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「きみたちを傷付けずに真実を話してもらうには、どうすればいいのだろうと、ホリーと話し合っていたところだったんだ」
「ええ。わたしたちを信頼してくれて、ありがとう。あとは、大人のわたしたちに任せて」
「……で、ですが……っ」
ジェンキンス伯爵夫妻の言葉は、素直に嬉しく、心が震えたのは確かだ。しかし、本当に巻き込んでよいのか。自分ではなにもできないくせに、怯え、迷う。
「大丈夫だよ、エディ。領地を持たないルソー伯爵に、私と争う力などないさ。どうやら、そんなこともわからないほどに、頭に血がのぼっているようだけどね」
はたと、エディは目をぱちくりさせた。
(……そうだ。ルソー伯爵には、自身で動かせる軍事力がないんだ)
「力があるから、戦える。守れる。この地位を与えてくれたことには、兄に感謝したいね」
ジェンキンス伯爵は、ニヤリと口角を上げた。
♢♢♢♢♢
──遡ること、数日前。
「お父様ぁ!!」
屋敷に着いたコーリーは、脇目もふらず、一直線にルソー伯爵の自室へと向かった。ノックもなにもせず、部屋に飛び込む。これがコーリー以外の者なら、ただではすまなかっただろうが、ルソー伯爵は少し驚いたように目を丸くしたあと、泣いているコーリーに、どうしたと必死の形相で駆け寄った。
「ミ、ミアに、打たれましたぁ……っ」
「な、なんだと!?」
「あたし、あたし……必死にお願いしたんです。お兄様とあたしは、両想いだから、どうか、お兄様と別れてくださいって……一生懸命お願いしたのに、ちっとも、聞き入れてくれなくてぇ」
「……コーリーっ」
ルソー伯爵は、なんて酷いことを、とコーリーを抱き締めた。
「エディの奴はなにをしていたんだ! まさか、黙って見ていたんじゃないだろうな?!」
「……それが、ひくっ、お兄様、おかしくて……ミアに、なにか脅されているみたいでしたぁ……っ」
「?! まさか、ミア嬢がそんなに最低な女だったとは……」
「あの女、あ、悪魔みたいでした……あたし、殺されてしまうかと……お願い、お父様。お兄様をあの女から取り戻してきてぇ」
コーリーが、声を上げて泣きはじめた。よほど怖い目に合ったのだろうと、ルソー伯爵が、もう大丈夫だと、コーリーの背中をさする。同時に、エディとミアに対する殺意が、あとからあとから湧いてきた。
(おのれ、小娘が……私の大事なコーリーによくも……どんな理由があるにせよ、守れなかったエディも同罪だ……絶対に許さん!!)
ルソー伯爵の双眸に、ぎらりと淀んだ光が宿った。
「ええ。わたしたちを信頼してくれて、ありがとう。あとは、大人のわたしたちに任せて」
「……で、ですが……っ」
ジェンキンス伯爵夫妻の言葉は、素直に嬉しく、心が震えたのは確かだ。しかし、本当に巻き込んでよいのか。自分ではなにもできないくせに、怯え、迷う。
「大丈夫だよ、エディ。領地を持たないルソー伯爵に、私と争う力などないさ。どうやら、そんなこともわからないほどに、頭に血がのぼっているようだけどね」
はたと、エディは目をぱちくりさせた。
(……そうだ。ルソー伯爵には、自身で動かせる軍事力がないんだ)
「力があるから、戦える。守れる。この地位を与えてくれたことには、兄に感謝したいね」
ジェンキンス伯爵は、ニヤリと口角を上げた。
♢♢♢♢♢
──遡ること、数日前。
「お父様ぁ!!」
屋敷に着いたコーリーは、脇目もふらず、一直線にルソー伯爵の自室へと向かった。ノックもなにもせず、部屋に飛び込む。これがコーリー以外の者なら、ただではすまなかっただろうが、ルソー伯爵は少し驚いたように目を丸くしたあと、泣いているコーリーに、どうしたと必死の形相で駆け寄った。
「ミ、ミアに、打たれましたぁ……っ」
「な、なんだと!?」
「あたし、あたし……必死にお願いしたんです。お兄様とあたしは、両想いだから、どうか、お兄様と別れてくださいって……一生懸命お願いしたのに、ちっとも、聞き入れてくれなくてぇ」
「……コーリーっ」
ルソー伯爵は、なんて酷いことを、とコーリーを抱き締めた。
「エディの奴はなにをしていたんだ! まさか、黙って見ていたんじゃないだろうな?!」
「……それが、ひくっ、お兄様、おかしくて……ミアに、なにか脅されているみたいでしたぁ……っ」
「?! まさか、ミア嬢がそんなに最低な女だったとは……」
「あの女、あ、悪魔みたいでした……あたし、殺されてしまうかと……お願い、お父様。お兄様をあの女から取り戻してきてぇ」
コーリーが、声を上げて泣きはじめた。よほど怖い目に合ったのだろうと、ルソー伯爵が、もう大丈夫だと、コーリーの背中をさする。同時に、エディとミアに対する殺意が、あとからあとから湧いてきた。
(おのれ、小娘が……私の大事なコーリーによくも……どんな理由があるにせよ、守れなかったエディも同罪だ……絶対に許さん!!)
ルソー伯爵の双眸に、ぎらりと淀んだ光が宿った。
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