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12話 白馬の王子さま

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 アシュトン公爵領に、クローラ公爵から迎えの馬車が来た。

「ローラ、僕自らが来てやったぞ」

 なんと、馬車にはエドガーが乗っていました。

「さあ、早く乗るんだローラ」

「このことをクローラ公爵は知っているのか? 返事は遅れると手紙は送ったはずだが」

 父は、エドガーから私を守るように、間に入って来ました。

「そうですわ。いくら公爵と言えど、許されませんわ」

 母も父の隣に並ぶように立っています。

「僕はクローラ家の跡取りですから、そんなものは後でどうにでも出来ますよ」

「なっ、貴様っ!」

 エドガーの発言に父は怒った。

「それに婚約破棄の件は誤報とお伝えしたはずですよ、アシュトン公爵。で、あればローラはうちで花嫁修行を再開するのが道理でしょう」

「そんなことが認められるかっ!」

「ローラ、あなたは下がっていなさい」

 父と母の存在に、私は胸が痛くなります。
 とても優しく頼りになる存在。
 でもだからこそ、個人の感情よりも公爵家に役に立たなければなりません。

「ローラ、はやく来い」

「行く必要はないっ!」

「お父さま、お母さま。私は良いのです。公爵家のことを考えるのなら、これが良いに決まっていますわ」

 私は、目から大量の涙を流しました。
 本当のことを言うのなら、行きたくはありません。
 ですが、貴族なら家のことを考える必要があります。

 私は覚悟を決めて、エドガーの方へと歩きました。

「ローラっ! 本当の本当に良いのね? 後悔はないのねっ?」

 母の言葉が胸へと突き刺さる。
 頭によぎるのは、アレックスのこと。
 アレックスとの文通でこと、お茶会でのこと、そして告白のこと。

 私とアレックスの将来は、それはそれは素晴らしいものになったでしょう。

 首をブンブンと振って、全てを忘れる。
 これで良いのです。
 これで......私とアレックスは住む世界が違います。

 私は、クローラ公爵家の馬車に乗り込もうとしました。
 その時、遠くに何かが見えた気がして、足を止めました。
 それは少しずつ近づいて来て、目で見て分かる距離まで来ると、白馬であることが分かりました。

 アレックスだ。
 そうあれは、アレックスが乗る白馬です。
 彼はただ一人で白馬にまたがって、アシュトン公爵家までやって来たのです。

「はぁはぁはぁ......」

 そしてついには、息を切らしながら私の目の前へとやって来ました。

「待つんだローラ、待ってくれ」

 アレックスは、どれだけ慌てて来たのでしょうか。
 いつもは美しい金髪髪の毛は、見る影もなくボサボサになっています。
 髪の毛だけじゃありません。服も着崩れをしていて、普段の彼ではありえない格好をしています。

「これはこれは、アレックス王子ではありませんか。婚約者の見送りにでも来てくれたのですか?」

 エドガーは嫌味ったらしく、そう言った。

「アレックスさま......」

「ローラ......」

「どうして来たのですかっ!」

 私は感情を抑えきれずに、怒りながらそう言った。
 もう少しで忘れられそうだったのに......。
 どうして。

 全てを忘れて、決意したことだったのに。

「君の口から返事を聞きたかったんだ」

 アレックスは笑いながら言いました。

「僕は諦めが悪いんだ。手紙一つくらいじゃ、君のことを忘れられるわけないだろ」

 ニカッと笑っている。

「それだけですか? それだけのために来たと言うのですか!」

「ああ」

「アレックスさまは、あなたは馬鹿です」

「ああ」

「本当の本当に大馬鹿ものです」

 私は、アレックスの胸を借りて大泣きしました。

「ああ、僕は馬鹿だな。ローラ、君のことを考えただけで、他のことは一切考えずにここまで来てしまった」

「アレックスさま......」

 私とアレックスさまは、互いに見つめ合いました。

「あの告白の返事を聞かせてくれないか?」

「私は、私はアレックスさまのもとへは行けませんわ」

「どうして?」

「そうだ、ローラは婚約者だ」

 エドガーが何か言っているけど、無視をする。
 私は、これまでため込んでいた気持ちのすべてアレックスにぶつけた。

「私は婚約破棄された身です。それに王妃となる勉強をして来ていませんわ。そんな女が、王妃になれば公爵家だけではなく、アレックスさまにも迷惑をかけてしまいます」

 他にも、ため込んでいた気持ちをぶつける。

「なんだ、ローラはそんなことを悩んでいたのか」

 アレックスは、笑いながら答えた。

「何を笑っているのですかっ!」

「ローラ、僕はね。僕は、君だけがいれば良いんだ。君さえ隣に居てくれれば、それだけでいい、他は望まない。王位が邪魔になるというのなら、僕はそれを放棄しよう。ローラが隣にいてくれるだけで、僕は幸せなんだ」

「ア、アレックスさまっ!」

 満面の笑みを浮かべたアレックスは、どこかずかしそうにそう言いました。
 私とアレックスは、また見つめ合いました。

 そして、次第に距離は近づいて、互いに抱きしめ合いました。
 私のために、全てを失っても良いと言うアレックスにとても嬉しくなりました。

 私だけの王子さま。
 白馬の王子さまです——。
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