見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜

うさみち

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第6章 川下の町と虹色の人魚

6-5 大物、釣れ……た?

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「バルディさん、コブシさん、おかえりなさい!」
「あぁ、ただいま。ちょうど途中でアザレアからの援護班に会ってさ、無事にポイズンサハギンは掃討できたって話せたよ。もちろん、教会にも行ってさ。ミミリちゃんがボスを倒したぜって言ったら、みんなすご~いって言ってたぞ」

 ミミリの顔は、かぁ~っと赤くなる。

「や、やめてくださいよう。たまたま、運が良かっただけですよ」
「運が良かっただけで爆弾は爆発しないと思うが……。人間の所業ではないようだった」

 サザンカの一言。

「サザンカ、意外とミミリに辛辣ね」
「そっ、そういうものなのか! す、すまん」
「いいんです~」

 【白猫のセットアップワンピース】のしっぽをたらんとさげて、しょぼしょぼと歩くミミリ。

「ミミリ、落ち込んでるな、俺行ってきます」

 と、フォローに向かうゼラ。

「ミミリ、俺ミミリに助けてもらったよ。ありがとうな。見てくれよ俺の火傷。うさみに治してもらったけど、完治はさせてもらわなかったんだ。えてな。ホラ、属性を習得するためには~っていうアルヒさんの教えに従ってさ」
「励ましてくれてありがとう、ゼラくん。ゼラくんは氷も炎も雷も。属性習得頑張ってて偉いね」
「それじゃあ俺が励ましてもらってることになるじゃん」
「それもそうだね」

 うさみは、ミミリたちを指し示して、サザンカに言う。

「乙女心はね、繊細なのよ」
「以後、気をつけよう」

 と、落ち着いたと思いきや。

「な、なんだこりゃっ」

 コブシの大きな一言が町中に響き渡る。
 なんだなんだ、ポイズンサハギンか、ともりを持って集まってくる船乗りたち。

「な、なんだこりゃっ」

 その、船乗りたちも驚いた。
 バルディだけは、予想どおり、といった風でひとまずは落ち着いて見据えている。

「いつからここはアザレアになったんだ⁉︎」

 コブシをはじめ、人々は皆、驚いた。
 先程まで開けた更地だったというのに、いつの間にか赤い屋根の可愛らしい工房がある。
 『見習い錬金術士ミミリの錬成工房』
 との、立て札まで。
 外観は心を惹く可愛らしさが際立つクリーム色の外壁に、茶色のフレームの出窓。赤い屋根に……、大きな煙突。家の前には家庭菜園も楽しめそうな小さな庭があり、白木で作られた腰丈くらいの柵もある。まるで絵本の中にあるような工房だった。

 サザンカは、町民に説明する。

「バッグから、出てきたんだ」
「「「「「「「「は?」」」」」」」」

 明らかに、言葉が足りない。
 うさみは思った。

 ――サザンカは、不器用のBね。ヘタレのH、泣き虫のN、苦労人のKと、どれがマシかしら……。やっぱり一番は、プリティのPよね。

 ◆ ◆ ◇ ◇

「ミミリ、元気出して釣りでもしようぜ」
「釣り?」
「まぁ、ミミリのその【白猫のセットアップワンピース】の効能なら、潜った方が上手く獲れそうだけど、風邪ひいちゃうからな」

 ゼラは、ミミリが川に潜って魚獲りをして風邪をひいて寝込んだことの時を言っている。

「もー! ゼラくんてばからかって」
「はは。ごめんごめん」

「わぁ、お兄ちゃんたち魚釣りするの?」
「僕たちもやりたーい」

 こんな話をしていると、こどもたちがワラワラと集まってきた。

「よしっ、じゃあみんなでやるか、魚釣り。竿、貸してくれな」
「いいよー」

 ミミリは【マジックバッグ】から丸椅子を人数分出し、子どもたちと5人、海の波打ち際、砂浜から掛けられた桟橋に横並びになって魚釣りを始めた。

「ゼラくん、釣り竿につける餌ってなあに?」
「んー。まぁ、いろいろあるけど、手っ取り早くは虫かな」
「む……む……む……し……?」
「ホラ、ミミズとか」

 ミミリの腕も身体もざわざわーっと鳥肌が立つ。

「私、自分で餌作るね……。ピギーウルフの細切れ肉にするよ……」
「贅沢だなぁ。釣れるかはわかんないけど、やってみな」

 ザザーン。
 ザザーン。
 時折、高い桟橋にも白波が押し寄せる。
 本来、釣りには向いていないだろうが、気分転換にはいいかもしれない。
 ゼラは、こどもたちも含め全員に命綱を括り付けて釣りをしている。荒れた海の突然の白波に攫われないためだ。命綱は、この町の太い木の幹に括り付けてきた。
 こういうところが頼りになるなぁ、とミミリは思う。ミミリはずうっとうさみとアルヒと3人で住んできた。外に出るまで、お金も知らなければ、冒険者ギルドも、こんなに人間がたくさんいることすら知らなかった。
 それだけ外界と離れた土地で生きてきたのだから仕方ないと言えるが、それでも、自分にない知識を蓄えたゼラをとても頼もしく思っていた。

「わぁ! お兄ちゃん、僕の、引いてる!」
「力加減を大事に! 逃すなよ、頑張れー!」

 ――プチン!

 白波の影響もあってか、釣り糸が切れてしまった。

「あーあ、切れちゃった」
「仕方ないよ。また頑張ろう。ホラ、餌、つけてやるから」
「うん!」

 ――糸って切れやすいんだ。

 釣りが初めてのミミリは、実は釣竿を見よう見まねで作った自作品で釣りをしている。
 貸してもらえる釣り竿が一本だけだったからだ。

 竿部分は、審判の関所で流しそうめんをした時に使った、よくしなる竹。持ち手のグリップをよくするために、手には【絶縁の軍手グローブ】をはめている。
 糸は、アンスリウム山の内部ダンジョンでドロップした麻痺蜘蛛の糸を【一角牛の暴れ革】の煮汁でよく漬け込んだもの。一角牛を錬成するときに大変だった時と同様に、うにゃりぐにゃりとよく動き、自ら魚を捕まえに行く優れ物。
 針は、睡眠蝶スリープフライの矢を加工したものに、ピギーウルフの細切れ肉をつけてみた。
 名付けて、【錬金術士の釣り竿】だ。

 ――ピーン!

 とミミリの釣り糸が引く。

「ゼッ、ゼラくん、引いたっ、引いた~!」
「負けるなミミリ……って、エ?」

 ゼラも驚くとおり【錬金術士の釣り竿】は特注なので糸が自力で引っ張ろうとしている。しかも、麻痺蜘蛛の糸を編んで作った糸は簡単には切れやしない。そこに一角牛の元気さが加われば自然と……。


 ――バッシャアアアアアアン!

 大海原から、大きな獲物が姿を現した。
 それは、誰もが想像することのない、本当の意味での大きな獲物。

「大物、釣れ……た?」

 ミミリもゼラも、顔を見合わせ驚いてそれ以上言葉も出なかった。

 一緒に釣りをしていた3人の子どもたちは、これは大変だ! と大人を呼びに駆け出して行った……!

 ◆ ◆ ◆ ◆

「サザンカさーん! サザンカさーん!」

 向こうから、3人の子どもたちが血相を変えてやってくる。

 うさみは、バルディの肩に乗りながら、只事ではないわね、とボソリと呟いた。

「ど、どうしたんだそんなに慌てて」

「あ、あっ、あのねっ、錬金術士のおね、お姉ちゃんが……」

 やっぱりミミリだよね、と、うさみ、バルディ、コブシは顔を見合わせて頷いた。

「ミミリがどうしたんだ?」

「ミミリッお姉ちゃんが、人魚、釣ったの!」



「「「――――――にんぎょ~⁉︎」」」


 ――アザレアの街に続き、川下の町でも。
 ミミリが一波乱巻き起こすことはわかっていたが……。やはりここでも例に漏れない。

 うさみは、バルディの肩にペタリと座り込んでくったりした。

「はぁ、見に行きましょうか。人魚とやらを」

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