真実の愛は、誰のもの?

ふまさ

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「脅迫、と言えば大袈裟かもしれないけど。ルソー伯爵は、まだ三歳だった僕を引き取りにきた日、こう告げたんだ。コーリーを一度でも泣かせれば、すぐに屋敷を追い出し、人買いに売り飛ばしてやる、とね」

 淡々と告げるエディ。目の前に座るルシンダが、硬直したように目を瞠る。

「……弱いよね、僕は。暴力を振るわれたりしたことなんて一度もないのに、ルソー伯爵が怖くて、コーリーの機嫌を損ねることが、なにより怖ろしくて、たまらなかった」

 エディが、自身を嘲笑する。情けなくて、顔を見れなくて、うつむいていると、凛とした声が響いた。

「──大袈裟でもなんでもなく、それは脅迫よ。言葉の暴力であり、犯罪だわ」

 気付けば、エディはルシンダに抱き締められていた。落ち着く匂いが、ふわっと香る。

「愛しいエディ。あなたを長年追い詰め、傷付けてきた人たち全員が憎くて、憎くて、気が狂いそうだわ」

「そんな……きみたちに比べたら、僕なんて」

 ルシンダが、馬鹿、とエディの頬をつねった。エディが、キョトンと目を丸くする。

「わたしでまだ良かったわね。ダリアやミアだったら、きっと号泣して、泣き止まなかったわよ」

 そう言うルシンダの目にも、涙が浮かんでいた。

「……ルシンダ?」

 不思議そうに、親指でルシンダの涙を拭うエディ。ルシンダは、哀しげな笑みを浮かべた。

「……自分が虐待されていたことに、気付いていなかったのね」

「虐待? 違うよ。だって、打たれたりはしたことないんだ。だから」

「言ったでしょう? 言葉の暴力だって。あなたは身体ではなく、ずっと心を傷付けられてきたんだわ」

「……心を」

 呆然とするエディの頭を、慰めるように、ルシンダが撫ではじめた。エディは、目の奥がつんと熱くなるのを感じつつ、クスッと笑った。

「……いつもと逆だ」

「たまにはいいでしょ? わたしの方が、年上なんだし」

「ルシンダは、いくつなの?」

「十八よ」

「そっか……」

 笑いながら、エディの頬に、幾筋もの涙が流れた。

 すべてを話そう。ミアにも、ジェンキンス伯爵夫妻にも。隠すことなく、全部を。

 ルソー伯爵が、このまま放っておいてくれるとは思えない。だからきっと、迷惑をかけてしまうだろう。

 それでも。

『なにか困ったことがあったら、なんでも相談していいんだよ。力になるから』

 ごめんなさい。
 
 ──あの言葉に、縋ろうと思います。

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