、読んでごらん、と手紙を差し出した。エディは震える手で手紙を受け取り、一読した。
そこには、予想通りというか。なんというか。ミアがコーリーを理不尽に殴ったことへの謝罪と慰謝料を求める、といった内容と、エディとの婚約は破棄させてもらうという旨が、怒りに任せて書いたであろう文字で、書き連ねられていた。
「はじめまして。お父様、お母様。ルシンダと申します」
優雅にカーテシーをするルシンダに、ジェンキンス伯爵夫妻が、目を瞠る。
「──僕が、お話します。長くなりますが、聞いてもらえますか?」
決意を秘めた双眸に、なにかを察したジェンキンス伯爵は、表情を緩めた。
「ああ。いくらでも、いつまででも、聞くよ」
その隣で、ジェンキンス伯爵夫人が肯定するように、にっこりとうなずいた。
──温かいな。
日が傾き、空が赤く染まっていく。沈みゆく太陽が眩く光り、四人を包み込む。
いつもより綺麗だと思えたのは、一歩でも、前に進めたからだろうか。
♢♢♢♢♢
エディは、ルソー伯爵に出会ったときからこれまでのすべてを、あますことなく語った。ああ、本当はずっと、誰かに聞いてもらいたかったんだ。話ながらも、エディは痛感していた。
ジェンキンス伯爵夫妻が、心を痛めてくれているのが、伝わってきた。二人はあえて口を挟まず、それでも一言も聞き漏らすまいと、必死に耳を傾けてくれている。
それだけで、エディは泣きそうだった。随分と涙腺が緩んでしまった。こっそり苦笑する。
すべてを語り終えたころには、空は黒く染まり、夕食の時間もとっくに過ぎていた。
「──ルソー伯爵はいまごろ、僕に激怒しているはずです。迷惑をかけることはわかっていたのですが……僕にはここしかなくて……すみません」
席を立ち上がり、頭を下げる。心臓が、バクバクと早く脈打つ。信じていないわけではない。でも、現実的に、迷惑をかけるどころの話ではないのだ。けれど、たとえどんな結論が出ようと、ジェンキンス伯爵夫妻への感謝は、変わらない。それだけは、確かだった。
「──よく話してくれたね」
慈しむような声音に、エディは瞬時、固まった。予想していた反応とは、まるで違っていたから。
ジェンキンス伯爵を見る。ジェンキンス伯爵は小さく笑い、懐から一通の手紙を出し、テーブルの上に置いた。
「……これは」
「きみたちより一足早く着いた、ルソー伯爵からの手紙だよ。明日の午後、こちらに着く予定だそうだ」
青ざめるエディに、ジェンキンス伯爵は、読んでごらん、と手紙を差し出した。エディは震える手で手紙を受け取り、一読した。
そこには、予想通りというか。なんというか。ミアがコーリーを理不尽に殴ったことへの謝罪と慰謝料を求める、といった内容と、エディとの婚約は破棄させてもらうという旨が、怒りに任せて書いたであろう文字で、書き連ねられていた。
115
お気に入りに追加
1,624
あなたにおすすめの小説
【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜
光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。
それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。
自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。
隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。
それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。
私のことは私で何とかします。
ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。
魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。
もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ?
これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。
表紙はPhoto AC様よりお借りしております。
所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜
しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。
高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。
しかし父は知らないのだ。
ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。
そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。
それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。
けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。
その相手はなんと辺境伯様で——。
なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。
彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。
それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。
天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。
壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
勇者アレクはリザ姫がお好き ~わたくし、姫は姫でもトロルの姫でございますのに~
ハマハマ
恋愛
魔王を倒した勇者アレクはリザ姫に恋をしました。
アレクは姫に想いを告げます。
「貴方のその長く美しい紅髪! 紅髪によく映える肌理細かな緑色の肌! 僕の倍はありそうな肩幅! なんでも噛み砕けそうな逞しい顎! 力強い筋肉! その全てが愛おしい!」
そう。
彼女は筋肉《バルク》たっぷり、なんと姫は姫でもトロルの姫だったのでございます。
◇◆◇◆◇
R3.9.18完結致しました!
R3.9.26、番外編も済んでホントに完結!
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
断罪シーンを自分の夢だと思った悪役令嬢はヒロインに成り代わるべく画策する。
メカ喜楽直人
恋愛
さっきまでやってた18禁乙女ゲームの断罪シーンを夢に見てるっぽい?
「アルテシア・シンクレア公爵令嬢、私はお前との婚約を破棄する。このまま修道院に向かい、これまで自分がやってきた行いを深く考え、その罪を贖う一生を終えるがいい!」
冷たい床に顔を押し付けられた屈辱と、両肩を押さえつけられた痛み。
そして、ちらりと顔を上げれば金髪碧眼のザ王子様なキンキラ衣装を身に着けたイケメンが、聞き覚えのある名前を呼んで、婚約破棄を告げているところだった。
自分が夢の中で悪役令嬢になっていることに気が付いた私は、逆ハーに成功したらしい愛され系ヒロインに対抗して自分がヒロインポジを奪い取るべく行動を開始した。
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる