165 / 207
第6章 川下の町と虹色の人魚
6-6 山菜取りの前の手厳しい天罰。 自業自得よ!
しおりを挟む「このお肉、美味し~い……でもなんだか、どんどん身体が痺れるような、眠たいような……」
釣れた大物――上半身は人間と同じ体型で水色のTシャツを纏い、下半身は虹色の鱗。まつ毛が長く、胸がありくびれがある。髪の毛には貝殻の飾りをつけていて、どこからどう見ても、美少女だ。
「きゃあっ! 大変! 【解毒剤】飲んでください……! ……そうか、麻痺蜘蛛の成分と睡眠蝶の針が……」
ミミリは抱き起こし、【解毒剤】を飲ませた。すると、人魚は安心したかのようにすやすやと眠り始めた。ミミリのことを、
「お姫様……」
と言って……。
◇
「どゆことこれ?」
うさみ、バルディ、コブシ、サザンカが来た時にはこの調子だった。わけがわからないが、とりあえずそのまましておくわけにはいかず、工房に運ぶことにした。
◇ ◇ ◇ ◇
「んんん~! よく寝ました! あれ? おはよう……ございま……
……………………………………。
……………………本当に人間~⁉︎」
人魚はとても驚いた様子で、ミミリのベッドの端の端の方まで退がっていった。様子を見るに、人間を見る機会は少ないのだろう。
「ごめんなさい! 私が人魚さんのことを釣っちゃったんです」
「あ、お姫様……先程は助けていただきありがとうございました」
「ええっ⁉︎ お姫様? 私はミミリって言います。貴方のお名前は?」
「私は、ディーテです」
ディーテは、言いながら髪を耳にかける。強いウェーブがかかった髪に、水色の貝殻と小さな黄色の星型アクセサリーを側頭部へつけた可愛い少女。人間の年齢でいえば、歳の頃は18くらい。バルディとそんなに変わらないように見える。
「で、聞きたいのだけれど。私はうさみ。ミミリのぬいぐるみよ」
「ぬい、ぐるみ……?」
「可愛いですね」
「ありがとう~! ……じゃなくって、どうしてあんなに人間の街の近くにいたの?」
「それは……」
まぁまぁ、と言いながらゼラはホットミンティーとはちみつパンケーキをサイドテーブルに置いた。
「お口に合うかわからないけど、どうぞ」
「わぁ! 人間の食事! 美味しそう。ありがとうございます」
ディーテは食べながら説明を始める。
「実は、最近海がよく荒れているんです」
「知ってるわ」
「それは、人魚の天敵である、サハギンが居城に攻めてくるからなんです。それで戦争のようになり、海の王である父が怒りを……」
「え?」
「ええと、サハギンが」
「そこじゃなくて、海の王である父? ってことは……」
ディーテはにっこりと小首を傾げて笑う。
「はい。私の父は海の王、海竜。私は人魚姫のディーテです」
「「「「えええええええ」」」」
「みなさまそんなに驚かれて。大したことじゃあありませんわ。ミミリもお姫様ですものね」
「いいえっ! 私は見習い錬金術士です」
「錬金……術士?」
「そうなんです。ディーテさんが釣れちゃったのも、私が錬金術で作った釣り竿を使ったからで……」
「錬金術……士」
ディーテは、はちみつパンケーキを食べながら美味しそうに、けれど不思議そうに呟いた。
「たしかに、巧みに釣られちゃいましたけど。私、釣られに来たんです。人間に助けを求めたくて」
「助け?」
「はい。どうか人魚世界を救ってくれないでしょうか」
「随分、壮大な話ね」
ディーテの話によるとこうだ。
ポイズンサハギンなどを従えるサハギンと人魚は古来より敵対関係にあるらしい。最近では特にひどく、互いに決めた境界線を超えてサハギンが漁に来たり、人魚を連れ去って弄ぼうとするらしい。
次第に海竜の怒りが増して海が荒れ、ディーテはいてもたってもいられず人間界に助けを求めに来たはいいものの……。家出のようになってしまい、ますます海竜が怒り狂い海が大シケになっている、と。
「サハギンに攫われたと思ってるんじゃない?」
「いえ、それはありません。ちゃんと置き手紙をしてきましたから」
「「手紙で家出……」」
ミミリとゼラは、ちらりとうさみを見た。昔うさみは、同じことをしてみんなを心配させたことがあるのだ。うさみは見られていることに気づいてはいるものの、敢えて気づかないフリをしている。
「あの……疑うわけじゃないんだけれど、どちらかの闘いに人間が与するとなると、それ相応の代償を背負うものなのよ。だから、安易に助けてあげるとは言えないものなのよね。サザンカはどう思う?」
うさみは、サザンカに話を振る。
「うさみの言うように、人魚とサハギンの話についてはどちらか一方に与するのは危険だ。後世まで根深く引きずる可能性がある。
だがしかし、我々人間は、幾度となくポイズンサハギンに襲われて、甚大な被害を受けている。闘う理由は充分にある」
「じゃあ……!」
ディーテが嬉しそうな声を上げたところで、止めるようにコブシが一言。
「でもさ、どうやって海に潜るんだ?」
「…………………………あ…………………………」
「人間は、海で呼吸できないのですか?」
嘘でしょ? と言わんばかりのディーテ。
人々の目は、自然と見習い錬金術士のミミリに集まり……。
「え、私?」
「作れないかな、ミミリ。海の中で呼吸ができる錬成アイテム」
「うう~ん。今私が知ってる錬金素材アイテムを使うのなら無理かな」
うさみはホッと胸を撫で下ろした。
なぜなら海に入るということは……!
「そそそそそそそそそそそれに海に入るってこの とはびしゃびしゃになるってことよ?」
「それは守護神の庇護でなんとかならないか?」 「……はぁ、それもそうね。半円のドームを球体にして覆えばいいんだわ」
と、アッサリ解決。
「じゃあ、あと、ミミリの問題ね!」
「えええ……」
「その話だが、子供の頃、酸素山菜というものを咥えながら海に潜って遊んだものだな……。1分程度しか持たないが」
「酸素……山菜……。できるかわからないけど、試してみたいです。採集できる場所へ、案内してもらえますか?」
「ああ、わかった。ここから少し離れた場所の小高い丘にある」
ここで、思いもよらなかった者が声を上げた。ディーテだ。
「私も行くわ」
「でも、ディーテさんはヒレのままだと……」
「乾かせば足になるのよ。もう乾いてるわ。だから……服を貸してくれる? あと、下着も」
「「「――――!」」」
ゼラ、バルディ、コブシは顔を真っ赤にしミミリの部屋を退室した。
退室しない者が1人……。サザンカだ。
「なんと、人魚とは興味深い」
腕を組んで眺めるサザンカ。
さすがにディーテも恥ずかしがっている。
そんな時には、天罰は当然下るというもの。
うさみは顔を真っ赤にして怒っている。
「デリカシーのない男はいくらイケメンでもダメよ! 風神の障壁ッ! かなり強い押し出しバージョンッ!」
「うおおおおおおおおおおおお」
うさみによって、部屋の外ではなく窓から工房の外へ追い出されてしまった。しかも二階から。
まぁ、サザンカのことだから生きてはいるだろう。確認はしていないけれども……。
「これは、手厳しいぬいぐるみだな。興味深い」
サザンカは生きていた。
なんと、二階の窓から華麗に着地を決めたらしい。
「魔法か……。興味深い」
懲りたんだか懲りていないんだか。
サザンカはまたなにかやらかしそうだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
42
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる