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5. 様子のおかしい未来の大魔術師様
しおりを挟む王立魔術学院は、6年制の学校。
現在、5年生の私はあと1年で卒業を迎える。なので、実はそれまでに進路を決めなくてはいけない。
また、最終学年は進路によって選択する授業も変わってくるので、その日は進路希望調査表が手元に配られた。
「はぁ……どうしよう」
私は今、その配られたばかりの進路希望調査表の紙を握りしめてため息を吐いていた。
そんな私の前にルシアンがやって来る。
「すごいため息だな」
「だって、進路が決められないんだもの」
私が不貞腐れながらそう答えると、ルシアンは私の手元の紙を見て納得したように頷く。
「進路か……結局、お前はこの5年間、何をやってたんだろうな?」
「……よ、余計なお世話よ」
卒業後の進路は大魔術師への道を歩む事が当然のように決まってるルシアンは、今日も嫌味ったらしい。
(進路に悩む必要が無くて、う、羨ましいなんて思ってないわよ……!)
そんな私の様子を見たルシアンが少し真面目な顔をして言った。
「なぁ、フィーリー」
「何よ?」
「卒業後の進路が心配なら、俺の直属で働くのはどうだ?」
「お断りします!」
私は即答する。
卒業後に魔術師の道を選べは自然と上司は大魔術師のルシアンとなるけれど、何を好き好んでルシアンの直属で働かなきゃいけないのよ?
(それに、私は力を隠してるから魔術師として働くのは無理!)
「ははは、だろうな! フィーリーならそう言うと思ったよ」
「?」
即答で断られているのに何故かルシアンは嬉しそうだ。
「でも、まぁ、まだ卒業まで時間はあるからな。その頃にはお前の属性も分かってるかもしれないし」
「……!」
「よし、フィーリー、俺はいつでも勝負出来るからな! ドンと来い!」
ルシアンはすごくいい笑顔で言い切った。
「だ、誰が! ……ドンとなんて行かないわよ」
「ははは、照れるな、照れるな」
「違うわよ!?」
ルシアンはとことん、私と勝負がしたいらしい。
本当にブレない人だ。あと、妙に前向き。
「……まぁ、いいわ。いざとなったら私は実家に帰るもの」
「え?」
「魔術師になら……なれないなら、家の手伝いの為に実家に戻れば済む話だからね」
私の家は店をやっている。
その手伝いでもしながらのんびりと過ごし───
「実家に戻る……だと?」
「そう……よ?」
そう答えたら、何故かルシアンの機嫌が見るからに悪くなった。
心做しか身体も震えている。
(こ、怖っ……)
力が漏れだしてその辺を燃やし始めてしまいそうな危うさと怖さがある。
な、何で!?
「ルシアン? お、落ち着いて?」
私は必死にルシアンを宥める。
…………ルシアンが、その辺の物を燃やし始めたら私は水を出せばいいかしら?
(って、違ーーう!)
焦りのあまり私の思考もとっちらかって来た。
(ルシアンのバカー!!)
「……フィーリー……つまり……お前は俺の前から逃げるのか?」
ようやく口を開いたルシアンの声はとても低かった。
「へ? 逃げ……?」
「駄目だ!! 絶対に実家には戻らせない!」
「え? いや、待って? 何でルシアンに指図されるのよ? し、しつこいわよ!」
「……だ、駄目なものは駄目だ!」
ルシアンは全く聞く耳を持ってくれない。
(何というしつこさなの!)
ここまで執着されるくらいなら、私の属性明かして、コテンパンにのしちゃってもいいかしら?
なんて考えてしまったけれど私は思い直す。
(いえ……それはダメ)
このプライドの高そうな未来の大魔術師様、今、この場でコテンパンにのしちゃったら相当落ち込みそうなんだもの。
(ルシアンが立ち直れなくなってしまったら困るわ)
未来の大魔術師様に何をしたと迫られるのはごめんだ。
「しつこくて結構! だが、お前……」
ルシアンにジロっとした目で見られる。
「な、何かしら?」
「……今、何かものすごい失礼な事を考えていないか?」
「…………!」
私の心の中を読んだのかと思うほど的確なその言葉に驚いて、思わず口をあんぐり開けたまま固まってしまった。
(え、やだ。何なの? 野生の勘!? 未来の大魔術師様、ますます怖い!)
「その顔。失礼な事を考えていたな?」
「い、嫌だわルシアンったら。気にしすぎよ」
私はニッコリ笑って誤魔化す。
「いや……俺は騙されない。フィーリーのその顔は絶対怪しい……怪しい事を考えている時の顔だ……!」
「!」
(騙されてよ!!)
困った。ルシアン、全然騙されてくれない。
あと、なんて人聞きの悪い事を言う未来の大魔術師様なの。酷い!
「…………」
「…………」
しばらくの間、私達はそのまま互いにじっと見つめ合う。
「……くっ! か……」
そして、先に睨めっこに耐えられなくなったのはルシアンの方。
何かを言いかけてパッと私から思いっ切り顔を逸らした。
「か?」
「っっ!! な、何でもない!!」
そう答えるルシアンの顔は何故か真っ赤だった。
「……? ルシアン。顔が赤いわよ? まさかあなた、ずっと息でも止めていたの?」
「っっ!! そ、そんなわけあるか!! それはさすがの俺も死ぬ!」
ルシアンはますます真っ赤になって叫ぶ。
「そうよねー……?」
「っ! おま……お前って奴は……!」
「ルシアン? やっぱり何か変よ?」
「へ、変じゃない!」
ルシアンはぷいっと横を向いた。やっぱり耳まで赤い。なのにここまでムキになる所が変だと思うのだけど……
私は内心で首を傾げる。
「と、と、とにかくだ! フィ……フィーリー! 俺はま、待ってるからな」
「……え?」
そう言ったルシアンの顔が思いの外、真剣で私は思わずドキッとしてしまう。
紅い瞳に思わず吸い込まれそうになる。
──待つ?
って、何を!?
「さ、さて、次の授業の準備しないとな」
それだけ言ってルシアンは顔を赤くしたまま、そそくさと自分の席へと戻って行く。
「?? 何なのよ……?」
絡まれるだけ絡まれてその場にポツンと残された私は、何が何だか分からなかった。
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